【トリビア解説】「ハウルの動く城」声優・木村拓哉の収録秘話 幻の細田守監督版、異例の宣伝手法
2023年1月6日 21:05
スタジオジブリの「ハウルの動く城」が、1月6日午後9時から「金曜ロードショー」で放送されます。7月14日に10年ぶりの新作劇場長編「君たちはどう生きるか」の公開を控える宮崎駿監督が、「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」に続いて手がけた2004年公開作品です。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの児童小説を原作に、魔女の呪いで90歳の老婆に変えられた18歳の少女ソフィーと、美しい魔法使いの青年ハウルが心を通わせていく様子が描かれます。ソフィー役として倍賞千恵子さん、ハウル役として木村拓哉さんが声の出演をしたことも話題になりました。
同作の関係者証言や公開当時の取材記事が掲載されている書籍「ロマンアルバム『ハウルの動く城』」「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」(鈴木敏夫・著)などを参照しながら、「ハウルの動く城」にまつわるトリビアをご紹介します。
魔法と科学が混在する世界。父が遺した帽子店を切り盛りする18歳のソフィーは、町で兵士に絡まれたところを見知らぬ青年に助けられる。青年の正体は、町の人々が恐れる魔法使いハウルだった。その夜、ソフィーは店に現れた荒地の魔女に呪いをかけられ、90歳の老婆に姿を変えられてしまう。家族にも言えず家を飛び出したソフィーは、荒地をさまよった末にハウルの住まいである動く城にたどり着き、住み込みの家政婦として働き始めるが……。
「ハウルの動く城」のアニメ化企画は、原作小説「魔法使いハウルと火の悪魔」の原題「Howl's Moving Castle」の「城が動く」というフレーズを気に入った宮崎駿監督の発案から生まれましたが、当初は宮崎監督自身が手がける予定はなく、他の監督につくってもらうための企画でした。
当時、東映アニメーションに所属していた細田守監督が企画に興味をもち本格的に企画がスタート。細田監督はスタジオジブリに出向し、吉田玲子氏による脚本で絵コンテが描き進められていましたが、途中で企画が暗礁にのりあげ制作中止となりました。
その後、宮崎監督の次回作をどうするか決めなければならないタイミングになったとき、宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサーはトイレでたまたま隣同士になったときに一言二言会話を交わして、宮崎監督作品として「ハウル」を再始動することを決めました。
ちなみに、細田監督が「ハウル」降板後に手がけた「ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」(2005)には、ジブリで「ハウル」を制作したときの思いが密かにこめられていることが「WEBアニメスタイル」のインタビューで明かされています。
本作のもうひとつの主役と言える“城”。制作に取りかかった宮崎監督は城のデザインから着手し、煙突や砲台、テラスなどが複雑に組み合わさった、まるで何度も増改築を繰り返したかのような外観をしたユニークな城ができあがりました。イギリス本国の原作小説の挿絵には城の足は描かれていませんでしたが、同作ではニワトリの足から発想した4本足も描かれています。
城を動かす描写にはCGが活用されていますが、ジブリらしい手描きの発想でつくられています。鉛筆で描かれた城全体の原画を、背景と同じような質感で彩色する「ハーモニー処理」と言われる手法で仕上げ、それをデータ化したものをPC上で細かなパーツに分け、それぞれのパーツをデジタルの技術で補正しながら動かすという大変に手間のかかるやり方で城を動かしています。
なお同作の美術は、「千と千尋の神隠し」制作後に宮崎監督が休養のために訪れたフランス北東部のアルザス地方がモデルとなり、なかでも宮崎監督が気に入ったリクビルという村に美術スタッフはロケハンを行いました。
木村拓哉さん本人にジブリ作品に出演したいという希望があったことと、木村さんの演技をよく知らない鈴木プロデューサーが娘さんに尋ねたところ、「男のいいかげんさを表現できる人だと思う」と評したことがきっかけで、ハウルというキャラクターにピッタリではないかと起用されることになりました。
鈴木プロデューサーは、セリフをすべて頭にいれた状態で収録に臨んだ木村さんに驚き、「そんな人は後にも先にも彼だけです」と回想しています。
「ロマンアルバム」の鈴木プロデューサーのインタビューでは、収録の休憩中に木村さんと話したエピソードとして、事前の練習ではあえて声はださず、お腹の中でしゃべるようにしていたことが明かされています。木村さんいわく「そこで練習をしたらダメになると思った」そうで、鈴木プロデューサーは「演じることの鮮度を、自分の中で保とうとしたんでしょうね」と分析しています。ちなみに、木村さんはマッドハウス制作の劇場アニメ「REDLINE」(2010)でも、主人公JP役を好演しています。
「ハウルの動く城」は公開当時、物語や設定の具体的な内容をあえて伏せる“宣伝をしない宣伝”方針が採られました。鈴木プロデューサーは、以前から公開前に作品のあらすじなどを事細かに明かす宣伝に疑問をもっていたそうですが、「千と千尋の神隠し」は宣伝がすごかったから大ヒットしたという声を宮崎監督が気にして、「今回は余計な宣伝をしないで公開しよう」と提案されたことを直接のきっかけに、徹底して情報をしぼることに決めたそうです。「ハウル」は、興行収入196億円の大ヒットを記録しました。
鈴木プロデューサーは昨年12月28日に行われた「アニメージュとジブリ展」内覧会で、公開前に情報をほとんど出さなかった「THE FIRST SLAM DUNK」を例に挙げながら、宮崎監督の新作「君たちはどう生きるか」について、「何の情報もない方が、皆さんの楽しみが増えるはず。先に知っちゃったら喜びを奪ってしまうことになるので、(秘密主義を)貫きます」と話していましたが、「ハウル」ですでに秘密主義の宣伝を実施していたことになります。
本作を見た方のなかには物語の中盤、ソフィーと荒地の魔女が王宮の階段をのぼるシーンが印象に残っている方が多いのではないでしょうか。このシーンは、当初現在の半分の尺が予定されていて、シーンの中身も先に階段のぼったソフィーが荒地の魔女に手を差し伸べる内容が考えられていました。
ジブリ作品に多く参加する腕利きアニメーターの大塚伸治氏が、この場面の作画を担当することになったため、宮崎監督は大塚氏に細かい芝居を任せ、シーン全体の長さを倍にすることにしたそうです。その結果、2人の老女が競いあって必死に階段をのぼる迫力に満ちた名場面が生まれました。
http://www.style.fm/as/13_special/mini_050816.shtml
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
中毒性200%の特殊な“刺激”作 NEW
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない、尖りに尖った映画体験
提供:ローソンエンタテインメント
ライオン・キング ムファサ NEW
【ディズニー史上最も温かく切ない“兄弟の絆”】この物語で本当の「ライオン・キング」が完成する
提供:ディズニー
社会現象級人気マンガを実写化…大丈夫か!? NEW
「ファンを失望させない?」製作者にガチ質問してきたら、想像以上の原作愛に圧倒された
提供:東映
ラスト5分、涙腺崩壊――
【珠玉の傑作】いじめで退学になった少年の、再生と希望の物語。2024年の最後を優しい涙で包む感動作
提供:キノフィルムズ
映画を500円で観る“裏ワザ”
【知らないと損】「2000円は高い」というあなただけに…“超安くなる裏ワザ”こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
【衝撃作】ハマり過ぎて睡眠不足に注意!
ショッキングな展開に沼落ち確定…映画.comユーザーに熱烈にオススメしたい圧巻作
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。