【「アムステルダム」評論】コロナ禍を挟んで構想5年。監督、C・ベール、M・ロビー3人の才能が結集した歴史サスペンス

2022年10月29日 14:00


「アムステルダム」
「アムステルダム」

ザ・ファイター」「アメリカン・ハッスル」に続き、クリスチャン・ベール(今回は製作も兼務)とデビッド・O・ラッセル監督が三たびタッグを組んだ作品。米国史に埋もれていた実際のクーデター事件を、独自の解釈で映像化した意欲作となっている。

第一次大戦下の仏戦線。バート(クリスチャン・ベール)、ハロルド(ジョン・デビッド・ワシントン)、ヴァレリー(マーゴット・ロビー)の3人は出会った時からウマが合い、除隊後はアムステルダムで共同生活を送り「生涯お互いを守り合う」という誓いを立て固い友情に結ばれていた。時は流れ1933年のNY。軍部絡みの殺人事件に巻き込まれてしまったバートとハロルドは、容疑を晴らすため資産家のヴォーズ(ラミ・マレック)や、戦争の英雄ディレンベック将軍(ロバート・デ・ニーロ)に接近する。だが、それは巨大な陰謀の入口に過ぎなかった。

ディレンベックのモデルとなったスメドレー・バトラーについて少し。第一次大戦で軍最高位の名誉勲章を2度も授与された伝説的軍人。沖縄にあるキャンプ・バトラーはその名に因むが、退役後は、少数の軍事企業家に莫大な富が集中する矛盾を指摘した著書「戦争はペテンだ」を出版、理論派の反戦活動家に転身した。その後貧困に苦しむ復員兵(ボーナスアーミー運動)を支援、それがルーズベルトの大統領選勝利を呼び込み、貧困層救済の景気対策ニューディール政策へとつながっていく。

こうした時代背景を踏まえ、ラッセル監督は友人でもあるクリスチャン・ベールとプロット構築を開始。構想は5年に及び、後半3年間はマーゴット・ロビーも加わったことで、ついにギミック溢れる脚本のベースが完成したと言う。作中に登場するアート作品のいくつかはロビーの手作りだそうだ。

最終的に監督は実在した人物や事件を随所に絡ませ、豪華キャスト勢揃いの娯楽サスペンスに落とし込んだ。前述のバトラー少将はもちろん、謎めいた資産家ヴォーズ(反ユダヤ主義者ヘンリー・フォードがモデルか)、薬物中毒の刑事や怪しいMI6の諜報員、反ルーズベルトの元軍人など、くせ者キャラたちがエマニュエル・ルベツキのカメラを通して登場すると、奇妙な現実感を伴って映画は大きく動きだす。

いわゆる敗者に光を当ててきたラッセル作品、米国が次の大戦に参戦したことは周知の事実。だが、それを阻止するために、本作の主人公トリオのような名もない敗者たちが、人知れず戦ってきた物語も実在する。その真実に熱い思いを抱かずにはいられない。

(本田敬)

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