【ヒラル・バイダロフ監督「クレーン・ランタン」インタビュー】映画の音に関してはとても重要で、後で録音したり自分で創作しています

2021年11月7日 18:00


「クレーン・ランタン」
「クレーン・ランタン」

現在開催中の第34回東京国際映画祭コンペティション部門に、ヒラル・バイダロフ監督作「クレーン・ランタン」が選出されている。4人の女性を誘拐した罪で収監されているダヴに面会した法学生のムサは、彼が被害者から告発されていないことに疑問を抱き、質問を投げかける。その対話は抽象的。罪そのものではなく、国家正義やモラルについて問いかける台詞劇が「クレーン・ランタン」だ。トークサロンでのバイダロフ監督曰く、「結果は重要ではなく、その場その場でインスピレーションを得たことを映像に収めた」。優美な映像とともにサウンドデザインに圧倒される力作だ。足掛け2年にも及んだ本作について聞いた。

――2年間の製作プロセスを教えていただけますか?

ヒラル・バイダロフ監督(以下、バイダロフ監督):最初に映画を撮ろうと思ったときには、キャラクターと空間があるということくらいしか考えていなかったのですが、途中で、もっと街を入れたいとか、もっと広い広大な風景が必要とか、なぜかわからないけど思いついたんです。そこで、いくつかの登場人物を撮っていたのですが、1年くらいしたときに、方向性が変わりました。

最初は、若い男が人生の意味を探しているという流れ。でも、もうひとり出てきたことによって、さらに1年かかりました。撮影に時間がかかりすぎたために、編集にものすごく時間がかかって、ポストプロダクションも非常に長くかかりました。

――雄大な自然をとても美しく撮れているとともに、自然音の扱いが素晴らしかった。あれは現場で録れていたものですか、それとも後からポストプロダクションで作ったものなのでしょうか?

バイダロフ監督:その質問、待っていました! 音について聞かれたのは初めてです。実は、私は音にものすごくこだわっているのですが、誰も聞いてくれないのです(笑)。映像は私にとってはとても簡単なことで、直感でそこにあるものを撮ればいいと思っています。でも、音はクリエーションだというふうに思うからです。

本作においては、その場でも録音しているのですが、撮影が終わると撮影時に録ったものは大体削除してしまっていて、後で音だけ録ったり、自分で創作しているんですよ。都市や村、街の音、それから油田の音、自然の音など、それぞれハーモニーを持たせ、シンフォニーを奏でるような気持ちで音に携わっています。鳥の声や自然の音は、そのものを録ってもあまり面白くないんですよね。もっと美しくするにはどうしたら良いかと考え、音を創造していきました。

また、尋問室のような面会シーンでは、音自体はシンプルだけど、水滴が落ちる音を作って、洞窟にいるような雰囲気を作りました。シンプルな部屋なのですが、音をクリエイトすることによって洞窟のような暗く狭い感覚を作りました。また、各キャラクターにはそれぞれ違う時空間、違う風景があると思うので、それぞれに独自の音やコンセプトを作っているのです。

――撮影後の作業がかなり多かったですね。ポスプロは重圧になりました?

バイダロフ監督:編集も含め、ポスプロの時は毎日3~4時間しか睡眠時間をとれませんでした。編集を始めて、夜になるとサウンドミキシングをするというような、本当にバタバタの約6カ月でした。その間に、私の友人のカナン・ルスタムリが音楽も同時進行しました。私の音に対するこだわりがとてつもないことから、本当に大変な作業になってしまいました。

――映画祭に寄せていただいた監督のメッセージにも音の話をされていますね。

バイダロフ監督:音の記憶だと、やはり油田。16年前に亡くなった私の父が油田で働いていたので、父が働いている所に行って、そこに一緒に座って過ごし、いつも音を聞いていました。クレーンの音などは、どんな映画よりも私にインパクトを与えてくれたと思います。油田の音は、父をはじめとする家族とともに、私に非常に大きな影響を与えていて、いつも幸せな記憶とともにあります。私は今、母と一緒に住んでいますが、父のことを思い出さないときはありません。家族の思いというのは常にあるわけです。

――たいへん美しい音色の弦楽器を音楽で使いましたね。あの弦楽器は何ですか?

バイダロフ監督:イランのサントゥールといいます。私の映画には欠かせない音楽担当のカナンさんには、編集が終わった時点ですぐに見せて、作曲をお願いしています。今回は、イランの楽器を使って東洋的な雰囲気の感じでお願いしました。アゼルバイジャンの音楽や私が大好きなミュージシャンの音楽も使っているのですが、世の中はアゼルバイジャンの文化だけでできているわけではないですし、私はイランの音楽や文化、詩人がすごく好きなので、今回はサントゥールを使っています。古い弦楽器、それこそみんなが忘れてしまったような砂漠で使われていた伝統音楽の楽器というのが、私にはしっくり来ましたので。

――そこまで音にこだわる監督だと、サウンドデザイナーとはもめそうですね。

バイダロフ監督:ちょっとありましたね(笑)。彼は手を叩く音など、現実の音を使いたがる傾向がありました。でも私は、それは忘れてくれ、映像の雰囲気を大切にしたい、と注文するんですよ。例えば、山の雪とか雲がかかるときに、実際にはこういう音が入らないかもしれないけど入れたい、と発注します。でもデザイナーは、リアルなそこにある音を使いたい。結局、これは私の映画だから私のやりたいようにやらせてくれと言ってしまったんですよね。

――監督自身が自分でいじったところもあるということですか?

バイダロフ監督:そうですね。雪のシーンは自分でやりました。お気に入りのシーンです(笑)。

――2年間のプロジェクトが終わったばかりではありますが、次はどのような構想が?

バイダロフ監督:実は2本の映画を撮影し終わりました。1本は編集が終わって、もう1本の編集に取り掛かっています。全く違う作品です。でも、どうなるかはわからないですね。たとえるなら私は母親で、映画は自分の子供ですから、死産や流産になってしまうかもしれない。元気な子になることを祈りますが(笑)。

インタビュー/構成:よしひろまさみち(日本映画ペンクラブ)

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