藤井道人監督、池田千尋監督らが語る「映画監督が仕事を続ける方法」
2026年2月27日 10:00

日本映画監督協会の創立90周年を記念した記念事業「映画未来 DGJ NEXT ERA」で2月26日、「NEXT10 監督として生き抜くために!」と銘打ったシンポジウムが都内で行われ、日本映画監督協会理事長の本木克英監督を司会に、藤井道人監督、池田千尋監督、のむらなお監督、松倉大夏監督、山田兼司プロデューサー、文化庁参事官の田村順也氏が出席した。
日本映画界・映像業界の第一線で活躍する30代から40代の監督、若手監督、プロデューサーらが一堂に会し、日本映画の現在地と今後10年を見据えた課題・展望について議論することを目的とした本シンポジウム。この日は「映画監督が仕事を続ける方法」「生成AIとの向き合い方」「労働環境の改善、監督の権利」という3つのテーマをもとに意見を交わした。

かつての「撮影所システム」が崩壊した現代では、監督になるための明確なレールが存在しない。そんな中、自主制作からスタートし、そこから徐々に足場を固めていったという藤井監督は「なぜ自分が続けてこられたかと考えると、人とコミュニケーションをとるのが大好きだったから。いろんな人たちとご飯を食べたりして。今は何が面白いのか、次は何をするのか、考えることを欠かさなかった。そして自分の“組”であるスタッフを信じ続けたこと。あとは自分に飽きないこと。同じことは二度はやらないというのを自分に課していて。やったことがないことをやって、それでキャリアが終わってしまったとしても、それなら仕方がない。自分で責任をとりたいという思いで時代劇やSFをやってきました。そこからまた新たな人との出会いがあってここまで続けてきた」と述懐。「映画監督だからといって寝てても仕事はこない。だから最初の頃は自分たちで営業をして。パチンコ番組やら映像の仕事でもどんな仕事でもやらせてもらって。そのお金で自主映画を撮っていました」と話す。

一方の池田監督は20代でデビューを果たしたものの、その後が続かなかったという。「わたしは学校に行っていただけで業界につてがなかったから、デビュー作を撮った後、誰からも声をかけてもらえなかった。そこからどうやって生きていくか考えたんです」と切り出し、「わたしは30歳まではバイトをしていたんですけど、それからは監督1本でやっていこうと思って、バイトをやめて。そこからは知り合いに仕事がないですかと連絡して、メイキングのお仕事や、会社のPVなど、とにかく現場に参加することで、少しずつご縁をいただいた。その時は親に借金をして生活していたんですが、コロナ禍以降、少しずつお仕事が増えていって。40を越えたあたりから生活の心配をしなくても生きていけるようになった。ただ映画を1本撮るだけではずっと生きていくことはできない。だからどんな小さな作品でもご縁をつなげていこうと思って。それくらい働かないと生活は安定しないんです」とその現状を語った。
「ゴジラ-1.0」「怪物」「8番出口」を手がけるなど、海外の映画祭事情に詳しい山田プロデューサーは「世界中のクリエイターはみんなお金集めに苦労して映画をつくっている」と切り出すと、「海外に行くと、映画祭がインターフェイスとして機能しているんですけど、日本人の作家があまり来ていないなと感じます」と指摘。そこでクロエ・ジャオやライアン・クーグラーら賞レースをにぎわすトップランナーの例を挙げながら「彼らに共通しているのは自主映画からはじまっているということ。たとえばクロエ・ジャオの場合、『ザ・ライダー』という自主映画がカンヌ映画祭で上映されて、『ノマドランド』の映画化権を持っていたフランシス・マクドーマンドが彼女の才能に惚れ込んで、オファーしたという経緯がある。映画祭にはそういうエコシステムがある。映画作家を目指す人にとって自主制作でつくるということは大切なことだと思う。お金をどう集めるかという苦労はありますけど、そこには圧倒的な自由があって、作家性を追求していくことができる。そこが世界につながっていくんだと思う」と果てしない可能性を強調した。

続いてのテーマは「生成AIとの共存」について。ハリウッドではストライキの火種にもなった生成AIの台頭だが、脚本のアイデアを固めるための壁打ちに利用したり、ロケハンに行く前のイメージを共有するためなどにAIを使用していると語る日本の若手・中堅クリエイターたちは、意外にも「軽やか」にAIと付き合っているようだ。
池田監督が「あくまで『こうしたい』という芯をこちらにあるようにすれば、クリエイターとしての指針や軸が奪われることはない」と語ると、山田プロデューサーも「AIが用意したものに対し、“ラストワンマイル”をどう最後に加えられるかによって、最高の作品になるかが決まる。もちろん権利の侵害とか、雇用を守るという最低限のことは必要ですが、まさに日本のフィルムメーカーこそ、AIを駆使してもいい。そこでローバジェットでもハイクオリティな作家性にあふれた作品を生み出し、世界を席巻するといったことがあってもいい」と期待を込めた。
そして3つ目は「労働環境の改善、監督の権利」について。「わたしはこれまでリクープ(制作費を回収)できる作品にしなければいけない。ヒットさせたいと思ってやってきた」と語る池田監督だが、かつて低予算作品を手がけた時のことを振り返り「スタッフには安い賃金で苦労をかけました。だからなるべくバジェットを増やしていかないとスタッフにお金が渡らないんだという思いでここまでやってきた」と明かす。だがそれが2億円を超える規模の作品であっても、感触として豊かになったのか分からない、と正直な思いを明かす。
その例として現場での弁当の予算について説明する池田監督。「これだけ物価が上がっている中でも、お弁当の予算は変わらない。これは笑い話みたいな本当の話なんですが、あるお弁当屋さんの鮭の大きさがどんどん小さくなったんです」と明かし、会場を沸かせながらも、現場のギャラの配分である「七五三」(チーフ、セカンド、サードのギャラの配分)という慣習が立ち行かない現場も出てきていると指摘する。
「それでも皆が、作品づくりへの思いを持っているから一緒につくってくれる。それは監督も同じで、それこそ本当に監督のギャランティが実は一番安いんじゃないかというぐらい。私は映画美学校で講師もさせていただいてるんですけど、これから監督を目指してる子たちに『監督をやっていくのはお金が本当に大変だから、そこだけはどうするか自分で考えなきゃいけない』という話をしなければいけない現状は非常に苦しい」とせつせつと語る。

映画を企画する際、本来は完成した脚本を精査した上で、もしその脚本通りに撮るのならば、そこから必要な制作費を計算し、その金額を準備する必要がある。だがしばしば、最初に予算の枠を決めてしまい、その予算に見合わない脚本を映像化しようとし、予算が足りないまま企画がスタートしてしまう、という事態も少なくないという。脚本家としても活躍する池田監督は「すると最終的にどう予算内に収めていくかということになり、脚本を直していくんですが、それがいつも時間ギリギリでやっていくというのが現状。現状、プロデューサーの皆さんと一緒に脚本をつくる時に、どのようにして予算内で収まる本をつくるようにするか、ということを考えることが課題」と指摘する。
近年、映画業界でも働き方改革が進んでいるが、予算が伴わなければ現場の首を絞めてしまう。のむら監督も「大きい規模の作品だと労働環境も改善されているようになってきたと思うんですけど、わたしくらいの作品の規模の作品だと、12時間しか働いちゃいけないとか、撮休は絶対に2日作らなきゃいけないと言われた時に、予算が上がっていない状態でそれを言われると『そんなんじゃ絶対に撮りきれない』『作品のクオリティが落ちてしまう』と思ってしまう。でも24時間働くなんて未来のためにやらない方がいいというのは絶対そうだと思うし……。だから予算が増えるといいなと思うんです。あとシンプルにギャラが安いです」とぶちまけて会場を沸かせた。
また会場にいた元監督で、現在はラインプロデューサーを担当しているという男性からはこんな意見も寄せられた。「協会の皆さんには、監督のギャラを上げるという運動をやっていただきたい」と切実な願いをぶちまけると、「監督のギャラが低いからスタッフのギャラが上がらないんです。やはり監督よりも高く払うわけにはいかないので、押さえ込むのが現状。そして今は配信が(潤沢な予算で)スタッフを拘束するという事態が起きていて、従来からの映画会社やテレビドラマの現場では深刻なスタッフ不足に陥っています。結果として現場には、極端に年齢の高いスタッフと、学校を卒業したばかりの新人しかいない。先ほどお弁当の話が出ましたが、削れるところまで削った上で予算をはめようとすると、最後は人を切るしかなくなってしまう。だからちゃんと監督のギャラを上げて、健全にスタッフを育てて、いわゆる世代交代を進めていかないと、遠くない将来、現場にスタッフがいなくて映画が撮れませんという事態にならないかと危惧しています」と提言するひと幕もあった。