【「サスカッチ・サンセット」評論】サスカッチ、原始と現代が交わる場所に生きる者
2025年5月25日 08:00
Copyright 2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved初主演作「ゾンビランド」(2009)で注目されたジェシー・アイゼンバーグは、デヴィッド・フィンチャー監督作「ソーシャル・ネットワーク」(2010)のマーク・ザッカーバーグ役でオスカー候補に。「グランド・イリュージョン」(2013)でマジックチームを率い、2016年にはヴィランとなってDCに参戦、レックス・ルーサーを演じた。
一方、自らの脚本を音声ドラマに仕立ててオンラインで披露し、ジュリアン・ムーアを迎えて世代間ギャップに斬り込んだ「僕らの世界が交わるまで」(2022)で監督業にも進出。ふとした瞬間に湧き上がる抑えきれない痛みを見事に表現した脚本でオスカー候補となった「リアル・ペイン 心の旅」(2024)ではキーラン・カルキンに《助演男優賞》をもたらした。現在はポール・ジアマッティ、ジュリアン・ムーア共演のミュージカル・コメディを準備中だ。
目覚ましい活躍を続けるジェシーが製作と出演を快諾した「サスカッチ・サンセット」は、アメリカのUMA(未確認生物)の一種ビッグフット、先住民がサスカッチ(毛深い男)と呼ぶ類人猿の姿を、四季を通して描く試みだ。監督、脚本は、幼き日にビッグフットを撮影したとされる「パターソン・ギムリン・フィルム」を見て以来、サスカッチに魅せられたデヴィッドとネイサンのゼルナー兄弟。コロラド州生まれのふたりは、カリフォルニア州レッドウッド国立公園で撮影を敢行、壮大な大自然に生きるサスカッチの日常に現代社会の断片を織り交ぜた現代の奇譚を作り上げた。
4人のサスカッチにはユニークなキャストが顔を揃える。年長で群れを率いるアルファ雄(オス)に監督コンビの弟ネイサン。リーダーに寄り添うメスに「マッドマックス 怒りのデスロード」(2015)でイモータン・ジョーに囚われたワイブスのひとりを演じたライリー・キーオ、ふたりの息子に「ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ」(2017)で小兵ながら残忍な殺し屋を演じたクリストフ・ゼイジャック=デネク、そして青年期にさしかかったオスにジェシー・アイゼンバーグという顔ぶれだ。全身毛むくじゃらの4人に当然台詞はない。瞳の動きに細やかな仕草と唸り声を駆使してサスカッチに成りきっている。
山が連なる大自然の原っぱに座り込んで黙々と葉を食む。リーダー夫妻の交尾が終わると、4人揃ってリズムを合わせて大樹を叩く。どこかに自分たちと同じ群れが居るかもしれないからだ。歩いた先でホオズキを見つけると実がなくなるまで食べ尽くす。発酵果実で酩酊し、森の中で目にした赤いキノコで食あたりを起こすことも。川に石を放り投げて魚を捕まえると魚卵を飲み込む。夜になると急ごしらえのねぐらで横になる。時折、オスは唯一のメスの尻を追いかけるが、体内の異変を気にする彼女は断固として拒む。その様には愛おしささえ感じるから不思議だ。
旅の途中、樹木に「×」のマーキングを見かけたり、舗装された道路に興奮したり。川には大きな丸太が横たわり、雪の下には罠が仕掛けられている。自分たちではない何者かの痕跡は無人のテントにも残される。ラジカセを見つけたメスが再生ボタンを押すと…。
自然界の生きものは、人との関わりも、
都会の摩天楼とも、隔たり生きる。 (作詞:デヴィッド・ゼルナー)
食べて、歩いて、休んで、時には交わって、夜になると眠る。ただ進み続けるその旅には、容赦ない自然の脅威があり、自分たちとは異なる何者かの影がある。原始と現代が交わる場所で彼らが目にする光景をどう受け止めるのか。ライリー・キーオが歌うエンディングソングに複雑な想いがこみ上げる。
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