【「ゾッキ」潜入記:第1回】竹中直人×山田孝之×齊藤工、蒲郡市民と過ごした”監督3人体制”の日々

2021年3月23日 12:00


撮影現場に密着!
撮影現場に密着!

漫画家・大橋裕之氏の初期傑作集を映画化する「ゾッキ」。第33回東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」部門でのワールドプレミア上映という華々しい披露を経て、今春、遂に劇場公開を迎える。さかのぼること2020年2月。映画.comは、その撮影現場に密着取材を敢行。竹中直人山田孝之齊藤工による“監督3人体制”の日々を、全3回にわたってレポートする。

2020年2月18日。筆者が訪れたのは、愛知県蒲郡市。大橋氏の生まれ故郷での全編オールロケによって、映画「ゾッキ」は着々と形作られていた。原作となったのは、17年に刊行された「ゾッキA」「ゾッキB」。18年、竹中が実写映画化を熱望し、山田と齊藤に映画監督としてのオファーをしたことから、企画が立ち上がっている。

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最初に見学することになったのは、木造アパート「つばき荘」を舞台としたシーン。撮影が始まる前、スタッフ、キャストが一堂に会した施設で昼食をとることに。ロケ弁当を見ると、そこには蒲郡市民による手書きのメッセージカードが添えられていた。

「家族で応援しています。完成を楽しみにしてます」

弁当一つ一つに込められた、市民それぞれの“言葉”。蒲郡市による「ゾッキ」への力強い後押しは、滞在期間、常に感じることができた。

「つばき荘」での撮影を指揮するのは、山田監督と竹中監督だ。「Winter Love」(担当:山田監督)の藤村(松田龍平)と「アルバイト」(担当:竹中監督)の伊藤(鈴木福)が交錯する場面――監督それぞれが、担当エピソードのキャラクターを演出するという手法がとられていた。

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では「スタート」「カット」は? コート(スタンリー・キューブリック監督のイラスト入り!)を羽織る竹中監督は、山田監督にこんな提案をする。

竹中監督「スタートは私がかけるからさ、孝之がカットをかけてよ」

その提案に応じた山田監督は、手を動かしながら、松田の動線を探っていく。一方の竹中監督は、吹きすさぶ風を考慮して、鈴木にドアの締め方を指南。やがて響き渡る竹中監督の「本番!」。山田監督はタイミングを見計らって「カット!」と声を張り上げる。ユニークな共同作業だ。

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竹中監督「撮影が一緒になると、それぞれのビジョンが異なるから気をつかい合いますよね。自分が『こうしたい』というアングルを押し付けたりしてはいけない。でも……と考えてしまう。このせめぎ合いが面白い(笑)」

監督初挑戦となった山田。メイン演出となる「Winter Love」のシーンを作り上げるのは、この日が初めてのことだった。

山田監督「(監督業は)楽しいんですが、シーンの割りを考えたり、実際にキャラクターを現場で動かすわけじゃないですか? 僕が『OK』を出したら、撮影はどんどん進行していく。ワクワクする一方で、いざ現場に入ってみると不安もありましたね」

同シーンの撮影は滞りなく進み、鈴木がクランクアップ。ふと「つばき荘」横の道路に視線を遣る。道の反対側には、撮影の噂を聞きつけた蒲郡市民が30~40人ほど集まっていた。完成を待ちわびる市民に見守られながら、竹中監督は鈴木に感謝のハグ。やがて、山田監督と共に、次の撮影地へと向かっていった。

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夕刻に行われたのは「橋詰公民館」を利用した“殺人空手道場”に関するシーン。寒さと強風が身に応える環境の中、道場の師範代役の安藤政信が現場入りし、山田監督と熱い抱擁を交わした。齊藤監督も駆けつけ、ついに“監督3人体制”での演出を迎えることとなった。

この“殺人空手道場”は、物語に置いて重要な役割を担う。各キャラクターが、同道場を背景に通過することで「世界線が同じ地域の物語に見える」と語った齊藤監督。「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」でも“共同監督”を経験しているが、今回のタッグについてはどう感じているのだろうか。

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齊藤監督「とてもやりやすいですよ。山田さんは『デイアンドナイト』でプロデューサーを務めていますし、色々な作品で“演者ではない立場”で臨んだ経験がある。彼の嗅覚は研ぎ澄まされたているので、どんな職業であっても、彼なりの感覚は創造物にきちんと表れると思うんです」

齊藤監督「竹中さんは、非常にクリアな指示をされますよね。どうしたら現場が止まらないかという事もわかっていますし、明確なビジョンを持っている。同時に現場で起きる偶発的なもの――それが“映画の魔法”だと思うんですが、それをキャッチするフレキシブルさがあります。僕なんかは、時として舞い上がってしまい“編集室で後悔する”ということを繰り返してきたんです。ジャッジの基準は、編集室、客席にいる自分でないといけないんです。そういう意味では、竹中さんは客席にいる感覚が、現場にいる時でも同時に存在している。経験値が見えますよね」

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山田監督いわく、竹中監督は「ロケハンの時点でカット割りが決まっていた」という。齊藤監督と同様に「カット割りだけでなく、アングルに関しても『なるほど、そういう表現の仕方があるのか』と思うことがある」と学ぶべき点は多い。それは勿論、齊藤監督の姿勢にも感じていたようだ。

山田監督「工君は、本に書いていないカットを撮ろうとするんですよ。『こっちを見て下さい』という演出だったり――これは一体、どこに使うんだろうなと。本から(シーンを)膨らませるということをされているんです」

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夕焼けが夜へと転じ、同シーンの撮影は無事に終了。気づけば、ここでも蒲郡市民たちが身を寄せ合いながら、撮影の光景を見続けていた。自分たちの暮らす町、見慣れた風景が「映画の世界」に取り込まれていく。期待に満ちた表情を浮かべながら、ただ静かに、監督陣の「OK」を待ち続ける。蒲郡市民も「ゾッキ」チームの一員――そう、確信した。

続けて、撮影隊が向かったのは、蒲郡駅前の商店街。とある目的から、ここで一旦取材を終えることにした。宿泊施設に戻り、身支度を整えた後、外へと向かう。辿り着いたのは、駅前商店街。声は聞こえるが、撮影隊の姿は見えない。彼らを覆い隠すように、蒲郡市民が周囲を取り囲んでいたのだ。

ゾッキ」の製作を、より俯瞰の視点で見たい――この思いは、各撮影地に帯同した蒲郡市民の姿を通じて生じたものだ。同作の撮影は、大規模のチームによるものではない。しかし、遠目から見た「ゾッキ」チームは、蒲郡市民の姿が加わったことで、より“大きな存在”に見えたのだ。撮影現場という“内側”にいただけでは、この感覚は掴めなかっただろう。

ゾッキ」は、蒲郡市で作られるのではない。

「蒲郡市とともに作られていた」ということを、強く実感する光景だった。

ゾッキ」は、3月20日から蒲郡市、3月26日から愛知県(一部劇場を除く)で先行公開され、4月2日より全国で公開。同作の制作から公開までの“裏側”に迫ったドキュメンタリー「裏ゾッキ」は、今春封切られる。

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