巨匠マルコ・ベロッキオが新作「シチリアーノ」で描く 男の美学を貫いた“裏切者”の定義

2020年8月27日 21:00

マルコ・ベロッキオ監督
マルコ・ベロッキオ監督

[映画.com ニュース]イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオの最新作で、2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された「シチリアーノ 裏切りの美学」が8月28日から公開される。国家を揺るがす大騒動となった実在のイタリアマフィア史上最大のミステリーを映画化したベロッキオ監督が作品を語った。

――ブシェッタはマフィアの歴史のなかで初めて改悛した人とも呼ばれていますが、本作のタイトルを、改悛者(Il Pentito)ではなく、裏切者(Il Traditore)とした理由について教えてください。

ブシェッタが“改悛者”という呼び方を拒否していたことを別にしても、“裏切者”には明らかに二つの意味があります。マフィアの世界では彼は裏切者で、それは国に協力するなどということは絶対にあり得ないという意味で、マフィアの組織内で血や殺人というかたちでカタをつけるものなのに、ブシェッタはこのしきたりを無視しました。彼はとても聡明な人間で、自分の派閥が負け組であって、今や完全な権力を握っていたコルレオーネ派に反撃するチャンスはまったくない、戦う前から負けが決まっていると知っていた。だから彼はこの状況から逃げようとした。それからブラジル当局に逮捕され、イタリアに引き渡された時も、自分には何の可能性もないことを知っていた。コルレオーネ派が彼の仲間を一人残らず、皆殺しにし始めていたからでもありますが、これを止めるために国に協力することにしたんです。ただ、彼はマフィアにとっては裏切者だったが、彼にとってはマフィアの神聖な掟を破ったコルレオーネ派こそ、裏切者だったわけです。

――大裁判のシーンでは、かつて見たことがない法廷の形に驚きました。あれは実際の形状と同じものを撮影用にセットを組んで作ったのですか?

あれは本物の法廷です。ラッキーなことに、実際の法廷を撮影に使わせてもらえたんです。マフィアたちが檻のなかから声をあげたり挑発したりする行為も、実際に起こった出来事を基にしました。

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――ファルコーネ判事は腐敗した政治にも勇気をもって切り込もうとして果たせませんでした。このことに関して当時のイタリア国民の反応はどうだったのでしょうか。

彼は敗けたわけではなく、というのも彼は、これは極めて大きな功績なのですが、裁判を最後までやり遂げたのです。この裁判が、マフィアのファミリーを牛耳っていた大物たちの大半の判決に導かれるようにしたのです。そして、この裁判の後、政治も彼の攻勢にブレーキをかけようとしました。ファルコーネが目指した第二段階の標的は政治家たちだったからです。自分たちはマフィアを逮捕し、裁いたけれども、その上には彼らに手を貸し、守ろうとする政治権力があり、彼らはそのために働き、殺人を犯してきた。この第二段階がファルコーネの目的でしたが、部分的には果たせなかった。彼はパレルモ検事正には任命されたものの、妨害を受け続けた。そしてわずか数年後、社会党のマルテッリ大臣が司法長官としてローマに迎え入れる。けれどもマフィアは彼を追い続け、監視し続け、ついにカパーチで亡き者にするチャンスを見つけた。だから彼は敗北者ではないけれど、実際にはマフィアは彼を殺してしまった。

世論は常に変わるし、簡単に変わってしまう。死によって彼は偉大な英雄となった。それ以前は、最初は疑惑の目を向けられたわけではないにしても、多くの敵がいて彼を批判し、何の証拠もないまま捜査を進めていると糾弾し続けた。その後、大裁判を始めてからは歓迎された。高く評価され、大きな批判を受け、それから殺害された時には神格化され、聖者に、英雄になった――ボルセッリーノと同じように。けれども、この大きな承認を受けるためには殺されなければならなかった。通りや広場や空港が彼の名となって、国民的英雄となった。けれども何年もの間、妨害を受け続け、疑いの目を向けられ、報道でもひどく批判されていた。最初は支持していたのに、疑いの目を向けるようになった媒体もありました。

――コーザ・ノストラという組織の男たちの物語が語られるなかで、妻クリスティーナとの絆を感じさせるシーンが随所にありました。妻がヘリコプターから宙吊りにされるシーンで「ある恋の物語」が流れるなど彼女の登場シーンに必ずと言ってよいほど音楽が使用されていますが、どういった意図によるものですか?

拷問の残忍さの中で音楽を使っていますが、あれが実際に行われたものだということは忘れられません。ブシェッタは逮捕された時、野蛮な拷問を受けました、信じられないようなやり方でです。大西洋に落ちてもおかしくないのにヘリから宙吊りにした妻の姿をブシェッタに見せた拷問もそうです。しかし彼も妻も、口を割らなかった。彼らの大きな力、絆を物語るものです。そしてもちろん、ブシェッタは人生を愛し、人々と共に過ごすことや、パーティーなど、彼は常に歌を歌っていて、そしてこの歌が何らかの形でラストの歌に繋がってゆくのです。ヘリのシーンでは、あの曲を使いましたが、論理的に考えた結果ではなく、あの場面にはまったくそぐわないラブソングを使うことで、あの瞬間のほとんど悲劇的な効果を高められるように思ったのです。

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――本作を見た実際のマフィアの人びとの反応や感想をご存知でしたら教えてください。

マフィアはいますが、隠れているのでね(笑)。ともあれ私達は脅迫や圧力、警告は何一つ受けず、仕事上、妨害を受けることもなく、撮影はとても自由に行うことができました。パレルモやシチリアで舞台挨拶も行いましたが、若い人たちからも大きな関心、反響を得られました。当時の状況を体験していない人間にとっては興味が持てないかもしれないという危惧があったのですが、関心を持たれて、それはその後、観客動員数という形で裏付けられました。当時の郷愁に駆られて見に行った人たちだけではなく、若い世代の観客も見たいと思ってくれたんだと思います。

――次回作について教えてください。

モロ前イタリア首相の誘拐・暗殺事件を描くテレビシリーズになります。「夜よ、こんにちは」(03)でも描いたテーマですが、「夜よ」では幽閉された内側の様子を描きましたが、今回は外で何が起こっていたかを描く予定です。

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