【製作者インタビュー】「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」こだわりの音楽、マリオの内面ができるまで

2023年4月28日 19:00

(左から)クリス・メレダンドリ氏、宮本茂氏
(左から)クリス・メレダンドリ氏、宮本茂氏

任天堂のアクションゲーム「スーパーマリオ」シリーズを、「怪盗グルー」「ミニオンズ」のイルミネーション・スタジオと任天堂が共同でアニメーション化した「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が、4月28日から公開された。北米で大ヒット中の本作について、プロデューサーを務めた宮本茂氏(任天堂株式会社 代表取締役フェロー)、クリス・メレダンドリ氏(イルミネーション最高経営責任者)に話を聞いた。

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 ニューヨークで配管工を営む双子の兄弟マリオとルイージが、謎の土管を通じて魔法に満ちた世界に迷い込む。はなればなれになってしまった兄弟は、絆の力で世界の危機に立ち向かう。マリオとルイージに加え、ピーチ姫、クッパ、キノピオ、ドンキーコングなど、原作ゲームシリーズでおなじみのキャラクターが多数登場する。北米では公開から3週連続で1位になり、累計興行収入は4億3432万9610ドルの大ヒットを記録。世界興収は8億7183万6610ドルを突破している(※4月24日現在 Box Office Mojo調べ)

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宮本氏は“マリオの生みの親”として知られている。メレダンドリ氏は、宮本氏のことを「ミヤモトサン」と呼び、お互いに似ていると感じたというものづくりへの姿勢、さらに仕事論も語り合った。

――「マリオ」は40年以上の歴史がある人気シリーズです。今までも映像化の話があったと思いますが、今のタイミングで映画化した理由を教えてください。

宮本氏:(任天堂の故・)岩田(聡)社長とよく話していたのですが、任天堂のゲーム機を持っている国や人だけでは、任天堂のキャラクターを知ってもらう場所に限りがあるなと思っていました。まずは、ゲーム以外でも任天堂のキャラクターを知ってもらおうと動き始めました。それまでは、映画化することでマリオにいろんな設定をつけてしまうと、次のゲームを作るときの制限になりかねないので、ゲームで決めること以外は決めないでおこうと映像化は避けていました。

任天堂はコンテンツを作る会社ですから、映像コンテンツも自分たちで作ろうと動き始めて、その後にクリスさんと出会いました。完成した映画を見て、映像化するっていうことはマリオたちが“人間になる”ってことなんだと実感しました。キャラクターの設定やセリフを入れることで、より存在感が出たと思います。

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――映画作りにおいて、お二人はどのように信頼関係を築いていきましたか。

メレダンドリ氏:作品に着手する前に、お互いを知る期間がありました。信頼関係まで発展させるのには時間が必要ですが、お互いにアイデアを共有し、ものづくりについての考え方やアプローチを通して信頼関係を築いていきました。“信じる”ということが重要だと思っているので、完成までの過程は順調でした。意見が大きく衝突したこともありませんでした。

宮本氏: 本当に揉めていないんですよ(笑)。なぜかというと、現場で話が食い違ったときは、クリスさんがイルミネーション側へ指示をしてくれます。例えば、任天堂のファンの方たちがこの映画を見たときに、このキャラクターは自分たちが思っているキャラクターじゃないって思わないようにしようという通達をしてくれました。任天堂のチームには、イルミネーションは映画作りのプロなので、映画好きの任天堂のメンバーが映画作りについての意見を言うよりは、ゲーム側として知っている情報を伝えることに集中しようと言っていました。持ち場をわきまえようというのは、お互い守っていたと思います。

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――初めて会った時から、お二人はものづくりに対しての意識が似ているという話をしていたそうですが、具体的にどういう部分が似ていると感じましたか? また、お互いにどのようなクリエイターという印象を抱いていますか。

宮本:現場で動く組織って、自分の上司に了解をもらうっていう仕事の仕方をすることもありますが、僕は違うと思っていて。観客に対しての責任を負っているわけで、その立場として上司と話をする関係だと思っています。イルミネーションも、チーム全体がクリスさんのご機嫌を伺うのではなくて、まずは観客に対して意識を持っているなと感じました。

メレダンドリ氏:任天堂チームの皆さんはいつも最善を尽くし、一人ではなくチームみんなで挑んでいると感じていました。私もそのようにイルミネーションのチームを率いています。また、お互いにまずは観客の皆さんを大事にしています。宮本さんはいわゆるレジェンド、伝説的な方なのに普通の人間なんだと思えるような方です。

宮本氏:オーラが出ていないんです(笑)。

メレダンドリ氏:(笑)。スタッフ全員が宮本さんとお会いして、素晴らしい発見をしました。すごい方なのに、一緒にお仕事をさせていただいているなかでも、そういった要素を一切出さない方です。

宮本氏:クリスさんも僕も似ていて、みんなで会議していると(空気が)重いんです。クールなことや自虐的なことも言いますが、それでも必ず“笑い”をとるようにしています。そこで緊張をほぐして、全員が重い話をしているけれど、でも楽しんで作っているということが大事。暗いのか明るいのかわからない不思議なチームですが、結果的には300人ほどの大人数が動くので、全員が楽しくないと積みあがっていかない。クリスさんの運営やうちのチームもうまく機能して、みんなすごく楽しそうでした。

――ゲームのアイテムや設定を反映する際に苦労したことや、挑戦的だったことはどんなことですか?

メレダンドリ氏:コアなクリエイター陣はみんな「マリオ」の大ファンだったので、いろいろなアイデアを持っていました。お互いにいろいろなアイデアを交換するなかで、(ゲームの音楽を手掛けた)近藤浩治さんの音楽を入れてほしいという意見があり、新しい音楽と既存のゲームの音楽のバランスについて何カ月も話し合いました。本作の音楽を手掛けたブライアン・タイラーも交えて、宮本さんと近藤さんとも話し合い、ファンの方はもっとゲームの音楽を望むのかなど話しました。

宮本氏:アイテム関連で言うと、クリスさんが途中でアイテムをもっとフィーチャーしていこうと言ってくれて、まとまる方向が見えていきました。ただ、アイテムの機能ってゲームを遊んでいない人は知らないんです。それがわかるように、いかに短く機能を説明できるのかが大事でした。この映画は設定の説明がほとんどないんです。でも、短いセリフでもストーリーがちゃんと伝わるように作っているつもりです。任天堂のゲームの良さは、遊んでいる人のゲーム画面を遊んでいない人が見ていてもわかるっていうところです。映画でも、今何が起こっているのかわかるように作りたいと思いました。ゲームの中で経験したアクションをリアルに再現するけれど、ゲームのようにわかりやすく作っています。

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――「スーパーマリオブラザーズ」をベースに、いろんなゲームの要素が入っていました。盛り込むゲームのタイトルはどうやって決めましたか?

宮本氏:イルミネーションからゲームのタイトルについて大胆な提案もあって、それに驚きながらも、映画としてうまくおさまっていくということを経験しました。逆に任天堂のほうが保守的で、このジャンルとこのジャンルは混ぜない方がいいという意見もありましたが、“マリオ劇団”としては全部ありかなと。任天堂のタレント集団のなかの“マリオ劇団”というていでやっています。いろんな提案をいただいて、楽しくゲームタイトルを選びました。

実は、ドンキーコングに何か驚きがほしいので、スマートフォンとか製造していて、すごくITに詳しかったらどうかっていう話もしていました(笑)。結局、モーターサイクルをしている設定になって、そのほうがバナナで滑るとかゲームとの相性も良くなりました。僕はすごくつまらないことにずっとこだわっていて、映画の中でマリオがマリオカートに乗っているのですが、カートにはMって描いてあって、都合が良すぎないかなと思っていたんです。でも、「マリオメーカー」のエディットシーンを映画に入れていて、これはすごい発明だなと驚きました。ゲームのルールに沿っているし、そこに「マリオメーカー」の音楽も入ると、キャラクターらしい乗り物でも違和感がない。重苦しい現実の話と、嘘のようなゲームらしい展開があちこちにあって、それはうちのチームらしいなと思います。重いことも話すけれど、最後は明るくっていう。

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――映画には80年代の楽曲も使用されています。80年代要素を入れたこともヒットの一因にあるのでしょうか?

メレダンドリ氏:作り手側の思いとして、懐かしさやノスタルジーを感じてほしいという思いもありました。最初にマリオのゲームをプレイしたときの感覚を呼び起こしたくて、あの時代の曲を使用しています。本当にこだわって選曲していて、アメリカ国外でも知られている曲を選んでいます。マリオとピーチ姫がトレーニングをするシーンで使っているのは、私が初めて参加した映画「フットルース」の曲「Holding Out For A Hero」を使用しているんです。

宮本氏:この曲はあまりにも知られている曲なので、もっとマリオらしい曲はないかといろいろ試しましたが、結局あの曲に変わる曲はないというくらいはまっていますよね。

――映画で描かれるマリオは、行動的なのに父親に認められたいというキャラクターでした。内面の部分はどのような話し合いをして作り上げましたか。

メレダンドリ氏:最初は、核となるマリオの性格について話していきました。ヒーローでありながらも共感できるキャラクターで、優しさがありながら諦めない精神を持っています。宮本さんともいろんな話をしていくなかで、マリオの辛抱強さを出していこうとなりました。どんなにやられても、マリオは必ず立ち上がります。

宮本氏:ゲームにとってもリトライと言うのが大事なテーマになっています。キャラクターをゲームの世界とかみ合わせながら、個性をつけていく。マリオ以外にも、キャラクターたちには本当にいるような存在感をつけることにこだわりました。例えば、工事中の場所をショートカットするシーンがありますが、ルイージは謝りながら果物を拾っておじさんに渡したり、あるシーンで金網から出ていくときには、ちゃんとドアを閉めているんです。そういうちょっとしたところがルイージらしいよなとか、それぞれの個性が光るようなシーンは入れるようにしました。

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