最優秀脚本賞を受賞「ペット安楽死請負人」が描いた人間の暗部

2017年11月5日 16:00


メガホンをとったテーム・ニッキと、 フィンランドでは名脇役のベテランとして 知られるマッティ・オンニスマー
メガホンをとったテーム・ニッキと、 フィンランドでは名脇役のベテランとして 知られるマッティ・オンニスマー

[映画.com ニュース] 自動車修理工を営みながら、裏ではペットの安楽死を請け負い、毎日のように依頼人から預かった動物を、排ガスが充満した車で安楽死させているヴェイヨ。彼は身勝手な依頼主達に苦言を呈しながらも、冷静に仕事をこなしていた。ところがある日、健康な犬が持ち込まれ、悩んだ彼は自分の犬として飼うことに。すると、依頼主は彼を責めはじめ……。タイトルから醸し出される非道な衝撃とは裏腹に、まるでハードボイルド映画のような風合いのフィンランド映画「ペット安楽死請負人」。この作品でメガホンをとったテーム・ニッキと、フィンランドでは名脇役のベテランとして知られるマッティ・オンニスマーに話を聞いた。

――ペットを安楽死させる、という悪い男の話のように聞こえますが、まるで勧善懲悪の西部劇のような作品ですね。どうやってこのアイデアを思いついたのでしょう?

テーム・ニッキ監督(以下、ニッキ監督):私はチャールズ・ブロンソンクリント・イーストウッドの70年代映画が大好きでして。あの時代の映画から刺激を受けて、それを現代のフィンランドに取り入れたらどうなるだろうかということを、まずは考えました。それで、ずっと敬愛していたオンニスマーさんが演じたヴェイヨを、あのころのクリント・イーストウッドに見立ててやってみたらどうかな、と。あともうひとつ、観た人を冷たい気持ちにさせたまま帰らせない、心をあたためる何かをプラスしてみようと試みたんです。この作品は、おそらく好きか嫌いかの両極端なふたつに意見が分かれると思います。でも、観てくれた誰しもが何かしらを感じ取ってもらえるよう努めました。

――オンニスマーさんは監督にとってずっと憧れの人だったんですね。オンニスマーさん自身はこの脚本を最初に受け取った時、どう感じられましたか?

マッティ・オンニスマー(以下、オンニスマー):この質問受ける度に感じているのは、誰かが自分のためにこういう作品を作ってくれるということが嬉しくて仕方ないんですよ。今でも感動しています。ありがたいですし、とても光栄だと思っています。

――内容と自分の役についてはどう思いましたか?

オンニスマー:個人的には主人公のヴェイヨに対する怒りや憎しみが湧き上がるのですが、ニッキ監督のこともよくわかっているし、彼とはいい関係なので、彼の意図していること、この映画を通して伝えたいことに関して納得できていました。なので、演じるうえで特に何か問題があったとか難しかったということはありませんでした。

――自分に憧れを抱く監督と一緒に仕事をしてみていかがでしたか?

オンニスマー:わだかまりになるようなことは何もなかったです(笑)。じつは、この撮影の期間中ずっと監督の家に居候をしていました。彼の家のソファで寝たり、毎日撮影が終わると監督の家に帰ってグリルでソーセージを焼いたりして、撮影期間中ずっと共にしていたんですよ。少なくとも自分は監督のことを友達だと思っています。

――70年代の映画がお好きだといっても、この突飛なキャラ設定が思いつくプロセスが見えません。アイデアのきっかけはどこにあったのでしょうか?

ニッキ監督:正直に言いますと、70年代の映画は好きですが、いわゆる「正義が勝つ」というような映画は好きではなくて、同じメッセージをそういった形ではなく、ちょっと違う衣を着せて伝えたかったんですね。イデオロギーで「絶対にコレ!」というものを信じている人がいるとすると、その人は自分のイデオロギーに苦しめられるはずです。そういう人には柔軟性が必要だと思うんですね。ですので、このような形に仕上げることになりました。

――この作品での善悪の対比は、ヴェイヨとネオナチの青年たちにあると思いますが、あの若者たちが出てきた意味はどこにあるのでしょうか?

ニッキ監督:彼らのようなナショナリズム的な集団というのは、実はフィンランドにもあって、それに対するメッセージというのもあったのです。ネオナチのグループと主人公のヴェイヨの間には共通点があって、自分たちの信じるものを頑なに変えようとしない、頑固にそれを押し通そうとするところがすごく似ているんです。そのグループに入りたくて悩んでいたペトリ・ケットゥは、実際、自分の犬を燃やすことになってしまいましたが、彼も自分の目指すものに揺ぎがなく追求してしまう。友達がおらずグループの仲間に入りたいと思っていたが、結局は自分がすごく苦しむことになってしまった。ヴェイヨの鏡みたいな存在です。でもヴェイヨと違った形で彼の苦悩を伝えるために、気の弱いちょっとかわいそうな役として彼を描きました。

――ああいった形でペットを処分するという仕事は存在したのでしょうか? それとも全くの架空の仕事ですか?

ニッキ監督:もちろん実際いるわけではなくて、あくまで想像上の人物です。でも、正直に言うと、自分にとってひどく醜い部分を取り上げるとしたら、おそらく私自身がヴェイヨになりうるのではないかと。彼に重なる部分がありますね。

――そんな自分のダークな部分をさらけ出した役を、憧れの役者さんにやってもらったのですか!?

ニッキ監督:僕ら、見た目も似ていませんか(笑)。僕が歳を重ねるとマッティさんのようになると思ってますよ。

――監督としてはふたつの願いが叶ったのですね。自分を投影した映画を作ることと、それを憧れの役者さんに演じてもらうということと。

ニッキ監督:ええ、そういうことです!

(取材/構成 よしひろまさみち 日本映画ペンクラブ)

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