ウォン・カーウァイとの仕事はどうだった? バズ・プーンピリヤ監督が明かす「プアン」裏話

2022年8月7日 10:00

インタビューに応じたバズ・プーンピリヤ監督(中央)
インタビューに応じたバズ・プーンピリヤ監督(中央)

バッド・ジーニアス 危険な天才たち」で注目を集めたタイのバズ・プーンピリヤ監督。その才能に惚れ込んでプロデュースを熱望したのが、名匠ウォン・カーウァイだ。「気鋭の監督×世界的名匠」という奇跡のタッグは、甘くて苦い青春ロードムービーを生みだした。

「プアン 友達と呼ばせて」は、プーンピリヤ監督の半自伝的物語。白血病で余命宣告を受けた男ウード(アイス・ナッタラット)が、親友・ボス(トー・タナポップ)とともに元カノ巡りの旅へ。過去と現在を交錯させつつ、2人の旅は終着点へと向かっていく。しかし、この“終わりの地”こそ、新たな物語が語られる“始まりの場所”だった――。

日本公開に際して、来日を果たしたプーンピリヤ監督。ウォン・カーウァイとの仕事を振り返りつつ、作品へのこだわり、そして今後の展望についても語ってくれた。

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――本作の企画は、ウォン・カーウァイ監督から「一緒に映画を作ろう」と声をかけられたことでスタートしていますよね。そもそもプーンピリヤ監督にとって“ウォン・カーウァイ”とは、どのような存在だったのでしょうか?

ウォン・カーウァイ監督の影響を受けていることは否定しません。大ファンなんです。私が若い頃に名を成した方ですが、彼の作品は、映画に対する視点を変えてくれました。それまでの私は、映画を“娯楽”としてとらえていました。ですが、ウォン監督の作品を観た後は、もっともっと映画を追求したくなりました。ストーリーだけでなく、気持ちも語っていると思えたからです。登場人物の行動や理由よりもアート・ディレクションやカメラワークが重要であり、ストーリーは非常に立体的で面白い。本当に素晴らしいと思えたんです。

――思い入れの深い作品はありますか?

好きな作品は「恋する惑星」。そして「ブエノスアイレス」です。「ブエノスアイレス」は、30~40代の男性の気持ちをよく表していますし、何より心に響く作品ですよね。例えるならば「恋する惑星」はポップミュージック。「ブエノスアイレス」はジャズと言えるでしょう。

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――ウォン・カーウァイ監督のアドバイスで、最も印象に残っているものはなんでしょうか?

今回の作品は「映画を作っている」というよりも、「絵を描いている」というような気持ちで撮影に臨んでいます。ウォン監督から教わったのは「自分の本能を信じる」ということ。これまでの私は、与えられたテーマに対して、その題材に沿った作品を生みだしていくということに慣れていました。ウォン監督からは「自分自身が何を聞きたいのか。そして、どんなストーリーにしたいのかということを大切にする」ということを教わりました。

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――ウォン・カーウァイ監督は、撮影現場には一度も来なかったそうですね。プーンピリヤ監督は「ウォン・カーウァイ監督に捧げるような画作り、光の使い方を心掛けた」と仰っていますが、何故そうしようと思ったでしょう?

ウォン・カーウァイらしさ”というのは、ウォン監督と脚本のことを話し合っている時から決まっていました。確かに、一度も撮影現場には来ていません。ですが、ウォン・カーウァイ映画の雰囲気、味わいに通じる“魂”が、脚本にこもっていたんです。ですから、私は監督として、その“魂”をビジュアルに落とし込むだけでした。

(ウォン監督とのやりとりは)タイのプロデューサーと仕事をする時と変わりません。例えば、人生や世界に対する視点について。それらに関して、ウォン監督と私の視点を拡大していった結果「プアン」になりました。さまざまな方が、こんなことを考えているそうです。「ウォン監督は、このプロジェクトをどれほどコントロールしたのだろう」と。

ウォン監督は「あなたは何をしてもいい。あなたが信じていることであれば」と仰ってくれました。色々なアイデアを提案していただき、それについて議論をする。アイデアに対して、監督として向き合うということを心掛けていました。ウォン監督は、私が働くための“余白”のようなものを、かなりたくさん残してくれていました。

このプロジェクトをスタートさせる前、周囲の人から脅しを受けていたんです。「ウォン・カーウァイ監督はめちゃくちゃ細かい」と(笑)。でも、そんな一面は全く見えませんでした。編集に対してのコメントはありましたが、脚本作業が終わった後は「撮影してください」とだけ。細かなことは何も言ってこなかったんです。

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――本作は、プーンピリヤ監督が自分自身を投影した作品です。ウォン・カーウァイ監督から提示されていた「バケットリスト(死ぬまでにやりたいことリスト)ムービー」というアイデアを一度捨て去り、新たに生み出したのが「死にゆく男性が、元カノたちに感謝と謝罪、そして最後のさよならを言いに行く」という内容でした。当時「最も描きたかった物語」だったそうですね。

なぜそのような心境になったのかと言えば、年齢的なもの、周囲の人の状況が作用していました。人生における「死」を考えるようになっていたからです。「死」を考えるということは、現在を見直すということ。「今、価値のあることをやっているのか?」「自分や周囲のためにすべきことをできているのか」。そんなことに思いを馳せるようになりました。

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――本作のラストには「ロイドに捧ぐ」というテロップが挿入されています。ロイドさんは、プーンピリヤ監督がニューヨークで暮らしていた頃の友人。脚本を書き上げた2週間後、ロイドさんが、ウードと同様に余命宣告を受けたことを知ったそうですね。そんな大変な状況にありながらも、ロイドさんは作品づくりに協力しています(その後、本作の完成を待たずに他界。ラストのテロップは、感謝を込めたもの)。どのような面でアドバイスを受けたのでしょうか?

彼は良き友だちでした。ただし、性格はウードとは似ていません。でも、ウードと同様に「ある日、この世を去らなければいけなくなった」というバックグラウンドは同じものでした。協力してくれたのは、ウードの外見に関してです。アイスさんは、実際の末期患者(=ロイドさん)を目の前にすることで、ウードというキャラクターを深く理解することができました。

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――“元カノ巡り”を経て、物語はウードの告白によって、意外な展開を見せます。このパートは非常に新鮮で、驚きに満ちていました。

よく聞かれるんですよ。「監督には、実際にウードのような友だちがいるんですか?」って。答えは「いません」です(笑)。ウードとボスは、自分自身から生まれたキャラクターでもあります。彼らは、過去と現在の自分です。過去の自分が、現在の自分に語りかけている――あの告白のシーンは、自分の心をセラピーしているような場面でもあります。

――タイの映画界は、今どのような状況になっているのでしょうか?ぜひ教えてください。

世界と共通することかもしれませんが、タイの映画界の大きな問題は「映画館に足を運ぶ人が減ってしまった」ということです。オンラインで気軽に映画が観られるような状況になってしまった。映画館に行く機会は、多額の予算で作られた大規模な映画、もしくはスーパーヒーロー映画の鑑賞が中心となってしまっています。

この状況には、長所もあると思います。配信プラットフォームが増えれば、コンテンツも増加する。映画製作者にとっては、コンテンツを作るチャンスが増えます。さまざまな方法で、映画が人々に届いていく。これは観客が増えているということでもありますよね。その一方で「自分の作った映画が映画館で上映されない」という欠点にも繋がっていると思います。

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――今後の展望についてお聞かせください。

現在進行形のプロジェクトもあるんですが、監督として考えていることがあります。「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」は“観客のための映画”でした。「プアン 友だちと呼ばせて」は“自分のための映画”です。次は“社会のためになる映画”を作りたいと思っているんです。娯楽以上の意味を持つ……そんな作品が作ってみたい。これは私の映画監督としての目標です。そして今は、この目標を達成できるタイミングだと思っています。

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