ジョージアの古い歌

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ジョージアの古い歌

解説

旧ソ連ジョージア出身で「月曜日に乾杯!」「皆さま、ごきげんよう」などの作品で知られるオタール・イオセリアーニ監督が、活動拠点をフランスに移す前、ジョージア時代の1968年に手がけた短編作品。

ポリフォニー(多声合唱)で歌われ、人々の生活や労働、信仰と密接に結びつきながら世代を超えて受け継がれてきたジョージア民謡。スバネティ地方、サメグレロ地方、グリア地方、カヘティ地方のそれぞれの合唱風景を捉え、その合間に各地の人々の日常を映し出す。

日本では2023年2月開催の特集上映「オタール・イオセリアーニ映画祭 ジョージア、そしてパリ」にて劇場初公開。

1968年製作/21分/ソ連
原題:Dzveli qartuli simgera
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2023年3月1日

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映画レビュー

3.0イオセリアーニの記録した、ジョージアの四つの地域の「ポリフォニー」(多声合唱)

2023年3月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

イオセリアーニ映画祭にて視聴。
『エウスカディ、1982年夏』と本作他1本の短編と同時上映。

ジョージアは民謡の国だ。
彼らのポリフォニーは、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されているくらいで、まさに民族の伝統と誇りの中核に「歌」が存在しているといってもよい。
男たちは厳しい農作業と家畜の世話の合間に、美しいハーモニーで歌を歌う。
(基本は男声合唱のようだが、『田園詩』では、老兄妹で歌っているシーンがあったから、案外いろいろなパターンがあるのかもしれない。)
このあいだ映画祭のトークショーでいらした岩波ホールの方の話だったか、彼らは幼い頃から徹底的に鍛えられているおかげで、みんなきわめて良い耳を持っていて、一瞬でポリフォニーの多声合唱を合わせられるそうだ。
日本の民謡は、概ね単旋律を一人の歌手が歌唱する場合が多いし(モノフォニー)、複数人で歌う場合でも、あまり和声を付けたり対旋律を鳴らしたりはしない。一般に、日本の伝統音楽はヘテロフォニー(全員が微妙なズレをもって単旋律を歌う)の音楽だと言われる(声明などはまさにそれ)。
だからわれわれ日本人にとっては、合唱経験者でもないのに、誰もが一発でポリフォニーの民謡をハモれる民族というのは、ちょっと凄いとしかいいようがない。

ジョージアの古い文化・自然と庶民の生活ぶりをフィルムの焼き付けてきた若きイオセリアーニにとっては、彼らのポリフォニーを記録することは、ほとんど「マスト」といってもいい仕事だったろう。
ジョージアのポリフォニーには、地域によっていろいろな「型」や「流儀」があるようで、彼はスヴァネティ、サメグレロ、グリア、カヘティの各地方の合唱を蒐集して、並列的に呈示している。
それらの歌は、日々の農作業や村での生活ぶりと分かちがたく直結したものであり、イオセリアーニは「歌」とともに彼らの日常を生き生きと画面に映し込んでゆく。

『珍しい花の歌』でも、ジョージア民謡が全編で用いられていたが、あくまでBGMとしての扱いだった。本作では、まさに歌と歌い手たちが「主役」として、じっくり描かれる。
四つの地域の歌にはさまざまなヴァリエイションがあって、じつに面白い。
最初に流れた歌は、結構野趣に富んでいる。
二つ目に流れた歌は、ちょっと『カルミナ・ブラーナ』っぽい旋律で、中世のヨーロッパ的な伝統を感じされる。
その次の歌は、高音の担当がヨーデルのような技巧的な歌い方をするのが特徴的。
さらにその次の曲は、和声と対位法の調和がとれていて、完成度が高い気がする……。
といった感じで、それぞれに間違いなく特徴がある。
僕はクラシック好きではあるが、合唱経験は皆無なので、残念なことに細かい部分についてはまったくわからない。ぜひ詳しい人がこれらを聴いてどう思ったかを教えてほしいところだ。

それにしても、歌っている男たちがホントむくつけきオッサンばかりで、そんな彼らがビンビンにアウトレイジ感を漂わせながら、妙なるハーモニーで朗々と歌い上げてくるので、なんだか観てて妙な気持ちになってくる。
なんか、ジョージアの男たちって、歌うにせよ、呑むにせよ、ホモソーシャルな感じが強いんだよね。
そういや農村部の生活を描く中で、ジョージア・レスリングというか、ジョージア相撲みたいな競技で鎬を削るふたりの少年のシーンがあって、これまた実にホモソーシャルな感じ。
これ、Wikipediaによれば「チダオバ」という、ジョージア特有の立技格闘技らしい。
ここから出てきて、日本に渡ってその能力を開花させたのが、誰あろうあの元大関・栃ノ心関である……。

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じゃい