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未来を見据えたチャレンジ精神の結実……阿部純子「孤狼の血」に刻んだ深き爪痕

2018年5月11日 08:00

取材に応じた阿部純子「海を駆ける」

取材に応じた阿部純子
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[映画.com ニュース] 女優・阿部純子が“孤狼”の肉体に刻み込んだ爪痕は、想像以上に深い。主演の役所広司をはじめ、松坂桃李江口洋介といった演技巧者らが魂と魂をぶつけ合って完成した「孤狼の血」(5月12日公開)。原作には登場しない唯一のオリジナルキャラクターへの挑戦に役立ったのは、彼女がかつて抱えた悔恨の念、立ち止まることなく女優業を極めようとしたチャレンジ精神にあった。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基)

「警察小説×『仁義なき戦い』」と評された柚月裕子氏の同名小説を、白石和彌監督のメガホンで映画化。物語の舞台となるのは、暴対法成立以前の昭和63年、広島の架空都市・呉原。捜査二課の新人・日岡秀一(松坂)は、やくざとの癒着が噂される刑事・大上章吾(役所広司)のもと、暴力団系列の金融会社社員失踪事件の捜査に参加。違法捜査も辞さない大上に戸惑いながらも、日岡は経験を積んでいく。やがて失踪事件を機に暴力団同士の抗争がぼっ発し、大上は大胆かつ強引な秘策に打って出る。

阿部がオーディションに参加したのは、同作に名だたる名優が結集するというニュースを知ってからのこと。「ロストパラダイス・イン・トーキョー」から白石監督作品を見続けてきた阿部は「演技を試される現場になる気がしました。絶対に受かりたかった」と決意を固めていた。見事射止めた役どころは、男たちの“仁義の世界”で生き抜く術を持つ薬局の店員・岡田桃子。原作には登場しない人物、つまり役作りのヒントとなるのは、与えられた脚本だけだ。


映画オリジナルキャラの桃子を熱演「海を駆ける」

映画オリジナルキャラの桃子を熱演
(C)2018「孤狼の血」製作委員会
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「監督の思いに応えたいという気持ちがありました。どこからかヒントを得たかったです」と「仁義なき戦い」シリーズに登場する女性たちの生き方や目線に注視したものの、脚本を読み込めば読み込むほど、出口なき迷宮を彷徨い始めた。「桃子に関する設定について『これは本当かな?』と考えたり。年齢も若干つかめなかったんです。白石監督やの脳内から出てきた人物だったので、思わず聞きたくなってしまいました」と当時の正直な思いを吐露する。そんな暗中模索の阿部に対して、白石監督が下したのは“委ねる”という演出だった。

阿部「監督に『どの桃子が本当なんですか? 本性はどれなんですか?』と聞いたんです。でも、それは考えないでと言われました。劇中での桃子の存在は、ひとつのエッジに当たる部分だと思いました。私が思っていたのは、とにかく白石監督が考えた桃子を演じたいということ。だからこそ、任せてもらえたことが嬉しかったです。私が動いたものをきちんと受け入れてくださったんです」

完成した作品を見る前までは「ヒントがない状態だったので、相応しいお芝居ができているのだろうか」と不安を隠せなかったようだが、スクリーンに映る自分の姿には「作品の邪魔になってなかったです」。あくまで謙虚な姿勢は崩さない。だが、劇中での阿部は、役所や松坂に引けをとらないほど輝きを放っている。血戦に身を投じた男を魅了する笑み、苦心の末に体得した呉弁は耳馴染み良く、観客に予想だにしない驚きをもたらすシーンでは、180度化けてみせる。登場シーンはわずかながらも、その芝居は確かな爪痕だ。

映画、芝居に愛を捧げることになったのは、女優として初めて臨んだ作品がきっかけだ。残念ながら作品は世には出なかったが「その現場が素晴らしかったんです。3カ月もしっかりとリハーサルをしてくださったり、今でもスタッフさんから『この映画がよかったよ』と連絡があるんです」と現在でも感謝の念は絶えない。そして、第4回サハリン国際映画祭主演女優賞を受賞した河瀬直美監督作「2つ目の窓」では、ある種のカルチャーショックを受けることになった。


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阿部「いかに自分の価値観が脆いのかということを痛感しました。色んな選択肢を与えられるんです。今まで自分が感じてこなかったことを、役のなかで感じていく。私も自分の信念を強く持っているような人になりたい、表現を掘り下げたいなと思い始めたんです」

河瀬組が終わった時、心に渦巻いていたのは「もっと広い世界を見たい」という思い。第67回カンヌ国際映画祭への参加も、1つの転機だった。「英語が話せなかったことが本当に悔しかったんです。大好きだったグザビエ・ドランさんが目の前にいらっしゃったのに、何も話せない。私が頑張れば話せるチャンスだったんです。海外に行くなら今しかないと感じたんです」と述懐し、ニューヨーク大学演劇科に入学した経緯を明かした。

同大学では、コンテンポラリーダンスや古典演劇、発声練習に加え、クラスメイトたちとの脚本作りから始まる映画製作に没頭した。それらの経験を経たことで「役者さんが映画に選ばれて、役を演じるまでに、どれだけの労力と時間がかかっているのか」という映画製作のバックグラウンドを学び、「歌舞伎を見るようになったり、美術館に訪れることも多くなりました。映画も色んな分野のものを見るようになりました」と興味の幅が広がったようだ。

阿部「ニューヨーク大学で勉強したからこそ、吉田鋼太郎さんとシェイクスピアについてお話できました。その時の友達は、私のドラマや映画を見てくれるんですよ。こうやって作品を通じて“繋がっていく”。すごい考える時間があったんですよ。例えば料理を作る、プレゼントをするということだけでなく、もっと見知らぬ誰かのために何かをしたい。作品のなかで演じていれば、私の知らない人の心を打つことができるんです。その気づきはかなり大きかったと思っています」

相米慎二監督の「台風クラブ」に打ち震え、年を重ねたことで「魚影の群れ」の魅力に気づいた阿部。「もしも会えるなら?」と問いかけると、2016年7月に亡くなったアッバス・キアロスタミ監督の名を挙げ「『海を駆ける』でご一緒させていただいた深田晃司監督に教えていただいたんです。監督は色んな映画を薦めてくれました。『オリーブの林をぬけて』を見たんですが、どうしたらこんな素晴らしい作品が撮れるんだろうって感じました。本当に大好きです」と思いの丈を述べた。

好きな俳優は、イザベル・ユペールマリオン・コティヤール。「演じていない時は何をしているのか、なぜこんなに演技の引き出しが多いのか」と質問してみたいという阿部は、今ではチャールズ・チャップリンが出演する名作にも目を向けるようになった。無限の伸びしろを秘めた若き女優の引き出しに、映画の歴史から与えられた知識、良作との出会いによって磨かれた表現力が着々と蓄えられているようだ。

(映画.com速報)

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