鈴木京香、「いい感じ。このまま行けばいいんじゃない」自らにかけるポジティブな言葉!【インタビュー】
2026年10月3日 10:00

第76回NHK全国学校音楽コンクール課題曲として制作された「いきものがかり」の楽曲に着想を得た映画「キリコのタクト YELL」。本作で、魔法のタクトで生徒を輝かせる伝説の高校音楽教師・原田貴理子(通称:キリコ)を演じたのが俳優の鈴木京香だ。役柄へのアプローチと、彼女自身の豊かな俳優人生の軌跡に迫った。(取材・文:磯部正和/撮影:間庭裕基)
■引っ込み思案な自分とは正反対。“伝説の教師”へのアプローチ
映画「キリコのタクト YELL」で鈴木が演じた原田貴理子は、生徒の心に真正面からぶつかっていく熱血教師だ。昨今の教育現場では敬遠されがちなほど、泥臭くて真っ直ぐな大人の姿がそこにある。そんなエネルギーの塊のようなキャラクターを前にして、彼女はどのようにして役の輪郭を掴んでいったのだろうか。

スクリーンで圧倒的なオーラを放つ彼女だが、意外な素顔を明かす。「私は引っ込み思案で、人の心にざっくばらんに踏み込んだり、遠慮なく質問したりするのが苦手なタイプなんです。本当は声をかけたい場面でも、つい遠慮してしまうことが多くて。だからこそ、表裏がなく、自信に満ち溢れている貴理子の姿勢にはとても憧れましたし、演じていて清々しかったです」と、他者と対峙し本音でぶつかるヒロインの生き様には、強く惹かれるものがあったという。
特有の関西弁を操る点も、本作の重要なエッセンスだ。そこでも完璧なイントネーションを追求すること以上に、大切に守り抜いた信念があった。
©︎映画「キリコのタクト YELL」製作委員会■魔法のタクトが生み出した、生徒との一体感
本作において避けて通れなかったのが、専門的な音楽スキルの習得だ。特に合唱団を束ねる役割には、普段の芝居とは異なるハードルが存在した。

もがきながら臨んだ本番のステージ。そこには、今までに味わったことのないような一体感が待っていた。
数多くの視線を一身に浴びる教壇という立ち位置。過去の教師役では、前に立つだけでも特有のプレッシャーを感じていたと振り返る。
©︎映画「キリコのタクト YELL」製作委員会■「人生は短い」。無駄を愛し、好奇心の赴くままに生きる
劇中、キリコが幾度となく口にする言葉がある。「人生は短い」。若者たちに向けたそのメッセージは、成熟した大人たちの胸にも深く突き刺さる。その言葉の重みを、鈴木自身はどう受け止めているのだろうか。

そうした境地に達したのは、数えきれないほどの経験を積み重ねてきたからこそ。一日の長さを無限のように感じていた学生時代を経て、多忙な日々の中で季節の移ろいの早さを痛感している。
有限な時間を生きるうえで、人はつい効率や生産性ばかりを追い求めてしまう。しかし鈴木の時間の使い方は、驚くほどしなやかで自由である。一見すると役に立たないと思える寄り道が、実は豊かな土壌を育んでいるというのだ。
©︎映画「キリコのタクト YELL」製作委員会■正解がないからこそ楽しい。独自の表現者としての歩み
常に前を向いて歩み続ける彼女だが、俳優という仕事は決して平坦な道のりばかりではない。厳しい壁にぶつかったときに、どうやって自分自身を奮い立たせているのだろうか。

デビュー当時を振り返れば、何もできない自分への歯痒さでいっぱいだった。それでも、不思議と悲壮感はなかったと微笑む。
絶対的な評価基準が存在しない芸術の領域。その曖昧さに苦しむ表現者も決して少なくない。だが、鈴木がこの世界を心から愛せる理由は、まさにその“答えのなさ”にあるようだ。

さまざまなプレッシャーを軽やかに受け流し、今、この瞬間を誰よりも楽しんでいる。最後に、もし今の自分自身に向けてエールを送るとしたら、どんな言葉をかけるのかを尋ねた。
衣装クレジット ブラウス、パンツ、ベルト:ファビアナ△フィリッピ/コロネット。 イヤーカフ、リング:ヒロタカ/ヒロタカ△表参道ヒルズ。 スタイリスト:藤井享子(banana)常に自然体でありながら、内なる情熱と好奇心を絶やさない鈴木京香。スクリーンに映し出される原田貴理子の力強い眼差しには、彼女自身が紡いできた豊かな人生の時間が確かに息づいている。正解のない世界でタクトを振り続ける彼女のしなやかな生き様は、観る者の背中を優しく、そして力強く押してくれる。
©︎映画「キリコのタクト YELL」製作委員会「キリコのタクト YELL」は10⽉2⽇より新宿ピカデリー他で全国公開中。
執筆者紹介
磯部正和 (いそべ・まさかず)
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。
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