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映画レビュー
嗅覚障害に見舞われたことで今までの人生に疑問を感じた主人公が突然起こした浮遊するような逃避行を見つめるドラマ
夫の仕事の都合でハンブルグから生まれ故郷のイスタンブールにやってきたレイハンはハンブルグへ戻る日が近づいたところで原因不明の嗅覚障害に見舞われる。その原因を探るように街の中を彷徨っていた彼女はある日家を出て街の古いホテルに転がり込み住み込みで働き始めるが・・・。
今までと全く異なる生活を始めたことでホテルのオーナーや盲学校の教師らとの新たな出会いを得た主人公の毎日が静かに流れるドラマ。古いVHSの映像や何気ない会話の中でレイハンが幼い頃に起こった事故とその後に起こったことが少しずつ顕にされ、その遠い記憶がずっとレイハンを苦しめていたことが判った後半はレイハンが過去と何とか折り合いをつけようとするさまにどことなく痛々しさが纏います。
上映後に登壇したのは監督のメリサ・オネルと脚本のフェリデ・チチェキオウル。女性には今までの人生を全部ごっそり変えてしまいたいという衝動に駆られることがあり、その衝動はどこから来るのか解らないがそれは突然現れて、それに従わざるを得ない時があるのだとのこと。確かにレイハンの行動はそんな衝動に突き動かされていて、ただふわふわと漂うように彷徨い続けるが彼女の夫も母も妹も彼女の行動の動機の欠片すら掴めない。これっぽっちも理屈がない潔さが印象的な作品でした。