ケネス・ブラナー、トロントで観客賞をとった「Belfast」を語る「“あの頃のベルファスト”に戻りたかった」

2021年9月23日 16:00

第46回トロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を獲得した「Belfast(原題)」
第46回トロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を獲得した「Belfast(原題)」

23歳からロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに参加したケネス・ブラナー監督。数々の舞台作品に出演した後、映画「ヘンリー五世」「ハムレット(1997)」などで主演・脚本・監督を務め、その後「マイティ・ソー」「シンデレラ(2015)」「オリエント急行殺人事件」といった話題作を手掛けてきた。このほど開催された第46回トロント国際映画祭では、新作「Belfast(原題)」で最高賞にあたる観客賞を獲得し、オスカーレースのトップに躍り出た。映画祭の会期中には、トークイベントに出席。「Belfast(原題)」や過去の作品について語り尽くしてくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

まずテーマとしてとりあげたのは、若い頃から慣れ親しんできたシェイクスピア作品について。「僕は多くのシェイクスピア作品に慣れ親しんできたが、作品が有する“言語音楽”が大好きだなんだ。発せられる音にも意味があることがわかり、16~18歳で演技を始めた際、物語のシンプル(簡素)さについて考えさせられた」と口火を切った。

「シェイクスピア作品とは、何が起こっているのかを解明するための謎であり、精神的なパズルでもあった。しかし、それらが言葉を超え、感情的にもどれだけ素晴らしいかを常に把握していた。そのため、よく理解できない時でも、感動したり、魅了されてきた。シェイクスピア作品がもたらす謎や性質が、僕は好きだった。自分の仕事(俳優業、監督業)を通じた僕の価値が、シェイクスピア作品の言葉の意味合いを通して、同様に(彼の作品に)驚がくしている人々に向けられている事実も好きだった。おそらく俳優ならば、シェイクスピア作品の通訳者になれると思ったんだ。この比較的古い言語が、新しい世代に向けてリフレッシュされる必要がある時、シェイクスピア作品を通して開かれた“人間の条件”について、深く理解するためのパイプになることができると思った」

では、シェイクスピアの舞台作品を映画化するうえで、まずは何から始めることになったのだろうか。

「『ヘンリー五世』を手掛けたのは、今では信じられないが、27歳の時だった。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで24歳から主演を演じ、その後、2年間に100回もの上演を経て“いかに演じるか”が骨に染みついていた。そこではリーダーになることを学び、責任の重荷、リーダーシップの孤立を理解することで、映画を作ることができた。孤独や致命的な過ちを犯すことは、若い人々がそのようなリーダーとしての立場になる時に支払われる代償みたいなものだ。それは僕が舞台で演じることで得た経験であり、そして、興奮するようなセリフとともに、実際の身体的な行動を提供する素晴らしい瞬間だった」

「オリエント急行殺人事件」
「オリエント急行殺人事件」
「ナイル殺人事件」
「ナイル殺人事件」

ブラナー監督は、シェイクスピア作品以外に、アガサ・クリスティ作品(「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」)も手掛けている。彼女の作品の何に惹かれているのだろうか。

「アガサ・クリスティは、アンサンブル、キャタクターの存在、小さな特徴を意識したセリフ、お洒落の扱い方を知っている。監督として、そして俳優としても、映画の中でそれらに相当するものを見つけようとすることは、本当に楽しいことなんだ。観客もそこを気に入っているのだと思う。彼女の作品では、セリフ、お洒落な要素のさりげなさ――その全てが重要だ。まるでチョコレートの箱のように、さまざまなキャラクターたちが交錯し、素晴らしきイスタンブールの駅にいる。そのことで、彼らが列車という“野性的な文明”に向かっていくことがわかる。人々の評価よりも、遙かに優れた作家だと思う。彼女が素晴らしいストーリーテラーであることは誰もが知っているし、実際に、彼女の“セリフ”についてよく考えることがあるんだ」

「Belfast(原題)」
「Belfast(原題)」
「Belfast(原題)」
「Belfast(原題)」

最新作「Belfast(原題)」は、ブラナー監督が幼少期を過ごした北アイルランド・ベルファストが舞台となる作品で、ジェイミー・ドーナンジュディ・デンチらが出演。同作で強く共鳴してしまうのが、ベルファストに住む人々と、劇中で描かれる家族の親密なコミュニティの意識。この点は、ブラナー監督自身が実際に経験したことなのだろうか。

「その点については、確かにその通りだ。本作の脚本を書き始めたのは、新型コロナウイルスでイギリスがロックダウンになった時のこと。その出来事は、ある意味、僕自身が確実な場所に戻るための探究だった。なぜなら現在の我々は新型コロナウイルスなどの影響によって“不確かな時代”を生き、とても不安を抱えている。政府の規制によって、一体何が起こるのか――毎日が不明確で、多くの未来は不確か。新型コロナウイルスによる新しい脅威もやってきている。そんな時、自分の人生のなかで、世界との関係を完全に理解し、自分自身でいることがとても楽で安全で、落ち着いていた“あの頃のベルファスト”に戻りたかったんだ。その頃は、自分を把握し、どこに属しているのかをわかっていたから、自分を見失うこともなかった。それが私がベルファストで見つけたものだった」

「Belfast(原題)」
「Belfast(原題)」

「Belfast(原題)」は、モノクロによって描かれている。この点については「撮影監督のハリス・ザンバーラウコスは、写真家のアンリ・カルティエ=ブレッソンの作品が、どのように写真として機能しているのかについて話し合った」と話し始めたブラナー監督。

「アンリは、我々が実際に見ている世界とは異なった“モノクロの世界”で撮影している。それにもかかわらず、人や場所の姿は、詩的で、次元を超えたようにリアルに感じられるものだった。モノクロでとらえる。そこにはどういうわけなのか、実際に見ているものを超えた“重厚さ”のようなものが生じる。ある種の魔法が、イメージとして与えられている感じだ。映像に関しては、ジェイミー・ドーナンとも話し合ったんだが、彼がベルファストで育った頃は『日光がとても強かった』と言っていた。僕がベルファストで育った時は、よく雨が降っていた。街の色合いは灰色。空は、炭や暗い灰色だった。ベルファストは、アイスランドのレイキャビックと同じ緯度なので、かなり寒い。モノクロ撮影は、当時の記憶を呼び起こすためのものなんだ」

「Belfast(原題)」
「Belfast(原題)」

主人公バディを演じたのは、ジュード・ヒル。「僕らは最初に300人の候補から選び、それから半分、100人、12人、6人と徐々に減らしていった」と話し、さらなるキャスティング秘話を明かしてくれた。

「6人全員、非常に才能があった。だが、ジュードはアイリッシュ・ダンスの経験があって、それは規律のなかで学んだ動きだった。劇中では、彼が祖父母の間に座り、テーブルに足を乗っけて動かすバレエのターンアウト(両足のかかとをつけて、両脚を外側に向けること)をするシーンがある。彼は“ダンス”と呼べるようなシーンを見事に演じてくれた。そのほかにも、彼は年上の感覚を持っていたし、頭の回転が速いところも気に入っていた」

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