日韓の異能が融合!「哭声」ナ・ホンジン監督が國村隼を起用した理由

2017年3月10日 12:00


ナ監督は、國村の役への向き合い方に感銘を受けたという
ナ監督は、國村の役への向き合い方に感銘を受けたという

[映画.com ニュース] 「チェイサー」「哀しき獣」を手がけたナ・ホンジンが、最新監督作「哭声 コクソン」を引っさげて来日。出演者の國村隼と共に、約2年8カ月にわたるシナリオ作業、約6カ月におよぶ撮影、約1年の編集作業の末に完成した野心作について語った。

平和な小村で、突如として村人が家族を殺す謎めいた事件が多発。警察官ジョング(クァク・ドウォン)は、村に住みついたよそ者の男(國村)が事件に関与しているとにらんで調査を開始するが、事態は村全体を巻き込んだ大事件に発展していく。正体不明のよそ者を演じた國村が、第37回青龍映画賞で男優助演賞と人気スター賞を外国人初のダブル受賞。興行面でも動員約700万人の大ヒットを記録しており、批評家・観客共に圧倒的な支持を集めている。

本作で國村は、不気味さを全身から漂わせているだけでなく、鹿の屍肉を食べ、滝に打たれる、崖から転がり落ちるなど心身共に極限状態まで追い込まれた姿をさらしており「(これまで出演した)映画の中で1番体力を使ったとは思います(笑)」と述懐する。「ブラック・レイン」「キル・ビル」など外国人監督とのタッグも多いが、意外にも韓国映画の出演は初めて。肌で感じた現場の空気を「韓国においては、現場における監督は絶対権力者なんですよ。すべては監督からしか出てこないし、逆に監督は全責任を背負わなければいけない。エンタテインメントのヒエラルキーの中で、映画が1番ステータスが高いんですね」と証言する。國村の言葉を聞いたナ監督は「“絶対権力者”と聞いて、自重しなければならないと思いました(笑)」としながらも、「國村さんの演技は、生まれて初めて見るタイプで本当に驚きました。とにかく準備をきめ細かくしっかりとしてくれて、監督との長い対話を通して正確に作品について理解しようとしてくれるんです」と刺激を受けたようだ。

脚本を細部まで読み込み、監督と話し合い、自分の役割を完全に理解した上で撮影に挑む。ナ監督が心を動かされた國村の姿勢は、「僕が演じた山の中の男というのは、池というのを仮に小さなコミュニティと例えれば、そこにぽんと投げ込まれた石のような異物。それが波紋を広げてどんな波になるのか、どんな影響を池に与えるのかという存在でなければいけない」(國村)という役柄への洞察に富んだ意見にも表れている。そんな國村に対し、ナ監督は「よそ者を日本人にしたのには、新約聖書の影響を大きく受けています。イエスがエルサレムに向かっていくときに、ユダヤ人がどのように受け止めたのかという感覚を生かしたかった。この映画は混沌や混乱、疑惑について描いていますが、イエスは歴史上最も混乱を与え、疑惑を持たれた人物の1人。そういう意味で、見た目は似ているんだけどまったく違うという異邦人が必要でした。見分けるのが本当に難しいものが自分の内部に入ってきたとき、敵なのか味方なのか分からなくて混乱しますよね。そんなキャラクターを演じるのに適した人は、日本の俳優ではないかと思った。本作ができたのは、國村さんがいてくれたからです」と信頼をにじませる。

ナ監督の出演者に対する敬意は、ジョングと山の中の男が対じするシーンでのエピソードにも顕著だ。愛する娘ヒョジン(キム・ファニ)に殺人者たちと同じ湿しんが出たことを知ったジョングは、変ぼうしていく娘を救おうと男の家に乗り込み、つるはしを振り回して威嚇(いかく)する。ナ監督はくだんのシーンを振り返り「主役級の俳優さんが向き合うと、言葉でどうこう言えないような、あたかも演技で戦っているような状況になるんです。ものすごいエネルギーを噴出させながら演技を行い、本当に心理戦を繰り広げる。だから私は黙って見ていました」と日韓の名優2人に場をゆだねたという。結果「クァクさんは100回くらい本物のつるはしを振り回したかな、疲れたら自分から言ってくるだろうと思って見ていたら、手首を痛めて包帯を巻いていましたね」(ナ監督)というから、さぞ白熱した現場だったのだろう。

一方、本作で國村同様、強烈なインパクトを放つヒョジン役のキムに対しては、「大人の役者さんだと思ってアプローチした」(ナ監督)。「この映画が成功するか失敗するか、そういった可能性があるとすればこの役だと思ったので、子どもという子どもをすべてオーディションしました。彼女は、肉体的にも精神的にも、今までに経験したことのないような“ラインを越える”ことになる。そのためにまず、6カ月かけて振り付けのトレーニングを受けてもらい、さらに宗教に救いを求めてほしかったので、宗教的な話をたくさんしました」と全面バックアップしたという。最後に、國村にナ監督の“すごみ”を聞くと「すべてですね。映画を作ることしか考えていないんじゃないか。現場でも基本のビジョンからどんどんイメージが膨らんでくる」と絶賛。ナ監督は、照れくさそうに聞き入っていた。

哭声 コクソン」は、3月11日から全国公開。

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