伊丹十三監督全10作品4Kデジタルリマスター版を一挙放送 宮本信子にインタビュー
2022年12月28日 09:00

1984年の監督デビュー作「お葬式」から「マルタイの女」(97)まで、様々なジャンルの人間模様を笑いあり涙ありのドラマで描くエンタメ作でありながら、当時の日本の社会問題も内包する作風で高い評価を受けた伊丹十三監督。このほど、伊丹プロダクションの全面協力のもと、4Kデジタルリマスター化された伊丹監督の全10作品が、2023年1月から、日本映画専門チャンネルでオールメディア独占・テレビ初放送される。全作品に出演する女優で、伊丹監督のパートナーであった宮本信子に話を聞いた。

今年11月、伊丹監督全作品の4Kデジタルリマスター版の回顧上映が、台湾・台北金馬映画祭で開催された。会場には、生前の伊丹監督が作品を発表していた1980~90年代のリアルタイムでは映画を見ていないであろう若い世代が詰めかけ、宮本の登壇回はチケット発売後すぐに完売。会期中に実施された投票制の“見たい映画”ランキングには、伊丹監督作と今年日本公開された宮本の出演作「メタモルフォーゼの縁側」(狩山俊輔監督)が上位にランクインし、台湾の映画ファンの熱気と伊丹作品人気の高さがうかがえる映画祭であった。
宮本は台湾渡航前の気持ちを「伊丹さんが亡くなってもう25年くらい経ちますし、(客席の)半分くらいいらしていただけたら嬉しいわ……なんて思っていたんです」と明かし、その予想外の反響を「登壇した時のお客様のエネルギーに驚き、受け入れられているな、と感じました。お若い方が多くて、本当に映画が必要とされている――それを肌で感じられたのがうれしかったです」と振り返る。

台湾での上映中には、所々で大きな笑いも起きており、今年はスペインのサン・セバスティアン国際映画祭クラシック部門で取り上げられるなど、近年、改めて国際的に高い評価を得ている伊丹監督。日本の国民食ともいえるラーメンを題材にした「タンポポ」(85)をはじめ、日本独特の文化や表現が外国の観客に興味深く映るようだ。製作当時から、海外を意識しての作品作りだったのだろうか。
「伊丹さんは映画が当たるか当たらないかとか、賞が欲しいということよりも、自分が作りたいというものをぶれずにやられていたと思います。脚本を書いた本人に聞かないとわかりませんが、もちろん社会情勢は大切ですし、それを通して日本人はどういう人々なのか、良いところや悪いところを見つめていたかもしれません」
伊丹監督自身、海外経験が豊富であり、国際的でメタな視点を持っていたことも作品に活かされているのでは?と宮本に問うと、「(日本文化や社会を)一歩引いた位置から見ていたと思います。だからいろんなジャンルで作れたのだと思います。あとはいつでもユーモアがあること。とにかくユニークな人でしたね」と言い、「博識で、凝り性で……知らないことは徹底的に調べる人でしたね」と家庭での一面も明かす。

ドキュメンタリーの手法を用いたり、古今東西数々の名作映画へのオマージュと思われるシーンなど、その独自の撮影スタイルに見られるこだわりと工夫は、CMプランナーとしての経験や、映画監督の父・伊丹万作の影響も反映されているのだろう。
「映画が好きでたくさん見ていたので、尊敬する監督の作品カットなどのオマージュを撮りたいという気持ちもあったと思います。そして、その後の世代の監督で『お葬式』のオマージュです、と言ってくださるような作品があったり……そうやって、映画史の中で監督から監督への尊敬や敬愛が伝わっていくのではないでしょうか。その点については俳優も同じですね。良い作品、良い俳優を知れば知るほど良いものができると思います」
山崎努、三國連太郎、津川雅彦ら日本映画界を代表する俳優陣の名演も伊丹映画の見どころのひとつだが、作品のジャンルが変わるたびに新しい顔を見せ続けた女優・宮本信子なしでは、伊丹監督の作品は成り立たなかったと言っても過言ではないだろう。有名な逸話であるが、伊丹組では俳優は脚本どおりに演じるのが“絶対”だったそう。アドリブを提案することはなかったのかと聞くと、「そんな失礼なことは言えませんし、アドリブは一切許されません」ときっぱり。
「でも、映画全体のことで感想を求められることはありました。自分の役のことだけでなく、映画全体を見るということを(伊丹監督作で)学んだ気がします。主役をすると映画のリズムがわかるんです。パートだとそれは難しくて。『お葬式』から主役をやらせていただいて、とても勉強になりました」

しかし、監督からの注文通りのテイクを繰り返す中で、宮本が伊丹監督の予想しなかった演技を披露すると、驚き喜ばれたという。「伊丹さんが『へえ…、そう来ますか』と言ってくれたら私は『しめた!』と思うんです。セリフはなくても、演じている役にぴったりな表現ができると、私はとっても愉快なんです。褒められてうれしいですし(笑)」
凛としてゆるぎない存在感を持つ大女優であり、その一方で親しみも感じさせるコメディエンヌという両面の魅力を持つ宮本は、日本のジャンヌ・モローのようだ。そう本人に伝えると、「伊丹さんはルイ・マルの『死刑台のエレベーター』が好きだったんです。一緒に見ました」と感慨深げに思い出を語ってくれた。
もし今、伊丹監督が生きていたら、何を題材にするのだろうか――? 多くの記者が宮本に問いかけるという。「題材はいっぱいあると思うので、私も新作が見たいですよね。皆さんがそういう風に思ってくださるのがありがたいですね」とほほ笑む。

今回、満を持して日本でお披露目される4Kデジタルリマスター版は「古いフィルムはテンポが出ないし、音も聞きづらかったので……まるで別物ですね」とそのクオリティに太鼓判を押す。「リマスター版は衣装を新しく着替えて、もう一度同じ映画を作ったような――遠い昔の時間が、ぱっと今の時間、現在になるようなそんな感じを覚えましたね。きれいになって本当に良かったと思いました」
これまでBlu-ray以外ではなかなか鑑賞できる機会がなかった日本の異才、伊丹十三監督全10作を一挙に見られる「24時間まるごと 伊丹十三の映画4K」は、1月8日午後1時から日本映画専門チャンネルで放送。レギュラー放送となる「伊丹十三劇場4K」は、1月21日午後9時から、デビュー作の「お葬式」から月2作品ずつ放送する。
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執筆者紹介

松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。
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