「仁義なき戦い」歴代コピーを手がけた男が語る、同作と「ブラック・スキャンダル」との共通点

2016年1月25日 17:00


敏腕コピーライター・関根忠郎氏
敏腕コピーライター・関根忠郎氏

[映画.com ニュース] 配給大手・東映宣伝部の宣伝マンとして「仁義なき戦い」シリーズをはじめ高倉健さん、菅原文太さん、松田優作さんの主演作を手がけるかたわら、作品を彩るキャッチコピーの名句を次々と生み出し、現在はライターとして活躍する関根忠郎氏が、自身が新聞広告のコピーを担当した「ブラック・スキャンダル」の魅力を語った。

1960年代から現在に至るまで「仁義にツバ吐くやくざの実態!」(「仁義なき戦い」)、「殺(と)れい! 殺ったれい!」(「仁義なき戦い 広島死闘篇」)など、人々をひきつけてやまないコピーを生み出してきた関根氏。「基本は全部1発勝負。試写を見た後、周りをうろついて浮かんだ言葉をメモするところから始まる」とその仕事術を語るが、「ブラック・スキャンダル」ではその方法論が通用しなかった。「本編は2回見ました。1回目は仕事のことを忘れて見入ってしまって、仕事用にもう1回見たんです。過去2回見たことはあまりない。じわじわ来る映画です」と内容に圧倒された様子だ。

仁義なき戦い」シリーズと、1970年代から90年代にかけて実際にあったFBIの一大スキャンダルを描く本作の共通項を「実録ものと群像劇」と語る関根氏は、男たちの重層的な“悪のドラマ”に強くひきつけられたそう。クリスチャン・ベールケイシー・アフレックが兄弟を演じた前作「ファーナス 訣別の朝」(13)に続き、男たちのアンサンブルを得意とするスコット・クーパー監督が手腕をいかんなく発揮した本作は、ボストンで共に育ち、マフィア、政治家、FBI捜査官となった3人の男たちが主軸を担う。ジョニー・デップベネディクト・カンバーバッチジョエル・エドガートンという実力派俳優を配し、マフィアのバルジャー(デップ)とFBI捜査官のコノリー(エドガートン)が手を組んだことから3人の関係がゆがんでいくさまをあぶり出している。FBIとマフィアの密約、しかもそれが幼なじみ同士によるものだったという事実を目の当たりにした関根氏は「アメリカってなんて底深いんだろうと。あ然とした」と衝撃を振り返る。

今回、関根氏が提出した20ほどの案のうち採用された「信じられない現実──。アメリカは正義を見失っていた。」というコピーは、そんな「作品の奥にあるものを照射したい」という思いが表れたもの。関根氏は、それをもっとも強く感じたシーンについても言及する。「バルジャー、コノリー、ビリー(カンバーバッチ)ら5人がコノリーの家で食事するシーン。5人(が考えていること)が1人ひとりまるで違う。その後、バルジャーが席を立って(部屋で休んでいる)コノリーの奥さんのところに行く。あのくだりは、一種の脅迫というか“粛清(しゅくせい)の序曲”の感じがして怖いなと思った。正義や悪、さらには移民社会(であるアメリカ)の混とんをあんなにさりげなく出せるのだと、突出して感心しましたね」。インタビュー中「会食シーンが見どころです」と何度も強調した関根氏は「あのシーンを見なかったらこのコピーはできなかった」と断言した。

映画ファンに響くコピーを生み出す秘けつとして「自分を取り巻く世界の変動を常に頭に入れておく」と明かした関根氏は、「アメリカは今や、“世界の保安官”ではなくなった。今後、世界の秩序がどうなるのか、(正義が失われたときにどうなるのか)そういう危機感と共にこの映画を味わい、従来のギャング映画とはまったく違うと見極めてほしい」と呼びかけた。

ブラック・スキャンダル」は、1月30日から全国公開。

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