映画「Winny」から考える日本経済が停滞している原因とは?【コラム/細野真宏の試写室日記】

2023年3月10日 07:00


「Winny」
「Winny」

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


経済を飛躍的に成長させるには「生産性を大きく上げること」「イノベーション(技術革新)を起こすこと」が重要です。

ただ、日本のような成熟した社会において「生産性を大きく上げること」には限界がありますし、「イノベーション」もそうそう簡単に起こせるものではありません。

では、同じく成熟しているアメリカではどのように経済を成長させているのか、というと、1つには移民を受け入れることで人口を増やし国の活力を高めることが日本との違いにあります。

そして、「イノベーションを起こすこと」も「GAFA」などのインターネット企業がアメリカ経済を牽引していることから分かります。

そこで、疑問に思うのは、せっかくインターネットという新たな世の中を大きく変えるツールが普及し、イノベーションを起こすチャンスが生まれているのに「なぜ日本ではそれを活かすイノベーションが起こっていないのか?」ということです。

この疑問については、至極当然なもので、考察に値します。

多くの人は、「単純に日本人にはそのようなイノベーションを起こせるような優れた人はいない」と考えると思います。

でも、現実には必ずしも「日本人の能力の問題」ではなく、割と根深い「日本の社会の仕組み」自体に、それを実現させない原因があるのも事実なのです。

そんな、私たちが気付きにくい「日本の社会の仕組み」を分かりやすく知ることができる映画「Winny」が今週末3月10日(金)から公開されます。

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そもそも「Winny」(ウィニー)とは何なのでしょうか?

これを解説する前に、いま実際に世の中で爆発的にブームになっているチャット生成AI「ChatGPT」というソフトから考えると分かりやすいかと思います。

チャット生成AI「ChatGPT」とは、チャット形式で質問にAI(人工知能)が驚くほど素早く答える仕組みのソフトで、2022年11月にリリースされると、わずか1週間で100万人、2023年1月にはユーザー数が1億人を突破しています。

このソフトを使うことでAIに瞬時に本を書いてもらうことも可能になり、すでにAmazonでは「ChatGPT」が書いた200冊を超える本が発売されている状況にまでなっているのです。

当然のことながら、「ChatGPT」は完璧なモノではありません。

まずは世界中で使ってもらうことで、利用者を拡大すると同時に問題点を発見し、より精度の良いモノにしようとしています。

まさに「Winny」も同じく、無料で使えるようにしながら問題点を修正していく方式のモノでした。

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Winny」とは、簡単に言うと、言論の自由を守るような思想を持っていて、例えばマスコミは事件の情報提供者を守りながら独自の報道していることと構造が似ています。

これをインターネットで行なう場合は、情報発信者の追跡困難性と、通信の秘匿性などが重要で、その実現を目指したP2P(Peer to Peer)という技術を応用したファイル共有ソフトです。

ただ、このソフトは、個人が映像や音楽の無許諾コピーなどの違法流通にも使用でき、それを行なう人も爆発的に増え社会問題になりました。

その結果、「Winny」を使って違法にアップロードをする人が逮捕される事件に発展し、遂には開発者のプログラマーである東大大学院情報理工学系研究科助手の金子勇氏も逮捕されることになったのです。

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これを「Winny事件」というのですが、この事件から、私たちは本当に多くのことを学ばなければなりません。

例えば、自動車を作った人がいます。

その自動車を使って殺人などの犯罪をすることも可能で、実際にそれが日常的に行なわれていますが、罪に問われるのは、犯罪を犯した人であり、決して自動車の開発者が罪に問われることはありません。

これと同様で、本来は「Winny」も開発者が罪に問われるようなものではないのです。

しかも、この「Winny事件」が厄介なのは、開発途中の「Winny」の仕組みの脆弱性を利用し、「Winny」を通じて情報流出をさせる暴露型ウイルスが開発されて、それが警察や自衛隊などを筆頭に官民で情報流出が起こったことです。

この暴露型ウイルスによって、さらに世の中の「Winny」に対する「悪」のレッテルが強固なものになっていき現在に至ります。

この手の「イメージによる勘違いから抜けられない事象」は、私たちの日常生活において本当に多いのです!

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例えば、「ミスター年金」といった言葉が一時期、メディアで多用されていました。

これは、某政治家が、公的年金において1人1つの「基礎年金番号」ができる以前の紙台帳の年金記録をコンピューター上で管理する際に、事務的な問題等でキチンと紐づけができていない「宙に浮いた年金記録」があることを国会で指摘しました。

すると、それがかなりの件数であることが発覚し、大きな社会問題となりました。

ところが、この「年金記録」の問題を指摘した政治家が、「ミスター年金」と呼ばれ、その後、なぜか「年金制度の抜本改革」などを打ち出し、国民にはバラ色の将来が待っているような印象を与えました。

でも、実際には、政権交代が起こり、その政治家が厚生労働大臣にまでなったのに、公的年金の仕組みは変わっていないという現実があります。

これは、「Winny事件」と極めて近い構造の話で、情報のとらえ方をマスコミをはじめ私たち国民も間違えていた、ということが原因なのです。

そもそも、なぜ報道記者の間では、かねてから噂になっていた「年金記録の問題」を国会で質問しただけで、「ミスター年金」という「年金の仕組みを誰よりも熟知している人」といったニックネームが付けられるのでしょうか?

この論理の飛躍に国民が気付き、せいぜい「ミスター年金記録」という正しいニックネームにしておけば、ここまで世の中に誤解が蔓延しなかったでしょう。

この話は、「試験の話」と同様の構造となっています。

「試験があり、採点ミスが発生していた」とします。

それを指摘し、採点ミスをした人が責められるのは理解できます。

ところが、「年金」の話では、なぜか「採点ミスをした人が悪い」という話が、そもそも「その試験の問題がおかしい」という訳の分からない事態にまでなっていたわけです。

ここまで解説すると、「Winny事件」に関する構造の仕組みも相当に理解ができると思います。

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惜しまれるのは、この「Winny事件」によって日本が誇れるイノベーションを生み出せる可能性が高かった才能を潰してしまったということです。

最高裁判所の判決に至るまで7年もの歳月がかかり、その後に金子勇氏が自由に開発活動ができたのはわずか半年。2002年に42歳という若さで亡くなってしまったのです。

この「Winny」の技術が発展していけば、現在の大きなビジネスである「仮想通貨」におけるブロックチェーンの技術がイチ早く日本で開発され世界で使われる可能性もあったりと、あまりに残念です。

いま大きなニュースになっている「闇バイト」の温床にTwitterがなっていますが、Twitter社が潰されたりしないように、「何が問題なのか」を私たちが真剣に考えないと大きな成長の芽を私たち自身が潰してしまう構造から抜けられない面もあるのです。

その意味でも、この映画「Winny」の社会的な意義は非常に高いと考えます。

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