「ザ・タウン」「ヒア アフター」 巨匠から俊英へ──いま受け継がれる名監督へのバトン

 数々の傑作を世に送り出し、今なおその意欲を衰えさせていないクリント・イーストウッドは、自作を通じて私たちにずっと問いかけてきた。誇りとは何か、良心とは何か、命とは、愛とは……。そして今回、「ヒア アフター」で彼は、与えられた生を全うすることの尊さを描き、新たな感覚で“生きること”を問うているように思う。生まれて生きて死ぬ。人生はかくも簡単なようで、難しい。その難しさをいやというほど知っている御年80歳のイーストウッドが、真正面から向き合った生と死。強く温かい想いが心を打つ作品だ。

 一方、イーストウッドに比べれば若き精鋭ともいえるベン・アフレック。クリエーターとしての手腕がすでにハリウッドでも注目の若き彼は今回、望まない人生(=他人を欺き傷つける人生)をリセットする男の生きざまと葛藤を「ザ・タウン」に込めた。緊張感の高いクライム・アクションでありながら同時に、登場人物ひとりひとりの背景/心理描写に長けた人間ドラマが繰り広げられる本作、すでにいぶし銀のごとき味わいを醸し出している。これは、イーストウッドの十八番ではなかったか。

 物語のテイストこそ違えど、人生どころか日々の生活に翻弄される私たちに、「本気で生きよ」「懸命に生きよ」と、2つの作品が揃って強く呼びかけてくる。この両作が同時期に公開されるのは、きっと偶然ではないように思う。巨匠から俊英に、映画への想いは確実に受け継がれている。両作品を観て彼らが込めた“生きる”ための真のメッセージを、あわせて受けとめたい。
 3人の登場人物がそれぞれに体験する「死」の中でも、とりわけ少年マーカスの、切実さを伴う死の探求(亡き双子の兄との再会を求める)に、胸が締めつけられる。そこにいるはずの人が、ある日突然いなくなってしまった時の喪失感、残された者の悲しみが、小さな胸をパンパンにする。だから、彼が救われた時には、心から安堵した。そして自分なら? と考えた。常々、自分に訪れる死よりも、大切な人に訪れる死を想像した時の方が恐怖は大きいと感じている。けれど、そう感じられるということは、正しく人とつながっていることの証でもあろう。結局のところ、人は誰かとつながることで生きていくのだから。
 学術都市の印象が強いマサチューセッツ州ボストンが全米屈指の犯罪都市でもあったことがあるという事実に、まずはビックリ。出てくるのも「ハート・ロッカー」のジェレミー・レナーに「マッドメン」のジョン・ハムといった注目株で、いずれも濃いキャラを演じ切っているのもイイ感じ。でも、やっぱりキモはストーリー! 陽の当たらぬ世界で生きる男たちの寂しさやわびしさ、そこでガッチリと築かれている絆と友情、そんななかで出会った男と女の純愛と……いちいちグッと来る要素をよどみなく詰め込んだ巧みな手腕は拍手モノ。アメリカでのヒット&絶賛もうなずける!

 イーストウッド最新作「ヒア アフター」には、もう1人の偉大なる“巨匠”の存在が関わっている。その名は──スティーブン・スピルバーグ。  喪失感を抱えた3人が出会う物語、“生きる”ことの本質を問うピーター・モーガン(「フロスト×ニクソン」)の脚本に感銘を受けたスピルバーグは、自信たっぷりに「誰が監督するべきか、それははっきりしている……イーストウッドだ」と宣言したという。  こうして生まれた本作は、「硫黄島2部作」以来となる2人の巨匠のコラボレーション。ディザスタームービーさながらの大津波シーンや、霊能力者、ビジョンという製作総指揮を務めたスピルバーグならではの要素が、イーストウッドの手にかかり、圧倒的なリアリティとメッセージ性を持って迫ってくる。 頂点を極めた監督同士のひとつの到達点として、見逃せない1本だ。
 ベン・アフレックが監督・脚本・主演を務める「ザ・タウン」は、言うまでもないが、アフレックの“ワンマン”映画ではない。 宿命から抜け出そうとする銀行強盗団のリーダー=ダグ(アフレック)にとって、最大の敵ともなり得る強力な仲間たち、 そして敵対するFBI捜査官を演じるのもまた、個性豊かな若き才能たちである。  ダグの裏切りを許さない残忍なジェムには、「ハート・ロッカー」でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたジェレミー・レナー。ジェムの妹でダグの元恋人クリスタには、「ゴシップガール」のセリーナ役でブレイクし、いまやファッションリーダーの1人として注目を集めるブレイク・ライブリーが扮している。さらに、ダグに迫る捜査官として登場するのは、エミー賞ドラマ「MAD MEN マッドメン」で堂々主演を張るジョン・ハムだ。  「ザ・タウン」の最大の見どころは、アフレックを筆頭に繰り広げられる、こうした注目俳優たちのコレボレーションなのだ。