「後味の悪さとほのかな救い」キリエのうた バットホールさんの映画レビュー(感想・評価)
後味の悪さとほのかな救い
映画館で見たが最近配信されたので再見出来た
『キリエのうた』は、一見すると「再会」や「再生」を描いた優しい物語に見えるけれど、実際に胸に残るのはもっと複雑で生々しい感触やった。
言葉にすると、大人向けの童話みたいに“後味の悪さ”と“ほのかな救い”が同居してる作品。
夏彦がルカを見て謝った場面も、表面的には再会の感動に見えるけど、実際は ルカの中にキリエの面影を感じて、思わず“キリエに向けて”謝ってしまった というズレが生々しい。
向き合うべき相手を取り違える弱さ。その弱さごと、夏彦という人間が立ち上がって見える瞬間でもある。
ルカはその謝罪を拒まず、ちゃんと受け止められるようになっていた。
過去の傷は完全には癒えてないけど、“誰かに振り回されない自分”がようやく育ちつつある感じで、そこに静かな救いがあった。
黒木華の先生は、寄り添う優しさの象徴みたいな存在やった。
ルカが隠れるほど懐いている姿も印象的で、あの子がどれだけ安全を求めていたかが伝わる。
けれど物語的には、児相でふたりが血縁関係にないと突きつけられる現実や、本当に助けを求める相手の元へ辿りつけない社会の矛盾――そういう無慈悲を際立たせる役割も担ってた。
ルカはマオリとの共依存からもそっと離れていく。
互いの空洞を埋め合ってきた関係に終止符を打つ痛みと、それでも前に進む静かな意思。
オフコースの「さよなら」って失恋ソングやけど、ここでは 自分の弱い部分に向けた“さよなら” なんよな。逃げ続けてたものに区切りをつける瞬間の歌。岩井俊二、ここ完全にわかって使ってるな、って思った。。
そして、岩井俊二らしい“断片的な語り”。
『ラブレター』や『ラストレター』と同じく、過去と現在が少しずつつながって、あとになって輪郭が見えてくる。
伏線というより、記憶の風景がゆっくり整理されていく感覚。
最終的にこの物語は、
人の弱さや不完全さをまんま抱えたまま終わる。
そこにリアルな後味が残るし、だからこそ心をつかまれる。
その先で――
ルカは石巻に帰ったんやろか。
あの街で、もう一度、自分の足で立てる場所を探しに。
