「これからはスローモーションの時代」橋本愛、バフマン・ゴバディ監督と時間をかける豊かさを語り合う

2021年11月4日 19:00

対談した橋本愛(左)とオンラインで参加したバフマン・ゴバディ監督
対談した橋本愛(左)とオンラインで参加したバフマン・ゴバディ監督

第34回東京国際映画祭と国際交流基金アジアセンターによる共同トークイベント「『アジア交流ラウンジ』バフマン・ゴバディ×橋本愛」が11月4日に開催され、東京ミッドタウン日比谷で、橋本愛がオンライン登壇したイラン出身のクルド人監督バフマン・ゴバディと語り合った。

今回の対談を前に、ゴバディ監督の「亀も空を飛ぶ」(04)を鑑賞したという橋本。イラン・イラク戦争、湾岸戦争などで荒廃した、イラク北部クルディスタン地方の小さな村の子どもたちの生活を、リアリズムと幻想を混在させ力強いタッチで描く作品だ。

「ものすごく感動しました。ゴバディ監督のほかの映画もすべて見てみたいと思いました。心情を生々しく描くことと、クルディスタンの生活に根差した描写がすごい。自分の人生とはかけ離れた、苦しい状況に置かれた人たちがいるということに胸を打たれて、いろいろ考えさせられた。映画としてのエンタメ性も高くて、あっという間。最後は涙が止まりませんでした」

「結果的に絶望を描いていたとしても、この映画が作られたことに希望を感じました。日本ではある期間内に撮り、その中で動ける俳優さんを……と折り合いをつけて作ることが多い中で、ゴバディ監督の心血を注いで作られた映画に希望を感じました」と感想を伝える。

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ゴバディ監督は、橋本が主演した「リトル・フォレスト」を見て、「現代の映画ですが、橋本さんの演技を見ると、昔の日本映画の役者を思い出します。小津安二郎黒澤明など日本の黄金時代の映画や、橋本さんの演技も昔の役者さんの演技がダブるのです」「私はイランのクルド人ですが、『リトル・フォレスト』に距離や溝を感じませんでした。映っているのはクルディスタンかな、と思うほど。同じ人間ですから、心にしみれば距離は感じないのです」と述べた。

さらに、「映画製作は人生と同じだと思います。明るい場所もあれば暗い場所もある。体にもよいところと悪いところがある。映画には、ピンポンのようにユーモアや悲劇が織り交ぜられます。『亀も空を飛ぶ』の子どもたちの生活は悲劇です。2カ月間一緒に撮影しているときは、楽しみましたが、映画が終わったら、子どもたちはまた悲劇の生活に戻らなければならないことを知っていたのです」「私は人生を味わいながら映画を撮りたいので、素人を使います。夢は、プロの役者さんと3カ月遊びながら映画を撮れればいいのですが」と自身の映画哲学を語る。

橋本は、今の日本の映画界では短期間での製作が日常化していることを挙げ、「長期間で撮った作品のことは覚えています。良い映画は時間をかけないとできないのでは? とも思います。もちろんタイムリミットの中で最大限のことをしていますが、時間をかけて作ることは贅沢なことと、監督やプロデューサーさんもわかっていると思うので、システムや環境も改善していくといいなと思います」と希望を述べる。

「じっくりと時間をかけることが良作につながる」というゴバディ監督と「ひとつひとつが深い体験になるような映画作りに参加したい。そんな現場にご縁があれば」という橋本。お互いの考えが共鳴し、ゴバディ監督は「いつか仕事をしましょう。連絡したら、1年の撮影のつもりでスーツケースを持ってきてください(笑)。私たちはスローモーションの時代を作れます」と提案する。

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橋本は、何もかもが早く進む時間を生きることに違和感があると告白し、「女優は東京にいないとやりにくい仕事ですが、時間を分けて、東京を出る時間をを作りたいと思っています。なぜそう思ってしまうかが、今日の会話でわかりました。人って本当の豊かさを知っているんだな、だから求めているんだな、と。これからはスローモーションの時代を作るべきだなと思いました。ぜひ映画を一緒に作れたらうれしいです」と応えた。

さらに、コロナ禍では自分と周りの人間の世界や、自身の死について考えたというゴバディ監督。「人間、寝るときは一回死に、朝起きると生きかえるのです。寝たまま死んでしまうこともあるかもしれません。ですから、私は朝起きて神に感謝するのです」と話す。

そのエピソードを受けて橋本は、「去年も『はちどり』のキム・ボラ監督と同じ話をしたんです。私も毎日そういう気持ちで生きていて、同じ思想を持つ方と去年も会え、今年も同じ企画で同じような感性、通じ合うものがあったことに感激しています。私も毎日神様に感謝して1日を始めるので、同じような習慣があってうれしいです。全く違う文化の中で生きていて、そんな中でも何かで繋がることは、こんなにも豊かで尊いものなのだな、と心にしみています。ありがとうございました」と偶然に感激しながら、感謝の気持ちを述べていた。

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