ビーニー・フェルドスタイン、迷えるティーンに贈るメッセージ “自分作り”の冒険の果てで見つけたものとは

2021年10月21日 16:00

役づくりのため、イギリスでアルバイトを経験したビーニー・フェルドスタイン
役づくりのため、イギリスでアルバイトを経験したビーニー・フェルドスタイン

レディ・バード」「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」で注目を浴びたビーニー・フェルドスタインが主演する「ビルド・ア・ガール」が、10月22日に公開される。フェルドスタインは、1990年代イギリスの音楽業界に単身乗りこみ、辛口音楽ライターとして活躍する高校生をチャーミングに演じた。フェルドスタインがこのほどインタビューに応じ、自身の10代の頃の思い出や、本作にこめたメッセージについて語った。(取材・文/編集部)

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1993年、イギリス郊外に家族7人で暮らすジョアンナ・モリガン(フェルドスタイン)は、底なしの想像力を持ち、文才に長けた16歳の高校生。しかし、学校では“さえない子”扱いされ、悶々とした日々を送っていた。そんな生活を変えたい彼女はある日、大手音楽情報誌「D&ME」のライターに応募し、大都会ロンドンで仕事を手に入れることに成功。しかし、取材で出会ったロックスターのジョン・カイト(アルフィー・アレン)に夢中になり、冷静な記事を書けずに大失敗してしまう。やがて編集部のアドバイスで、嫌われ者の辛口批評家“ドリー・ワイルド”として、再び音楽業界に返り咲くジョアンナ。過激な毒舌記事を書きまくる彼女は爆発的な人気を得るが、徐々に自分の心を見失っていく。

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同作は、作家でコラムニストのキャトリン・モランの半自伝的小説「How to Build a Girl」を映画化したもの。まずは、原作者のモランが手がけた脚本の魅力を聞いた。

「私はロサンゼルスで生まれ育ったので、今回の舞台であるウルバーハンプトンは地球の反対側であるにも関わらず、すぐに『私はジョアンナというキャラクターを知っている』と思いました。人生で次のステージに行こうとしている、自分が誰だか見極めようとしているというはちきれんばかりの気持ち、自分のアイデンティティを求めているところに、『分かる!』と共感しました。脚本も生き生きとしていて笑えるし、彼女の勇敢さに何よりも惚れこみました。羨ましく感じられるほどの勇敢さ、悪びれずに自分自身であるところが好きで、彼女を通して勇気のある自分に出会うことができました」

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フェルドスタインは役づくりのため、ジョアンナが暮らし、モランの出身地でもあるウルバーハンプトンに滞在。地元の女性アーティストが運営するお店でアルバイトもしたという。アクセントを完璧に習得しただけではなく、キャラクターにまつわる学びもあったそう。

「ウルバーハンプトンの印象としては、私が知っているどんなところよりも80倍くらい静か。キャトリンさんは思考も言葉も早いので、このゆっくりとしたペースの町では(自分自身を)抑えきれずに、飛び出していかなくてはならなかったのかなと思いました」

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これまでも、「レディ・バード」の主人公クリスティンの親友ジュリー、「ブックスマート」の成績優秀な優等生モリーなど、さまざまなティーンエイジャーのキャラクターを輝かせ、観客を魅了してきた。本作で演じた、想像力と知性にあふれ、「何者かになりたい」というエネルギーを燃やすジョアンナは、どのような青春時代を送っているのだろうか。

「年を重ねてきたから、そろそろ高校生を演じられなくなってきたかなと思っていますが、高校生の物語は大好きなんですよね。いままでは友情の話が多かったけれど、ジョアンナはひとりなんです。孤独というか、親友という存在がまだいなくて、産後うつを抱えた母親にも構ってもらえるわけじゃない。面倒を見てくれる人、愛してくれる人、そばにいる人がいない。特に映画の冒頭では、ひとりで世界に直面していかなくてはならない雰囲気があるんです」

「私自身は10代の頃、演劇オタクでした(笑)。特にミュージカルが好きで、高校では普通の舞台だけではなく、ミュージカルや即興演劇やコメディや合唱に取り組んでいました。自信を持っている10代だったんじゃないかな。『その自信がいまもあれば良いのにな』と思います(笑)。10代は、悪びれずに自分の情熱を傾けることができる時代だと思うので、あの頃を演じることは大きな喜びなんです」

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劇中には、ジョアンナにとっての神々――歴史上の偉人や憧れのキャラクターなどのピンナップが貼られた「神の壁」が登場する。これは映画オリジナルの設定で、「壁」の人物たちが動き出し、迷えるジョアンナと会話をするシーンが実にコミカルだ。「もし自分の『神の壁』を作る場合、誰の写真を貼りますか?」という質問に、フェルドスタインは「この質問は大好きです! 聞いてくれて嬉しいです」と目を輝かせる。彼女自身も撮影中、スタッフの人となりを理解するため、「あなただったら、誰を壁に入れる?」と聞き回っていたという。

「私も壁に入れたい人がたくさんいるんですが、ミュージカルが好きなので、スティーブン・ソンドハイムと、アデル。役者としてのアイドルでもあるサンドラ・オー。「POSE」シリーズのMJ・ロドリゲスメリッサ・マッカーシーも大好きですし、オーガスト・ウィルソンも。キャトリンは人物だけではなくキャラクターも壁に登場させていたので、『ギルモア・ガールズ』のローラ。あとはキャロル・キングとジェームズ・テイラーですね。今日はそれぐらいにしておきます(笑)」

フェルドスタインの兄であるジョナ・ヒルについては、大笑いしながら「彼の写真は、家族写真の壁に十分ありますから(笑)!」と否定していた。

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さえない学校生活を送っていたジョアンナは、音楽ライターの仕事をきっかけに、世間にもてはやされる過激な辛口批評家“ドリー・ワイルド”に変身する。兄クリッシー(ローリー・キナストン)の家出資金9ポンド48セントを借り、髪をチェリーレッドに染め、コルベットやトップハットやフロックコートを身に着け、もうひとりの自分を作り上げていく。ジョアンナのファッションやヘアスタイルが象徴的なモチーフとして機能しており、終盤の“ある描写”は名作「若草物語」の主人公ジョー・マーチを想起させる。

「キャトリンも私も『若草物語』が大好きで、『神の壁』にもジョーがいる。劇中には『若草物語』のエッセンスがたくさん入っているんです。私がすごく気に入っていた赤い髪は、ロンドンのウィッグ屋さんが手作りしたもの。ウィッグを被るのが初めてで、特別でした。赤いショートヘアが1番好きですね。あの髪形をしている時は、反抗心や反逆心に満ちていて、クールな感じがしました」

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迷い、壁にぶつかり、傷付きながらも前を向き、“本当の自分”を探し続けるジョアンナ。自分自身を知るために大切なのは、どのようなことなのだろうか。

「ジョアンナが『第4の壁』を破って、観客に直接語りかけるモノローグがあります。(そのモノローグにもあるように)キャトリンの作品が持つ贈り物のひとつは、私たちひとりひとりに『いいんだよ』『素敵だよ』と言ってくれるところなんです。ティーンにも大人にも『常に進化し続けていいんだよ』と許してあげることって、すごく大切なことだと思います。またキャトリンは『鎧を着ると安心するし、安全だと思うけれど、逆にその鎧があるために、それ以上成長できなくなってしまう。踊りたくても踊れないし、自由に動くことができない』とよく言っていたんです。そういう鎧を取り払うことの大切さを改めて、学びました」

「10代の時に、自分のために作り出したアドバイスがあるんです。10代の頃って、クラブに入るのを断られたり、友達になりたい人となれなかったり、そんなことがありますよね。その時に私は、『相手がビーン(豆、ビーニー自身のこと)を欲しいと思うかどうか、そのどちらかしかない』と言い聞かせていました。つまり『ありのままの自分を、相手が受け入れるか受け入れないか、どちらかなのだから』ということです。相手に合わせて自分を変える必要はなく、そのままの自分をちゃんと見せることで、自分が相手にとって『愛すべき人』として現れると考えるようにしたんです」

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また本作では「ティーンの自分作り」というテーマと並行して、「働く女性の奮闘」が描かれている。いまよりも遥かに女性が働きづらかった93年、男性だらけの音楽雑誌の編集部に飛びこんだジョアンナ。彼女はある日、男性社員から「膝に乗って」と言われるが、膝の上でジャンプし、セクハラに立ち向かっていく。フェルドスタインは「パワフルだからこそ、ユーモラスにもなっているシーン」だと語る。

「10代の女の子が、居心地の悪い状況に置かれそうになった時に、彼女はチャーミングさとユーモアと機知を使って、『あなたが求めているのはこういうことよ』と、相手に知らしめている。こうして私たちは、過去にはもしかしたら女性のいる余地がなかったかもしれない場所に、自分のスペースを作り出すことができると思います」

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ビルド・ア・ガール」では、そのタイトルが示す通り、16歳の女の子が逃げ出さずに自分自身と向き合い、やがて自分らしさや生き方を見つけるまでの冒険が描かれている。その過程は失敗だらけで、もちろん無傷ではいられない。彼女が流す涙、自分のことを嫌いになるほどの深い後悔、その果てで見つけた大切なもの――何もかもが丸ごとつまった物語は、青春時代を通り抜けた全ての人を肯定し、「ひとりじゃない」「ありのままでいい」と力強いエールを送っている。

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