驚異の映画紹介で万バズ連発“静岡シネ・ギャラリー”の中の人は何者か? バズる極意とは? 独占取材で聞いてきた

2023年4月1日 16:00

サールナートホール/静岡シネ・ギャラリー外観
サールナートホール/静岡シネ・ギャラリー外観

「面白い映画を知りたいなら、ここをフォローしろ」とまで言われるTwitterアカウントがあります。「サールナートホール/静岡シネ・ギャラリー」(@Sarnathhall/以下、シネ・ギャラリー)――静岡県にあるミニシアターの公式アカウントです。

同館で上映する映画を不定期にツイートしていますが、驚くべきはそのリツイート・いいね数です。1000、2000RTはもちろん、なかには3万RTを超えるものもあり、ユーザーからは「映画紹介がうますぎる」「めっちゃ観たくなった」などアツいコメントが非常に多く寄せられています。



アカウント自体は2011年から存在しており、Twitter上で目にする頻度が急激に増えたのは2021年ごろから。いわば“彗星のごとく現れた”注目株と言えますが、そこで気になるのは「なぜ急に“万バズ(本記事では1万RTおよび1万いいね以上のツイートを指す)”を連発するようになったのか?」「映画を魅力的に紹介するコツはなにか?」、そして「そもそもどんな人が“中の人”なのか?」です。

ということで、映画.com編集部がシネ・ギャラリーの“中の人”に取材を敢行。“映画を紹介する”すべての人に、そして“何かを表現する”すべての人に向け、シネ・ギャラリー、バズる極意開陳です。(取材・文・構成・編集/映画.com編集部・尾崎秋彦)


<インタビュー対象者の紹介>

画像2

[サールナートホール/静岡シネ・ギャラリー]:静岡県・静岡駅から徒歩5分の場所にある、2スクリーン・105席の映画館。隣接する「宝泰寺」の集会場として1995年に建設され、現在の映画館の運営は2003年12月からスタートした。住職が館長を務めていることでも有名。TwitterをはじめとするSNSは複数人の従業員で分担して運用しているが、具体的な人数や氏名・肩書などの個人情報は非公表。

※今回のインタビューは、上映作品の紹介を担当するAさんが応じてくれました。ありがとうございます!


●まずは“中の人”について聞いてみよう!


――本日はよろしくお願いします。弊社でもシネ・ギャラリーさんのツイートをマネ……ではなく敬意を込めて参考にさせていただいています。何というか例えるなら、ものまねタレントが本物に挨拶に行くみたいな、独特の緊張感があるインタビューとなっています。

シネ・ギャラリー/Aさん:(笑)。そんなそんな、ありがとうございます。


――今回はTwitterなどSNSの運用についてお聞きしますが、まずはAさんの「人生で強く心に残っている映画」を教えてください。

ビクトル・エリセ監督の「エル・スール」というスペイン映画が心に残っています。どうしてそう感じたのかは説明できないのですが、特定の登場人物やシーンではなく作品そのものを「これは、自分だ」と感じたからです。


――ありがとうございます。また、ミニシアターの運営についても非常に興味があります。というのも、ニュースを扱う媒体と、映画館って、意外と近いようで結構遠かったりするんですよね。映画館よりも製作現場の取材のほうが機会として多いからです。ということで、“ミニシアターという仕事”の醍醐味を教えてください。

ミニシアターの楽しいことのひとつは、やっぱり「自分たちが良いと思っている作品を上映できる」ことですね。そしてそれを通じて、鑑賞後のお客さんの顔が見えることです。

例えば「RRR」を観た後、客席から出てくるお客さんたち。ジロジロ見るわけじゃないですけれど(笑)、その熱気というか盛り上がりみたいなものが感じられるんですよ。

ほかには重めの作品で、それをモロに“食らっている”お客さんをみて、「いやそうだよね、自分もどんよりした気持ちになりました!」と共感したり。本当に毎日、最高の瞬間に立ち会えていて、実際に映画を作っている・配給してくれている人たちには申し訳ないくらい、映画館というのはいい仕事だなと思います。


●SNSの運用体制について…自社スタッフで分担、ノルマも特になし“気分で”

静岡シネ・ギャラリー内観1
静岡シネ・ギャラリー内観1

――ありがとうございます。では本題のSNSについてお聞きします。まずはどのような体制で運用されているのでしょうか? 専門のスタッフがいたり、外部委託しているかなど、お聞かせください。

そんなに大げさなことはなく、うちもほかの映画館と同様にそんなに多くのスタッフがいるわけではないですが、自分たちでTwitterやFacebook、Instagramを運用しています。上映作品の紹介は自分ですが、ほかのスタッフも上映時間やパンフレット入荷などのおしらせを発信しています。

頻度は特に決まりがあるわけではなく、気が向いたときにちょっと情報発信する、くらいです。作品紹介のツイートは“気分”という感じで(笑)、気持ちが重いときに、明るい映画のツイートは思いつきづらいじゃないですか。なるべく多くの作品を紹介したいですが、ノルマも設けていないのでタイミングも“その時々”です。


――なるほど、ここは意外なお話のように思います。あれだけ何度もバズを起こしているのだから、かっちりとした体制なのかと思いきや、いい意味での緩さがあるということですね。ちなみに、ひとつのツイートはどれくらいの時間をかけて考えるのでしょうか?

しっかり下書きを書いて推敲して……というわけでもなく、割とその時々でパッと思いついて書いています。ただツイートは140文字じゃないですか、短い言い回しにして、制限内に収めることにすごく時間がかかってしまいますね。


●ツイートがバズるようになったのは、2021年4月ごろから

静岡シネ・ギャラリー内観2
静岡シネ・ギャラリー内観2

――シネ・ギャラリーさんのTwitterは2011年10月に開設ですよね。ただ一方で、ここ1、2年ぐらいで急激にバズを起こしているアカウント、という印象があります。開設当初と現在で、何か明確に変えたことがあり、それが功を奏した事例はありますか?

そうですね、特に意識して変えた、ということはないんですが、ひとつ思い当たることはあります。2021年4月に、「カムバック・トゥ・ハリウッド!!」という作品の紹介でたまたまバズったんですよ。


――この1.6万RTされたツイートですね。

そのときは「こんなこともあるんだなあ」と。それから約半年後の2011年11月に、「ブラックボックス 音声分析捜査」の紹介でもバズったんです。


「こんなこと2回もあるんだ」と思ったんですけども、ふたつのツイートに共通することがありました。「そういえば、作品タイトルを入れてなかったな」と。そうか、そうやって作品知ってもらうきっかけになるんだ、と気がつきました。

だったらもうちょっと、TwitterなどSNSで積極的に情報発信していくといいのかもしれない。そう考え、Twitterを多く活用するようにはなりました。


――「カムバック・トゥ・ハリウッド!!」のバズ以前にも、魅力的な作品紹介はされていましたが、ブレイクのきっかけになったのは「作品タイトルを入れずに、物語を面白く伝える」ということだった、と。ちなみに、ツイートが動員に影響を与えているという実感はありますか?

お客さんに聞き回ったわけではないので、はっきりとはわかりませんが、「ツイートのおかげで観に来てくれたのかな」と思うことは何度かあります。

ただ実のところ、ツイートの拡散具合と、お客さんの動員がリンクしているかというと、全然そんなこともないんです。Twitterで響く作品とそうじゃないものがあって、当然、地道にポスターを貼って回ったり、チラシを配ったりする方がいい作品もある、ということかと思っています。


●「映画のタイトルを入れずに紹介する」という逆転の発想

静岡シネ・ギャラリー内観3
静岡シネ・ギャラリー内観3

――シネ・ギャラリーさんの“作品タイトルをあえて入れない”紹介は、秀逸な発明だと思っていて。我々も映画を紹介するとき、タイトルは「絶対にいれるもの」だと無意識のうちに考えていましたが、入れないことで逆に興味を掻き立てられ、結果的に作品が印象に残りやすくなっています。まさに我々もここを参考にしているのですが、気になるのは「どうやってこの手法を思いついたのか?」です。

思いついたきっかけは本当に偶然で。140文字のツイートに入りきらなかったので、思い切って作品タイトルを書かなかったんです。ツリーに入れればまあいいか、と。そうしたらそれが、初めてすごくバズった。


――文字数制限から偶然生まれた……非常に興味深いです。

そこで気づいたんですけど、公開済みの作品ならともかく、これから公開する、シリーズものではない作品において、タイトルだけでは鑑賞の決め手にはなりづらいのかなと。それよりも重要なことは「どんな映画なのか? どう面白い物語なのか?」だと思って、自分が作品を選ぶときもやっぱりそこを重要視するんです。だからタイトルよりも先に内容を載せることで、広く伝わったのかなと考えています。


――ほかにもアカデミー賞受賞作とか、あの有名監督が~、など映画宣伝でセオリーとされ、重宝されている文言もあまり使用しないですよね。そのあたり、どのような考えなのでしょうか?

それもタイトルと一緒で、「自分だったらあんまり要らないかも」というのがやっぱ大きいですね。もちろん、受賞歴や監督や出演俳優が鑑賞の決め手になるケースはたくさんありますし、たとえば「トップガン」を勧めるときにトム・クルーズの名が出ないことはあり得ないですよね。

ですが、シネ・ギャラリーで上映する作品に関しては、あまり当てはまらないとも思っています。うちの上映作品の俳優名を出して「あ~この人ね」とわかって、鑑賞したくなるような人って、きっと映画がとても好きで、そういう人はうちが紹介しなくても別の方法で興味を持って、タイトルや公開日を調べて観に来てくれる。

もちろんそういう方も大事ですし、さらにもうちょっと“映画とは遠い人たち”にも届けたい、という気持ちがあります。そう突き詰めて考えると、固有名詞って実はあまり重要じゃなくなってくるんです。


●不特定多数の人に、広く、深く伝えるために…大事なことは“自分だったら?”を突き詰める

静岡シネ・ギャラリー内観4
静岡シネ・ギャラリー内観4

――これまでのお話のなかで、重要なキーワードが「自分だったらどう思うか」だと感じました。

なるほど。


――是枝裕和監督(「万引き家族」など)が言っていたことなんですが、「誰か1人に向かって作れ。不特定多数の人に向かって送るものほど、そうすることで、結果的に多くの人に伝わる」。その誰か1人とは、シネ・ギャラリーさんにとっては“自分自身”であり、突き詰めることで結果的に多くの人に伝わっているのだなと。

確かに、それは当てはまるかもしれません。ツイートも上映作品を選ぶ時も、性別・年齢・趣味嗜好が具体的ではない、不定形で抽象的な「サールナートホール/静岡シネ・ギャラリーのお客様」のイメージが脳内にいて、その人に対して「こんな映画はいかがですか」と提案する気持ちで選んでもいます。

ミニシアターをやっていると、世の中の人が思うほど「こういう作品はこんなタイプの人が観に来る」と当てはまらないことに気がつきます。人間ってそんなにキレイにわけられるものじゃなく、自分とまったく違う属性の登場人物にも自分を重ねられるし、男性でも女性でも若くても年を重ねていても、映画が響くかどうかは実は全然関係ないんです。

最近では、たとえば「JUNK HEAD」というコマ撮りのアニメーションがありました。うちに観に来てくれるお客さんは本当に幅広くて、極端に言うと「渋谷のスクランブル交差点ですれ違っても、絶対に映画が好きだと思わないような人」も来てくれたりするんですよ。

だから、マーケティング的な、戦略的な思考も大事ですが、個人的には“自分だったらどう思うか”を考えると、結果的に“自分じゃない人”にも届けられる、そう思います。

あと、映画を紹介して「興味ないよ」「観たけど、面白くなかったよ」というのはしょうがないと思うんですけど、「知らなかった」とスルーされるのが本当に悔しいんです。その映画を知っていたら、もしかしたらその人の人生が変わっていたかもしれない、それくらいの作品なのにと思うと、それを届けられないことが(自身の力不足も含め)もう本当に……悔しいですね……。

別にきれいごとを言うつもりではないですが、弊社のツイートを見てくれたほかの土地の人が、その土地の映画館に行ってくれるだけでもとても嬉しくって。自分たちが映画をつくったわけではないですが(笑)、やっぱり紹介した作品を観てもらえるだけでもまず嬉しいというか、口コミが広まってくれるだけでもう全然OKです。


――いやちょっと、シネ・ギャラリーさん、映画ファンの鑑すぎてやばくないですか?


●最後に、今のおすすめ作品を聞いておこう!

静岡シネ・ギャラリー内観5
静岡シネ・ギャラリー内観5

――そろそろお時間が迫ってきましたので、最後の質問です。シネ・ギャラリーさんがぜひ観てほしい作品があればお聞かせください。

はい。個人的にすごく響いた作品は、「ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう」です。

遊び心にあふれている作品で、すごく好きでしたね。(玄人好みの)ミニシアター的な文脈じゃないとなかなか観てもらえない作品でもあると思うので、こういう「観たことないタイプの作品」にもぜひ気軽にチャレンジしてもらって、もしそこでハマったら、ミニシアターがめっちゃ楽しいことにも気づけると思います。そういうきっかけに、弊社でも、弊社じゃない映画館でも、とにかく観てもらえたら嬉しいです。


――本日はありがとうございました!


●インタビューで印象に残ったトピックまとめ

・ミニシアターという仕事の醍醐味は、“鑑賞後のお客さんの顔が見えること”。毎日、最高の瞬間に立ち会える。

・シネ・ギャラリーのSNSは自社スタッフで分担。特にツイートのノルマはなく、内容もマニュアルなどがあるわけではない。

・映画紹介ツイートがバズる秘訣のひとつは「作品タイトルをあえて入れず、物語を魅力的に伝える」(しかしタイトルはツリーなどに記載する)。字数制限をクリアするため偶然実施した結果、バズを巻き起こした。

・ほか、映画紹介ツイートがバズる秘訣は「自分だったらどう感じるか?」を突き詰めて考える。

・2023年3月31日時点でのシネ・ギャラリー的おすすめ映画は「ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう

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