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観客を挑発したい―― 天才監督・石井裕也が「町田くんの世界」で示した“映画表現の自由”

2019年6月6日 18:00

インタビューに応じた石井裕也監督「町田くんの世界」

インタビューに応じた石井裕也監督
(C)安藤ゆき/集英社 (C)2019 映画
「町田くんの世界」製作委員会
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[映画.com ニュース] こんな主人公、見たことない。安藤ゆき氏の人気少女漫画を映画化した「町田くんの世界」(6月7日公開)は、特に派手な物語ではないのにも関わらず、見るものをただただ驚嘆せしめる。主人公・町田くん(細田佳央太)のあまりにもピュアな思考と行動は、同級生たちの心に澱のようにねばつく諦観や悪意を拭い去り、彼らに新たな“世界”を見せていく。(取材・文・写真/編集部)

青春の甘酸っぱさが鮮明に脳裏をよぎる恋愛もののようでもあり、一方で主役が次々と強敵を打ち倒し仲間にしていくバトルもののようでもあり、さらには心躍る冒険活劇を彷彿させたりもする。どの邦画とも似ていない。しかしこの優しく包み込むような筋書きには、胸のつかえを取り去ってくれるような癒しを感じる。平成が終わり、令和という新時代が高らかに幕開けを告げた今、まったく新感覚のジャンルレス映画が産声を上げた。


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メガホンをとったのは石井裕也監督。2013年の「舟を編む」で日本アカデミー賞の最優秀監督賞を史上最年少で獲得し、いまや最も新作を渇望されるフィルムメーカーとして知られている。彼に相対すると、“天才”の呼び名をほしいままにする理由がよくわかる。「流行しているものにも、やっぱり飛びついてみたい」「人が人を好きになるということは、ほとんど奇跡に近い」「観客の皆さんを挑発したい」。インタビューをする最中、数々のしびれる言葉が放たれまくり、その才気もほとばしりまくった。

――「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」などの作風から考えると、少女漫画原作の今作は少々、意外な題材に思えます。引き受けた理由をお聞かせください。

石井監督(以下略):少女漫画原作の映画のように、流行しているものに、やっぱり飛びついてみたかったんです。自分が知らない世界に行ってみたい。かっこよく言えば冒険心のようなものが常にあるんです。「キラキラ映画で勝負したい」という願望もずっとありました。「自分には関係ない」「適正じゃない」と逃げることはできますが、それよりも無根拠でも「俺できますよ」と言いたいんです。飛び込んでみて、挑戦して、何かを得るという経験を求めている。もちろん失敗したら、それはもうしっかり謝りますけどね(笑)。

――劇中には、平成という時代を精算するようなセリフや展開が随所に見受けられました。石井監督にとって平成とはどんなもので、物語に何をこめたのでしょうか。


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個人的に、平成は「ものすごく充実した時代だった」とは言えないと思うんです。停滞感があった。僕は35歳で、物心がついてから明るい話題をほとんどきかなかった。そんななか希望という言葉は、空々しくて好きになれなかったんです。映画のなかでも「希望はあります」と無責任には言えなかった。恥ずかしいから言えなかった。ただ、一方で「とてつもなく素晴らしいことが起こる可能性はある」ということを、どうしても完全には否定できない自分もいます。それならば力強く、声高に言ってもいいんじゃないか。最近はそう思うようになっています。

――そう思えたきっかけはあったのでしょうか。

ありましたね、いくつか。映画は愛とか友情とか夢とか生きる喜びとか、そういう手垢が付きまくったことしか、本来描くべきではないのかもしれない。もっと言うと、愛とか夢とか、えてして歯が浮くような言葉や事柄以外に、描くべきことなんてない。そう思っています。

――製作発表時には、「壁ドンをやってみたい」とおっしゃっていましたね。

今回できたのは、正当な壁ドンとはちょっと違いましたけど(笑)。岩田剛典くん演じる氷室が、関水渚さん演じるヒロイン・猪原を階段で通せんぼするシーンですね。ドン、まではいっていない。チョンくらいですね。壁チョン。どうしてもやってみたくて、岩田くんに「なるべく壁を触ってくれ」と演出しました(笑)。

――前田敦子さんらの芝居は安心をともなう既視感がある一方、「こういう一面があったのか」と驚かされました。新たな魅力を引き出す演出はどのようにされていたのでしょうか。


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キャスティングは第一の演出であり、その意外性が面白さに直結します。(映画は)ほとんどキャスティングで決まるといっても過言ではない。前田さんでも岩田さんでも、すでにパブリックイメージがあって、どこまで新しい要素を付け加えられるかが演出的な肝です。ただ、みんなが思う彼らのイメージを、どこまで変えたら嫌悪に転落してしまうのか、どこまで変えたら興味にとどまってくれるのかは、とても考えるところです。

――彼らから“ほとばしるもの”を、映画を通じ感じることができました。演出する喜びに満ちあふれていたのではないでしょうか。

楽しかったですねえ。しかし、どうなるかわからない不確かさも常にありました。それも面白いことではありますが。不確かさの割合は減らしていくことが可能ですけど、今回は予想できない楽しさ、枠からはみ出していく面白さを追求していきました。とにかく導火線を引き、着火し、あとはどうなるか本番で見守ってみる。「行けー、突撃ー!」って(笑)。

――クライマックスに驚きの場面があります。いざ脚本を書く際、相当の勇気が必要な筋書きだと思うのですが。

めちゃくちゃ勇気がいりましたよ……。脚本を書いてプロデューサーに「これでいきます」と強硬に主張しているとき、もうなんか「俺、何言ってんだろう」と心のなかでずっと思っていました(笑)。普通に考えたら、あの筋書きは(製作過程で)止められます。リスクを考えればやらないほうがいい。でも、僕は絶対にやらなければいけないという確信があったんです。なぜかと言うと、人が人を好きになることは、ほとんど奇跡に近いと思うからです。


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今作は、町田くんという博愛で人類皆を愛していた聖なる少年が、1人の女性に恋い焦がれていくことで、聖なるものを捨て去り普通の人間になる物語なんです。そんな彼に、圧倒的な奇跡をプレゼントしたくなった。人を好きになることの向こう側へ、ぶっ飛ばしてあげたかった。

あのシーンを見て、町田くんと一緒に行けず見送ってしまうお客さんは、少なからずいることは百も承知です。しかしこれは、映画表現の幅、そして生きるということの意味を、自由に押し広げようとする行為でもあります。これからの新しい時代は、くだらないルールや常識に縛られず、自分の思う通りに生きていくべきだと思う。だから僕はこういう表現をしたし、そこに自由を感じ楽しんでくれる人がいたら嬉しいです。

――この作品は「例外に例外を重ねた」ともおっしゃっていました。邦画のセオリーをあえて回避するような今作は、日本映画界に対する挑戦という見方もできますが、いかがでしょうか。

日本映画界に切り込んでどうにかしてやろう、という気持ちは一切ないです。ただ、傲慢な言い方になるかもしれないですが、観客の皆さんを挑発したいとは思っています。現代の映画作家として、今こそ既存の価値観に揺さぶりをかけるべきだと思います。それは当然のアプローチで、それこそが映画の醍醐味であると思っています。

(映画.com速報)
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