「花束みたいな恋をした」大ヒット、ゼロコロナ政策で危機 中国映画市場の上半期を振り返る【アジア映画コラム】

2022年8月17日 09:00

中国市場で異例のヒット!
中国市場で異例のヒット!

北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数280万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!


171.9億元(約3396億円)――2022年上半期における中国映画市場の累計興行収入です。実はこの数字、2014年以来となる最も低い水準(コロナ禍によって「映画館営業停止」を余儀なくされた2020年を除く)。しかも、2014年に比べて上映回数は約3倍、平均鑑賞料金は2割増となっているのにもかかわらず、このような結果になってしまったのです。

2年連続で「世界一の映画市場」の称号をキープしている中国映画市場に、一体何が起きたのか? 今回は、上半期の重大ニュースを発表させていただきます。


●上半期の興収は低調 大健闘の北米映画市場が王座に返り咲く

2022年上半期の市場累計興収171.9億元(約3396億円)は、2021年対比で約37.7%減少という記録。これに対して、北米映画市場は、2022年上半期は大健闘。コロナの影響を跳ね除け、順調に復活への道を辿っています。上半期の数字は36.4億ドル(約4848億円)。昨年対比で257%増。中国映画市場を超え、3年ぶりに上半期世界興収の“王座”へと帰還しました。しかも、上半期時点で中国映画市場よりも、42%多い累計興収。年間興収1位も視野に入っています。

中国映画市場は、なぜ低迷してしまったのでしょうか? さまざまな要因があげられますが、一番大きかったのは、間違いなくコロナによる影響。累計興収171.9億元の内訳を見てみると、実は1月、2月、6月分が87%を占めています。上海や北京などの大都市では、コロナの影響で、3~5月の間、映画館が続々営業中止に。大都市の映画館が営業しないことを理由に、新作も公開延期となっていったのです。幸いなことに、6月からは映画館が徐々に再開。興収も少しずつ回復していますが、通常に戻ったとは決して言えないでしょう。


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●「ゼロコロナ」政策の影響大! 感染発覚→映画館はすぐに営業停止

新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、約2年半が過ぎ去りました。多くの国や地域が「ウィズコロナ」政策に方針を変更していますが、中国は依然として「ゼロコロナ」政策を続けています。今年3月下旬には、上海で爆発的な感染拡大が生じ、約1カ月半にも及ぶロックダウン(都市封鎖)を実施。現在、感染状況はかなり落ち着きましたが、経済、一般市民の生活への影響は避けられません。

この影響は映画業界にも波及しました。3月下旬の上海コロナ感染拡大の影響により、他の都市にも感染が広がっていきました。行動制限から都市封鎖まで、各地でさまざまな対策が行われたんです。

中国では「映画館=密閉空間」と定められ、感染者が出た町では、すぐに映画館の営業が停止となります。2022年上半期、特に上海や北京などの大都市では、1カ月以上営業を中止した映画館が、なんと全体の73%を超えました。さらに、3カ月営業中止の映画館は36%超え。中国国内で最も興収が高い上海では、1カ月以上営業を停止した映画館が全体の98.3%となってしまったんです。

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●映画市場の危機によって鑑賞料金がアップ 批判を集める

中国映画市場の問題は、コロナだけではありません。実は今年の旧正月から、映画料金が値上げ(中国では、各劇場が独自の鑑賞料金を設定できる)。これが大きな批判を集めたんです。

2022年の旧正月の興収は、60.3億元(約1102億円)。2021年の78.22億元(約1282億円)に対して23%減、動員は29%減となりました。この興収の減少は、実は「チケットの高さ」が深く関わっています。2022年旧正月の平均鑑賞料金は、52元(約950円)。2021年全体の平均鑑賞料金から大幅に増加しているんです。2021年の旧正月と比べても、約10%アップとなっています。

旧正月だけでなく、2022年の上半期全体でみても、平均鑑賞料金は6.7%アップ。映画館の数がいまだに増え続けている中国では、劇場同士の競争がますます激しくなっています。市場のルールを破って、急激な値上げを行う。これは決して良い施策ではありません。観客は既に離れ始めています。これをどのように改善するのか……中国映画業界にとって、極めて重要な課題です。


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●北京国際映画祭&上海国際映画祭が延期

中国国内の映画祭も、コロナの影響を受けて続々と延期を発表しました。北京国際映画祭は、2020年から3年連続の延期。中国国内で最も大きな映画祭となる上海国際映画祭もロックダウンなどの影響で、今年は開催不可能と判断。来夏に延期することになりました。

3月下旬から始まった上海ロックダウンは、町全体が“機能停止”してしまったかのようでした。厳しい行動制限のなか、上海国際映画祭の運営チームは会社にも行けず……。最後の最後まで、映画祭の実現に向けて奔走していましたが、公共施設への入場制限、上映制限を考慮し、国際映画製作者連盟(FIAPF)と相談したうえで、延期という判断を下しました

2020年の“コロナ元年”では、映画館が178日間も営業中止を余儀なくされていました。そんななか、1カ月の延期をしたうえで開催した上海国際映画祭は“起爆剤”となり、その年の中国映画市場に大きな影響を与えていました。そんな“起爆剤”となりえる上海国際映画祭が開催中止。中国映画市場は、さらなる窮地に立たされることでしょう。

ちなみに、今年の上海国際映画際に応募していた日本映画は、過去最高の本数でした。中国映画市場に作品を披露できる場になるはずだったんですが……非常に残念な結果となってしまいました。


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●「花束みたいな恋をした」異例の大ヒット!

数少ない“良いニュース”のひとつが「花束みたいな恋をした」の大ヒットです。日本映画としては極めて異例となった4カ月のロングラン上映を達成し、「万引き家族」(9675万元:19.2億円)に次いで、中国映画市場における日本実写映画興収の歴代2位(9606万元:19億円。動員は約281万人)となりました。日本の実写映画の興収が7000万元を超えたのは、2019年の「祈りの幕が下りる時」(6764万元:13.4億円)以来の大快挙。「花束みたいな恋をした」の成功は、日本の実写映画の可能性を、改めて示すものでした。

本コラムの第19回「なぜ『リトル・フォレスト』が大人気なのか?“TOP250”から読み解く、中国でウケる映画の傾向」(https://eiga.com/extra/xhc/19/)では、ソーシャル・カルチャー・サイト「Douban」のオールタイムベスト(映画版)TOP250のランキングについて紹介しています。

当時、日本映画は、32本の作品がランキング入りを果たしています(アメリカに次ぐ本数)。しかも、その半分は、なかなかヒットしづらい実写作品でした。

「Douban」が発表した2021年のランキングでは、「花束みたいな恋をした」は日本映画部門で1位、外国映画部門で2位にランクイン。8.6の高得点(10点満点中)を記録し、「見た」をチェックしたユーザーは50万人を超えました。

しかし、不思議なことに「花束みたいな恋をした」は、中国で公開される前から、既に「Douban」で高評価となっていました。これは、日本国内での配信スタートと同タイミングで、本編映像が世界中に流出。多くの人々が、海賊版で作品を見ていたからです。

花束みたいな恋をした」の中国での大ヒットは、過去に「存在のない子供たち」が中国で爆発的にヒットした事例と似ていると思います。既に出回っていた口コミの効果によって、観客が劇場に足を運ぶ……というパターンです。

そして、日本と同タイミング、もしくはもう少し近い時期で公開を調整することができれば、より興収がアップする可能性があるでしょう。振り返ってみれば「万引き家族」がそうでした。海賊版が流出していないタイミングで中国公開され、大きな話題を呼んだんです。

近年の韓国映画の海外進出の事例を見てみると、面白いことに気づくはずです。大作・話題作は、基本的にアジアの国・地域で同時公開、あるいは1~2週間遅れで公開としています。国境を越え、各国の観客が一緒に盛り上がることを狙っているはずです。


激動の2022年上半期を経た中国映画市場。7月に入ると、上海の映画館が営業再開。これによって、少しずつ活気を取り戻しています。しかし、多くの課題を解決しない限りは、簡単に危機を脱することはできません。下半期の動向も注目していきたいと思います。

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