【インタビュー】ダルデンヌ兄弟が6年ぶり来日、麻薬ビジネスに手を染める移民の若者をサスペンスタッチで描く「トリとロキタ」

2023年3月31日 17:00


6年ぶりに来日したダルデンヌ兄弟
6年ぶりに来日したダルデンヌ兄弟

ベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の最新作で、2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門の75周年記念大賞を受賞した「トリとロキタ」が公開された。

アフリカからベルギーに流れ着いた少年少女が偽りの姉弟として絆を結び、過酷な現実の中で生きるために闇の仕事に手を染めるさまを、スリリングなタッチで描き出す。6年ぶりに来日したダルデンヌ兄弟に話を聞いた。

アフリカから来たふたりの子どもがドラッグの運び屋に
アフリカから来たふたりの子どもがドラッグの運び屋に

――まずは本作の製作のきっかけを教えてください。完全なフィクションなのでしょうか?

親のいないアフリカの移民の子どもたちがベルギーに着き、そこから消息が分からなくなり、彼らの一部は犯罪組織に巻き込まれて殺された子もいた。それも数百人単位で、16~17歳の子どもがビザが取れないことで闇社会に飲まれてしまう――そういった記事を3年ほど前に読んだのです。このような状況はあってはならないことだと思いました。そして、消息が分からなくなったことに人々が無関心であること、そのことに憤りを感じたことが、本作製作のきっかけです。

しかし、極右政党は若い移民について、恐怖心を持つべき存在だと煽ることがあります。ベルギーだけでなく、EU全体で移民の子たちが職業訓練校に通い、手に職をつけられるように法律を変えるべきだと思うのですが、そういった法律はまだ存在しません。18歳でビザがもらえないと強制送還されるので、ビザのない若者は闇社会に行かざるを得ないのです。

――トリとロキタを演じたパブロ・シルズジョエリー・ムブンドゥは本作が演技初経験だったそうですが、その自然なやり取りに引き込まれました。また、ふたりともアフリカ系ベルギー人ですが、それぞれの家族のルーツなども聞いたうえで役柄を設定されたのですか?

シナリオでふたりの友情や関係性は書かれていましたが、実際のふたりはお互いのことは全く知りませんでした。ふたりは互いに遠く離れた違う街に住んでおり、私たちが彼らを結び付けたのです。リハーサルは実際の撮影のセット内で行われ、毎日一緒に過ごす中でお互いを知るようになりました。追いかけっこをしたりと、特に身体的な動きをするシーンのリハーサルを繰り返していると相手のことを良く知るようになりますし、私たちも彼らと親しくなることができるのです。

彼らのルーツについては、もちろんふたりの家族に会って話は聞いていますがこの映画で演じている役柄とは全くかけ離れたもので、なんの関連もありません。

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――複雑な構造の大麻工場のリアルさがサスペンス性を高めています。どのようなものを参考になさったのですか? また、臨場感あふれるカメラワークについても教えてください。

ベルギーで大麻の栽培は禁じられており、警察の麻薬取締担当者から聞いたことをほとんどそのまま描いています。マフィアは年間に160万ユーロを稼いでいるのです。

カメラマンの一人がカメラを持ち、アシスタントが縄のようなもので吊りハンドルで動かしながら調整します。ステディカムはあまりにも流れがスムーズになってしまうので、使いません。また、我々のカメラは俳優が動くところで待つのではなく、動いたところを追っていくように撮るので、観客も登場人物の動きを追って見るような映像になるのです。

――あなた方の作品はケン・ローチ是枝裕和監督作などと同じように、社会問題に関心のある層には熱心に見てもらえると思います。しかし、こういったテーマの作品を見慣れていない人々や若い世代へのアプローチに関してはどのようにお考えですか?

ベルギー、フランスでは学校で映画上映をします。まずは教師を招待して見てもらい、教師が選んだ映画を生徒に見せるという取り組みがあります。また、ベルギーには、フランス語だけではなく、フラマン語を話すオランダ系の学校もあります。我々の「イゴールの約束」は映画でフランス語を学ぶ、そういった教材として使われました。子どもたちは普段見ない映画を見る機会になります。それは良い取り組みだと思います。私たちの映画を見る層は、作家主義のアートシアター映画が好きな観客で、ある程度恵まれた生活水準にある方だと思いますが、私たちの映画は時々テレビ放映されるので、多くの人々に見てもらえる機会があります。「サンドラの週末」はマリオン・コティヤールのおかげでかなりの視聴率がありました。多くの観客に見ていただける機会が大事です。

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