【インタビュー】二宮和也×松坂桃李×中島健人×桐谷健太×安田顕 それぞれが伝えたい「思いを繋ぐ」ということ

2022年12月8日 19:00


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二宮和也主演、瀬々敬久監督作「ラーゲリより愛を込めて」が、第35回東京国際映画祭のオープニング作品として上映され、大きな反響を呼んだことは記憶に新しい。第2次世界大戦後、シベリアの強制収容所(ラーゲリ)に不当に抑留された実在の日本人に扮した二宮、松坂桃李中島健人桐谷健太安田顕に話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/根田拓也)

今作は、作家・辺見じゅん氏のノンフィクション「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」が原作。終戦後、極寒のシベリアの強制収容所に抑留された山本幡男(二宮)は、過酷な日々を過ごすなか、日本にいる妻モジミ(北川景子)と約束した帰国(ダモイ)を誰よりも強く信じ、多くの抑留者たちを激励し続ける。山本の仲間思いの行動と信念は、希望を見失いつつあった日本人たちの心を動かしていく……。

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<目次>

二宮和也の祖父がシベリア抑留経験者だった縁

■5人にとって何が「ご褒美のような現場」だったのか。

■人生で初めて丸刈りにした中島健人に寄り添ったのは……

■疑心暗鬼にかられたとき、いかに心を奮い立たせるのか

■二宮が、松坂が、中島がいま伝えたい「思いを繋ぐ」ということ


二宮が「今回は戦争がもたらした後遺症の話だと思っています」と公言しているように、今作を戦争映画として位置づけることには筆者も違和感を覚える。試写鑑賞時に興味深い光景を目にした。試写室はコロナ感染対策もあり、少しゆとりを持たせて座席の半数ほどが埋まった状態だったが、最後列に座っていた筆者は上映終了後、退場する鑑賞者を座ったまま観察。すると、7割近くの男性が涙ぐんでいたり目を真っ赤に腫らしていたのである。これは鑑賞した男性たちの多くが、自分を抑留者たちに置き換え、生きているか否かも分からない家族を思い、感情を揺さぶられたのではないだろうか。

「シベリア抑留」といっても、どれほど過酷であったかは経験した人にしか理解できないであろう。乏しい食料と劣悪な生活環境のなか、過酷な強制労働に従事させられた約60万人のうち、1割にあたる約6万人が伝染病などを発症して命を落としたという。

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リアリティを求めた製作サイドは、新潟県の山間にあった約1万平方メートルほどのスペースに、オープンセットを組んだ。その際には、柵やバラック、門などは資料を探したほか、抑留経験者から話を聞き材質や形状を割り出していった。そのため、セットに使用した白樺やダケカンバは、北海道や群馬などから計100トン近くの資材を取り寄せたという。そうした環境が、俳優陣が抑留者たちの心情と同化する一助になったことは間違いないはずだ。


二宮和也の祖父がシベリア抑留経験者だった縁

二宮にとっては、他人事ではなかったようで「僕のおじいさんがシベリアに行っているんです。その縁もあって臨みました。うちのおじいさんは記憶が曖昧になってから色々なエピソードを話し出したので、詳しくは分からないのですが……」と明かす。それでも、シベリア抑留に関して知識だけを増やしていく作業はしなかったそうで、「全員が帰ってくるのに何年かかったとか、どれだけの方が病気で亡くなったかということは、演じるうえで知らなくていいことだとも思っていて。知らなくていいことは、現場に教えてもらえればいいのかなと感じたんです」と語る。

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役に寄り添っていくうえで、俳優陣が様々なことに思いを寄せていることは想像に難くないが、仮に自分が理不尽な抑留生活をおくらねばならなくなったとしたら、どのようなことに希望を見出すのか聞いてみたくなった。

二宮「僕は、日本が助けてくれることを願いながら待ちます。自分たちではどうにもならない問題ですから。国と国が起こしたケンカで、その責任を庶民が取らなければいけないのはおかしい、と思いながら今も生活しています。いち早く国は動いて、解放すべく交渉を始めてくれているんだろうなと思い、時が来るのを待つかなあ。ああいう状況下で行動を起こしたり、希望を抱いたりということは……。そこまで僕は強くないかなと感じます」

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松坂「確かに。僕もそうかもしれません。そこで希望を見出すというよりも、耐え忍ぶということに力を注ぐかもしれませんね。死ぬ覚悟というよりも、生きる覚悟の方になるべく変換して、いつか助けが来てくれるから耐え忍ぶ……、というところに気持ちを持っていくと思います」

中島「僕は、郷に従うという精神で生きると思います。できるだけ前向きになって、自分に家族や愛する人がいれば、思いを寄せるということだけでも、活力として繋がっていくんじゃないかなと思います」

安田「僕はおそらく、色々取り入ろうとしたり、気に入られようとするかもしれません。そうすることで少しでも良い環境で過ごしたいと思うかもしれない(笑)。あまり目立たないところで並んでいるんじゃないかなと。とにかく、したたかな抑留生活をおくると思います」

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桐谷は、撮影を述懐しながら少し異なる見解を示してくれた。「こういう作品をやるうえで、資料を読んだり想像力を働かせて理解を深めていったとしても、当事者のことを思うと全然足らないんですよね。撮影中、みんなでバラックの中で黒パンをちびちび食べているとき、物凄い闇というか絶望を感じたんです。ある種の拒否反応というか、これ以上入り込んだら撮影ができないと感じるほどに。それでも支えになったのは、これからの世代の人たちが観て、こんなことぜったいに経験したくない、笑顔で幸せに暮らす方が絶対にいいよね、という意識を高めてくれたら……という思いを支えにやっていたんです」


■5人にとって何が「ご褒美のような現場」だったのか。

それぞれの話を時に強くうなずきながら、時に口元に笑みを浮かべながら聞き入っていた5人。二宮は、経験豊富で芸達者な俳優陣と共にする今作を「ご褒美のような現場」と形容している。瀬々組で目の当たりにした、「ご褒美」のようにも解釈のできる、忘れることのできない光景に思いを馳せてもらった。

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二宮「自由にやらせていただけるというか、自分がプレゼンしたプランを採用してくれるんですね。だからこその責任感も芽生える。こういう作品だと、勝手な解釈で『パズルじゃないけど、動かし方のノウハウがあるのかな。自由に動いたらいけないのかな』と思っていたんです。でも現場でやってみたら、『それでいこう』と受け入れてくれることが多かったので、それは現場がずっと続いていくなかでのモチベーションになりましたし、能動的に動ける時間を常に作ってくれました。

周囲にいる人たちにも、『ここで何か言えないか?』『おまえだったらどうする?』という問いかけを常にしてくれましたから、現場はとにかく活気がありましたし、僕らも感じ入ることは多かったですね」

松坂「『もうちょっと具材ない?』みたいな感じは、常にありましたよね。『うん、ちょっと言ってみて!……、うん、違う! もっとない?』みたいな(笑)。皆さんが持ち寄ったものを、瀬々さんが料理するというシチュエーションが多かったので、レギュラー陣も含めて何か出そうという活気には溢れていました」

桐谷「瀬々さんは誰よりも動いていましたよね。まつ毛や眉毛に雪が積もっても、真摯に作品に取り組んでいらっしゃる姿が印象的。どのキャストも『この人のために!』という感覚はありましたし、瀬々さんの取り組み方がこの映画を作ったといえるのではないでしょうか」

■人生で初めて丸刈りにした中島健人に寄り添ったのは……

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中島「僕は人生で初めて丸刈りにしたんですが、断髪式を1時間半くらいかけてやったんです。その間、ずっと瀬々さんが隣についてくれて、その姿を見てくれていました。ひとりひとりにきちんと向き合ってくれているのかなと感じましたし、記念に残したかったのでずっと動画を回していました。隣に瀬々さんがいてくれて、本当に嬉しかったです」

安田「僕が丸刈りにしたときには、瀬々さんはいなかったな……(笑)」

この一言に、「やめましょう」(二宮)、「いましたよ、きっと」(松坂)、「遠くから見ていましたよ、絶対に」(中島)と一斉にフォローの声が飛び交ったが、安田の追及の手は止まらない。

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安田「オンフックで繋いで、『安田さんさあ! 丸刈りだとちょっと若くなっちゃうかなあ! どうしよっかなあ!』という声だけ聞こえました。まさか、オンフックだとは思わなかったんじゃないかなあ(笑)。

ご褒美といえば、クランクアップの後の新幹線。どんどん東京に近づいていく夜景が無性に嬉しくて、新幹線の車内販売で売っていたホタルイカの燻製を大人買いして、そのまま家に帰らずバーへ直行したんです」

二宮「僕と桃李と健太くんが3人で帰るときもそうでしたね。まずは乾杯しておこうかって。新幹線が来るのを待てなかった」

安田「作品的にも、現場的にも、ダモイ(帰国)が一番のご褒美でした」

中島「仕事で東京へ行き、戻ってきた二宮くんが『東京って明るいんだぜ』って言っていましたよね(笑)。それくらい過酷な環境下で撮影に臨めたのかなと思いますし、自分たちのモチベーションみたいなものを作れたんじゃないかなと思います」


■疑心暗鬼にかられたとき、いかに心を奮い立たせるのか

本編を観るにつけ、あのような極限の状況下に身を置けば、誰を信じていいのかも分からなくなるのも理解できる。保身のために誰かを“売る”ことは、特別なことではなかったのかもしれない。こうした疑心暗鬼にかられたとき、何を心の拠りどころとして次なる一手を打とうと心を奮い立たせるのか、話を振ってみた。

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松坂「地元へ一度帰って、馴染みの景色を見てみるとか……。僕は神奈川の茅ヶ崎出身なので、茅ヶ崎の海へ行くと戻った感じがします。ちょっとした原点回帰じゃないですが、そういう気持ちになれるのは試してみてもいいかもしれませんね」

桐谷「地元じゃないけど、自然のある場所へ行くかもしれません。地球上において人間よりも圧倒的に大先輩である植物は、必ず光のある方へいきますよね。あれを見ると、奮い立つというより『ああ、せやんな』と感じることができて、大先輩に答えを教えてもらう感じになるんですよ。植物にとっての光は、俺にとっての楽しく明るい方ですから」

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二宮「バカみたいと思われるかもしれませんが、そこからまた頑張るってことですよね。疑心暗鬼ってほどでもないですが、自分たち(『嵐』)が休止すると発表をさせてもらってから、2年近く時間があったんです。この2年間、ちゃんと頑張らないとお休みをいただけないよな……という思いがずっとありました。

その2年間、メンバー全員で楽しい思い出を作って、ファンの皆様とそれを共有するためだけに頑張ろうと思っていたんです。発表した決断に対して『あの決断は良くなかったね』と言われないように。そして、『あの決断をよくできたね』と言っていただけるように。そのためにめちゃめちゃ心を奮い立たせて頑張ったというのはあるかもしれませんね」


■二宮が、松坂が、中島がいま伝えたい「思いを繋ぐ」ということ

そしてまた、今作には「思いを繋ぐ」というテーマが内包されている。先輩や上司から贈られた金言、自分から誰かに届けたい思いなど、「思いを繋ぐ」という行為に対し、5人がいま伝えたいことはどのようなことなのだろうか。

安田「子どもたちに明るい未来を、我々の責任として繋げていけたらいいんでしょうけれど。どうしたものか……」

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桐谷「自分のやりたいことをやって、楽しんで、死んだときに『ファンタスティックな人生やったな』と思えたらええなあって思うんです。繋げるという大それたことではなく、自分は自分のやりたいことをやるしかないので、もしもそれを誰かが感じ取ってくれれば嬉しいですね」

中島「アジアという括りで見てみたときに、隣国のエンタメの勢いがすごいですよね。そのなかで、日本のエンタメ作品だってすごいんだってアジアの皆さんに思ってもらえるように日本映画を充実させていきたいです。海外の方々にもっと知って頂きたいという意味で、ジャパニーズソウルを繋げていきたいという気持ちがあります」

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松坂「『孤狼の血』という作品で、主演の役所広司さんのバディ役として出演させていただいたんです。そして続編となる2作目では、僕が主演をやらせていただいた。僕が役所さんから受け継いだものを、今度は自分がパート3へ繋ぐような作品にしたいと思って、『孤狼の血 LEVEL2』を作りました。先輩から受け継いだものを、次の人へバトンを渡せるようにシリーズ化していきたいというのは常々思っています。めちゃめちゃしんどかったけど、とにかく楽しかったです(笑)」

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二宮「こういった意義深い作品に出演し続けて、これからも同世代の役者に羨ましがられるような作品に関わっていきたいですね。観たときに『ああ、これ出たかったな』という作品、いっぱいありますから。そういう作品がもっともっと増えてくれたらと思いますし、自国で価値の高まるエンタメになって欲しいという思いもあります。大ヒットする興行の作品も大切ですし、経験してみたいとも思います。それと同時に、『芝居してるぜ!』みたいながっちがちな作品も生み出していきたいというのは、『思いを繋ぐ』といったら背負い過ぎかもしれませんが、自分も一翼を担えたら嬉しいですね」

(執筆者:大塚史貴)

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