【「ゼロの音」インタビュー】川谷絵音×萩原みのり×老山綾乃 変更したラストシーン裏話、周囲の反響は?

2023年5月24日 09:00

(左から)萩原みのり、老山綾乃、川谷絵音
(左から)萩原みのり、老山綾乃、川谷絵音

35歳以下を対象とした第1回「Hulu U35 クリエイターズ・チャレンジ」でグランプリを受賞した老山綾乃が監督を務めたHuluオリジナル映画「ゼロの音」が、独占配信されている。描かれるのは、局所性ジストニアという病によって音楽の道を絶たれた青年が、憧れの人の死に直面したことをきっかけに、さまざまな人と出会い人生を再生していく姿。低音のチェロの響きがよく似合う、優しい作品だ。

主演を務めたのは、「indigo la End」「ゲスの極み乙女」「ジェニーハイ」などさまざまなバンドで活動する川谷絵音と、映画「街の上で」「成れの果て」などの作品に出演する女優の萩原みのり。初共演とは思えないほど打ち解けていた川谷と萩原、そして、「Hulu U35 クリエイターズ・チャレンジ」でグランプリを獲得した「まんたろうのラジオ体操」に続き、本作が2作目となった老山監督に話を聞いた。


【あらすじ】

チェリストの大庭弦(川谷)は局所性ジストニアと診断され、これまでのようにチェロを弾けない身体になってしまう。音楽の道をあきらめ、中途採用された市役所の生活福祉課で働き始めたものの、無為な日々を過ごす弦。そんなある日、同僚の上国料いと(萩原)とともに訪問した家で、憧れていたチェロの巨匠・徳永治(山路和弘)と偶然出会う。ほどなくして徳永はチェロを残して他界し、身寄りのない徳永のチェロが処分されてしまうことを知った弦は、ある行動を起こす。


Huluで配信中
Huluで配信中

――老山監督は、2022年3月に行われた第1回「Hulu U35 クリエイターズ・チャレンジ」の授賞式でグランプリを獲得しました。当時から「次は楽器の話を撮りたい」と話していましたが、本作の題材はいつ頃思いつきました?

老山監督:「まんたろうのラジオ体操」の撮影が終わった後、ぼんやりと次の作品のことを考えたときに、楽器の作品を撮りたいと思いました。わたし自身、楽器は全然弾けないのですが、興味があって。チェロは人の声に近い音域であること、また、楽器のかたちが人に近いと言われていることを知って、チェロを描きたいなと思いました。

日本テレビ「真相報道 バンキシャ!」のADをやっていたときに、渋谷などの街に行き、人々の声を聞く取材をよくしていました。それをテレビで取り上げるときには、見出しになりやすいような、観た人の印象に残りやすい強いエピソードが選ばれることが多くて。それは自然なことで、テレビの役割として大事なことだと思っています。ただ、強烈な言葉に隠れてしまう存在を私は映像に残したいと思って。すごく不幸でもなければすごく幸福でもないような、強い言葉に隠れてしまう存在を表現したいと思いました。

――4月27日からHuluで独占配信されています。配信後、それぞれ反響はありましたか?

老山監督:私はこっそり作品の名前をエゴサして感想を読んでいます。嬉しかったのは、川谷さん演じる大庭弦が本当に市役所にいそうというコメントです。監督として、俳優さんが褒められていることが一番嬉しいです。

川谷:僕は家族が見てくれたみたいです。母と電話していたら、父が何回も見ていると聞きました。音楽では一通りの親孝行をしてきたので、今回新しいことができて良かったです。

萩原:私の祖父母が出演作品を毎回見てくれるんです。ハードな作品もあるので、本当に見るの?って聞くこともあるのですが、どんな作品でも必ず見てくれます。今回は「久しぶりにハラハラしなくて良かった」って言われて、ちょっと泣きそうになりました(笑)。

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――主演のお二人のキャスティング理由を教えてください。弦を演じた川谷さんに対して、老山監督はお手紙を書いたそうですね。

老山監督:大庭弦という役は、音楽のアーティストのかたに演じてもらいたいと思いました。楽器が主人公に寄り添う作品だったので、楽器が馴染む人というか。川谷さんは絶対に音楽を手放さなさそう、と個人的に常々思っていて、お手紙にもそういったことを書きました。私からのラブレターというか、「あなたにお願いしたいです」という思いを2枚くらいに綴りました。

――川谷さんは主演のお話を聞いてどう思いましたか?

川谷:まず、チェロが弾けるんだって思いました。もともとチェロが好きなんです。チェロを弾く方って周りが見えていて、アレンジを担当することが多くて、僕のバンドの弦のアレンジをしてくれているのもチェロの方です。低音楽器をあまり弾いたことがなかったので魅力的だったのと、局所性ジストニアというテーマも音楽家としては身近な題材なので、やりたいなと思いました。

――長編映画の主演は今回が初めてでした。演技をすることに対してのハードルはありましたか?

川谷:めちゃめちゃありました。いつもはちょっとだけ出る役とか、あとは嫌な人の役が多いんです。みんながそう思っているんでしょうね、僕のことを(笑)。でも、今回は台本を読んで温かい作品だし、今までの僕にはない役だったので、やってみたいと思いました。スタジオ部屋の横にレコードを飾っている場所があるのですが、そこの一番前に監督からいただいた手紙と台本を飾っています。

老山:え、本当ですか?はじめて聞きました。嬉しいです!

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――いとを演じた萩原さんの起用理由も教えてください。

老山監督:萩原さんを知ったのは「成れの果て」という映画の予告でした。目力がすごく印象的で、何だこのかたはと襲撃を受けました。こういうお芝居をするかたが、いとという、他者を包み込んでくれるような人物を演じたらどうなるんだろうと興味がありました。

――萩原さんは出演のお話を聞いていかがでしたか?

萩原:ここ最近は癖のある役が多かったので、なんで私にいとのお話がきたんだろう、私でいいんですかっていう思いでした。いとはすごく優しい子ですが、私は優しい人の役をいただけることがあまりないので、本当に嬉しかったです。いとみたいな役を私が演じることができるって思ってくれる人もいるんだって、救われる思いでした。

――川谷さんと萩原さんは本作が初共演でした。俳優としてお互いにどんな印象を抱きましたか?

川谷:萩原さんはこれまでの役のイメージで、強めの方なのかと思っていました。

萩原:よく言われます(笑)。

川谷:でも、僕は萩原さんの旦那さん(内山拓也監督)とも仕事をしていたので会話も入りやすくて。移動中にしゃべっている萩原さんの感じと、いとの印象が近かったです。もともと明るい、優しい人なんだなと。撮影でも会話の延長線上でいられたので、一緒にやっていてとても楽でした。誰かと演技することに恥ずかしさを感じることもあるのですが、萩原さんはそんなことがない。そういう空気を出してくれるので、ありがたかったです。

萩原:川谷さんは撮影のときに「うまくいかなかったので、もう一回やりたいです」って自分からおっしゃるんです。それってすごいことだなと思います。そんなに演技の経験はないはずなのに、監督がOKを出していても、もう一回やったほうがいいっていうのが川谷さんの中にあって、それをちゃんと伝えることができる。私が関係していないシーンでもそういう姿を見ていて、俳優をメインに活動されているわけではないですが、この仕事に100%向き合っているんだなと思いました。

川谷:たぶん、もっと撮影の時間があったら100回くらいやっていると思います。レコーディングでもずっと一人でやっているので、それに近いです。自分だけで完結するならずっとやっていると思います。

老山監督:私も川谷さんのそういう姿は印象的でした。弦といとが自転車を押しながら坂道を下るシーンがあるのですが、そこで弦が「え?」と言うセリフがあるんです。本番一発目が結構投げやりな印象の「え?」で。この日は時間が押せないからと周りからも言われていて、私は現場を回すことで頭がいっぱいになっていたんです。そんなときに川谷さんが「もう1回やらせてほしい」とお願いしてくれて。川谷さんが立ち止まるきっかけを作ってくれました。

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――ラストシーンは脚本とは違う内容になったと伺いました。現場ではどんな話し合いが行われましたか?

老山監督:脚本では、弦が一人でお辞儀をして終わりでした。でも、段取りで実際に目の当たりにしたとき、あまりにも寂しくて。これで物語が終わるのはまずいなと思いました。立ち止まらなければダメだと思って、一人で考えたのですが何も思い浮かばず。川谷さんと萩原さんに「助けてください」って正直に話しました。そこで萩原さんがある案を出してくださって、それだ!って思いました。お辞儀は象徴的に作品の中にいくつか入れているのですが、弦が頭を上げることができたことは、とても意味のあることだと思います。(2人に向かって)ありがとうございました。

――今回は、共に「ゼロの音」という映画を作り上げました。それぞれ映画作りの魅力、楽しさはどんな部分だと感じていますか?

川谷:僕は後半になるにつれ、やっと映画制作の楽しさがわかってきました。実感が湧いてくるというか、最初は実感が湧く手前にいましたが、こうやったらこうなるんだって映画作りのことが少しわかるようになってきて。そうしたら撮影が終わってしまいました。

萩原:本来、お芝居の現場って“間違い”がない、“答え”がない方が面白いと思っています。私がお芝居を好きになった理由はそこでした。学生時代に100点を目指すテストが苦手で、国語の授業ではどうして答えが一つなんだろうってずっと思っていました。いろんな解釈を持ち寄ることができる場所が、このお仕事だと思っています。同じ台本でも違う風に読み取れば違うお芝居になって、各々の考えを持ち寄る場所として映画作りって素敵だなと思います。

老山監督:映画は総合芸術だと表現する方もいますが、私は総合格闘技だと思っています。今までの人生の積み重ねや経験などを持ち寄って、みんなで同じ目標に向かっていく。本当に映像制作っておもしろいなと思います。実は次回はドラマでやりたい企画が1本あるんです。家族でも恋人でもない、名前のない関係の二人が食事をする話なのですが、誰かその企画拾ってください……(笑)!

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