「J・エドガー」特集:監督クリント・イーストウッド × 主演レオナルド・ディカプリオ [8人の大統領が恐れた男。]

 「荒野の用心棒」を筆頭に、傑作マカロニ・ウェスタンの主演を次々と飾り、「ダーティ・ハリー」シリーズではハリー・キャラハンという、それまでの映画界には見受けられなかったタフでニヒルな新たなキャラクター像を確立したイーストウッド。アクション界に新風を吹き込んだスターはやがて監督業にも進出し、92年の監督&主演作「許されざる者」では、アカデミー賞監督賞の受賞を果たす。奇をてらわず、監督としては非常にオーソドックスな演出手法をとりながらも、人が持つ業や背負う人生を見つめる眼差しは常に真摯かつ真剣。実力派監督として、「ミスティック・リバー」(アカデミー賞主演男優賞、助演男優賞受賞)、「ミリオンダラー・ベイビー」(アカデミー賞作品賞、監督賞ほか全4部門受賞)、「チェンジリング」(カンヌ国際映画祭パルムドール候補)、「インビクタス 負けざる者たち」(ゴールデン・グローブ賞監督賞ノミネート)ほか、次々と傑作を発表し続ける、まさに生きる至宝だ。
 スターから名優、そして巨匠となったイーストウッドが、その才能に惹かれて最新作に迎えたディカプリオもまた、映画ファンから熱い信頼を受ける存在である。

 14歳から活躍し、知的障害を抱える少年を演じた「ギルバート・グレイプ」で、わずか19歳にしてアカデミー賞助演男優賞にノミネート。ジェームズ・キャメロンの大ヒット作「タイタニック」でついに世界的スターの座をつかむが、彼はそんなアイドル的人気には甘んじなかった。00年代に入ってからは、スティーブン・スピルバーグの「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」、マーティン・スコセッシの「ギャング・オブ・ニューヨーク」「アビエイター」「シャッター・アイランド」など、骨太かつ映画通好みの作品への出演を選び続け、"演技者"としての自分を追求し続けていく。  そんな"最高の巨匠"と"若き名優"が、いま歴史的な融合を果たす。生涯を通し独自の正義と信念を貫き、時に真実さえも曲げることをためらわなかった、ひとりの男ジョン・エドガー・フーバーの真の姿を描く実録ドラマ大作「J・エドガー」。誰もが待ち望んだ映画史上に残る"大事件"を目撃せよ!

 J・エドガー=ジョン・エドガー・フーバーとは、日本ではなじみが薄いが、アメリカでは誰もが知る、そして存在を恐れられていた人物である。

 29歳でアメリカ連邦捜査局FBIの局長に就任し、死去するまで約半世紀にわたって局長を務め上げた、まさに"FBIの顔"。現場検証、指紋採取、筆跡鑑定、そして捜査情報のデータ化と、現在の犯罪捜査の基礎を築いた功績を残し、国民的英雄と賞賛される一方で、圧倒的な権力と情報収集力で政治家や活動家の言動を監視。そうした秘密情報をファイルにまとめ、ハリー・トールマン、ジョン・F・ケネディ、リチャード・ニクソンなど、実に8人の大統領に向かってファイルの存在をちらつかせて、"Mr.アンタッチャブル"として彼らを従えるまでの存在にのし上がる。

 イーストウッドは、語るのもタブー視される彼の軌跡のみならず、母からの常軌を逸した愛情、FBI幹部クライド・トルソンとの関係、そして、苦悩を抱えながらも、威厳ある長官であらねばならないことから生じる重圧にまで、エドガーというひとりの人間に肉迫する。それに応えるように、ディカプリオはフーバーの青年期から死を迎えるまでの"経年変化"を、特殊メイクを駆使して見事に体現。イーストウッドとディカプリオ2人の才気が、本作を単なる実録劇では片付けられない、光と影が交錯する至高の人間ドラマへと昇華させている。

 アメリカ史のタブー、そして誰もが恐れたフーバーという"怪物"を、初めて真正面から取り上げたこともまた"事件"なのだ。