人生の着替えかた
劇場公開日:2022年3月25日
解説
ミュージカル「新テニスの王子様」や舞台「ハイキュー!!」シリーズなど、人気の舞台やミュージカルで活躍する秋沢健太朗が主演を務める短編作品を集めたオムニバス。ある事件で指名手配者となった兄と、自分の力ではどうすることもできないことへの怒りや鬱憤を抱えて生きる弟の物語を描いた「MISSING」、オレオレ詐欺集団に関わってしまった2人組が、逃げるための隠れ蓑として出場したミスりんごのコンテストでうっかり優勝してしまう姿を描いたコメディ「ミスりんご」、聴覚障害をもつ青年が日本茶店を営んでいた亡き父の願いに応えようと奮闘する姿を描いた「お茶をつぐ」の3編で構成。いずれも秋沢が主演を務め、「MISSING」では中村優一、「ミスりんご」ではミュージカル「忍たま乱太郎」シリーズでも秋沢と顔を合わせた反橋宗一郎、「お茶をつぐ」では映画初出演の木村達成がそれぞれ共演。監督は「N号棟」「リトル・サブカル・ウォーズ ヴィレヴァン!の逆襲」の後藤庸介、「歯まん」の岡部哲也、「花戦さ」「影踏み」「犬部!」など多彩な作品を手がける篠原哲雄。
2022年製作/101分/日本
配給:アークエンタテインメント
スタッフ・キャスト
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2022年5月27日
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鑑賞方法:映画館
【MISSING】
この世の中の無情な部分が凝縮されたような話でした。
翔の様な目に遭ったら、悲しみの余り、私も同じようなことをしかねないと思います。
また、家族の1人が世の中に否定されるような何か大きなことをすると、他の何もしていない家族まで同じ目で見られてしまう。
同じ血が通っていても、別々の人間であることに気付けない世の中の物悲しさ、また、否定されるようなことをしていても、それは表面上の話であり、そこへ至るまでのことは誰も知ろうとしない物悲しさを感じました。
そんな苦しい状況でも、やはり、兄弟・家族・血が繋がった2人を描いた作品だったと思います。
答えを出すには難しい話でしたが、何かが変わりそうな最後に希望が持てました。
【ミスりんご】
出だしが、凄くアングラで嫌な展開になっていく映画なのだろうか。。と、構えてしまうのですが、凄くコミカルな映画で驚きました。
主人公の一人・健二が事あるごとに「地元だから」と焦燥する姿や、もう一人の主人公・雄介がと一緒に女装することでまたトラブルに巻き込まれる姿が滑稽です。
明らかに男だろという感じの女装なのですが、周りも受け入れているゆるゆるな優しい?世界です(笑)。
雄介役の反橋さんが面白く、笑わせてくれます。ヒロインのお父さんにも驚かされます。
何も考えずに観れる映画です。
1年ほど前に某映画祭で拝見したことがあるのですが、久しぶりに観て、初めて観た時より面白い。時間が経つほど味が出てくる映画なのだと思いました。
【お茶をつぐ】
色々な意味で、上手く本当に自分のことを伝えられない、不器用な人たちの話だと思いました。
どんな人でも気持ちは上手く伝えられない。でも何かがきっかけで伝わった時(この映画の場合「お茶」)、例え伝えたかった人が亡くなった後でも、生きている人の世界は確実に変わる、受け継がれると思える素敵な映画だと思います。
また、個人的に画面展開というか、画面構成が3つの作品の中で1番好きだなと思える作品でした。
ろう者である、雷太が登場した後、聞こえないことで、他人の視線が恐怖であることが伝わったり、作品全体的なイメージが伝わる温かい配色、逆に、ネガティブなシーンでは薄暗く、光を上手く利用出来ている印象がありました。
特に、お茶の味比べ対決のシーンの太陽の光が綺麗で好きでした。
出演されている皆さんも温かいのだろうなと思える、全部が温かい作品で、お茶を「注ぐ」「継ぐ」が明確な、タイトル通りの映画でした。
【秋沢健太朗さんについて】
秋沢健太朗さんの3部作ということで、秋沢さんのことも追記させていただきます。
人の悲しみや怒りなど負の感情を表現するのがとても上手く、その瞬間がとても綺麗だと思える人です。
負の感情だけでなく、それらを乗り越えた先にある人への慈愛を表現されるのも上手いと思います。
「MISSING」では、憎い兄から電話が掛かってきた時、やめてほしいと懇願するシーン、兄を警官たちから引き離そうと必死に叫ぶシーンが光っていました。
「お茶をつぐ」では、ろう者役ということで、目と手話だけという制約がありましたが、手話に雷太のやりきれない感情が籠っていたのが伝わりましたし、貞二役の木村達成さんとの掴み合いの時や、お茶の缶をけたたましく叩いて怒りを表すシーンや、お茶対決後の涙のシーンが素敵でした。
「ミスりんご」では、上記2つの作品とは違った、やさぐれた青年役でしたが、そつなくこなされています。
2022年4月28日
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鑑賞方法:映画館
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「人はいつからでも 人生を新しくすることが事が出来る。」というキャッチコピー、最初は“変わろうと思えばだれでもいつだって現状を変えられる”的ポジティブなメッセージかな?と思っていた。が、鑑賞後は印象がちょっと変わった。
作中の主人公たちは、着替えざるをえない状況に対面する。これまでの人生が窮屈に感じられて、着慣れた服を脱がなくちゃいけないタイミング。それは望む・望まざるにかかわらず、何だったら突然やってくることも多い。そんな成長や変化の瞬間を切り取っていると感じた。
3作品の主人公を演じる秋沢健太朗さんは同じ人間だけど、全員違うキャラクター。俳優が役を着替えるように演じ分ける、これも着替えかなと思う。
舞台を中心に活躍している秋沢さんが、映像ではどんな演技なんだろうと興味をもったのが鑑賞のきっかけ。
1作目『MISSING』に浸る間もなく始まる2作目『ミスりんご』に、ちょっとまってくれ~!と気持ちの切り替えが難しかった。が、順番はこれがベストだった気がする。特定の俳優を観たいという動機ではあったが、どの作品もしっかり独立して異なる味の短編×3本立てオムニバスで、良い映画を観た…と満足感が高かった。
全体を通しての印象は、どの作品も誠実な作りだということ。目新しさや斬新さを打ち出しているわけではないけれど、ストレートで丁寧な作品ゆえの強度がある。
個人的にはストーリーも秋沢さんの役柄も、3作目『お茶をつぐ』が一番好きだ。在りし日の父親の接客を見つめる目、感情が溢れる手話と表情など、映像ならではのクローズアップされた演技の繊細さに見入ってしまった。映像でも映える役者さんなんだなあと新たな発見があり、もっと映像作品でも観てみたくなった。
『MISSING』の兄役中村優一さん、『ミスりんご』の相棒反橋宗一郎さん、『お茶をつぐ』ではライバル的ポジションかと思いきや…の木村達成さん、という主役と物語を支える助演俳優たちの演技もまた魅力的。主人公を巻き込んで、影を落とす・つるむ・対立する…など男同士の様々な関係性を見るのが楽しかった。
若手俳優も良いけど、ベテラン勢の存在感も大きい。『ミスりんご』では大谷亮介さんがオレオレ詐欺に遭ってしまうお父さん役で、コミカルな演技に何度も笑わされた。「今どき性別なんて関係ねえ」のセリフは先進的だとも思う。(でも無理矢理チューを迫るのはだめです)
そして『お茶をつぐ』のお父さん役篠田三郎さんの穏やかな佇まい。出番がそう多いわけではないけれど、うまくコミュニケーションを取れないものの息子のことを思っている優しさ滲む演技が、とても素敵だった。茶師になる前の貞二とのやりとりも良い。不器用にひとつの手話だけは覚えていて、貞二から雷太へ伝言でその思いが伝わる展開に涙を誘われた。
以下、各作品について感想です。
<MISSING>
現実でも作中のような加害者家族へのバッシング、就職差別があることは知識としてうっすら知っている。そんなうっすらした手持ちの知識で観ても、混乱と悲しみでつらい気持ちになった。
優しさの示し方が不器用な兄と、兄のせいですべてうまくいかないと思っている弟。その二人がほんの短い時間抱き合って泣くシーンがまたつらい。が、ここが良かった。
めでたしめでたしの終わり方では全くないものの、ラストでドア前に立つ恋人の姿に、フィクションだからこそ描ける優しさを感じてほっと息をつけた。
もどかしさ、諦め、怒りの感情で波立っているのに表に噴出しない、秋沢さんの抑えた演技が良い。またそれが爆発して露わになったときの演技も。
<ミスりんご>
コメディとわかっていても、オレオレ詐欺をはたらく導入部はちょっと緊張する。クライム要素とコメディのバランスがちょうどよくて、純くんこと小坂涼太郎さんの危うい存在からも目が離せない。純くん、一体何なんだ。
フフフと笑ってしまう箇所がいくつもちりばめられていて楽しい。ミスりんごコンテストステージでの二人の自己紹介とか、「おめえ、死んだうちの母ちゃんにそっくりだ」(味噌汁噴出)とか、「あんた、小沢健二だよね?」「…大沢健二だよ」のやりとりとか(オザケンの歌が一瞬脳裏をよぎる)、中華そば屋のエキストラのおじさんの反応などなどおもしろくてツボだった。
そして何よりミスりんごに選ばれてしまった主演二人の女装姿、現実感があって絶妙にかわいい。ミチコ&メアリーのドタバタかげんは、見ているとなんだか元気が出る。
<お茶をつぐ>
個性的な魅力のある秋沢さんの声が、ここではほぼ喋らない役で封印されている。しかしある意味その縛りを個性に変えて、雷太という青年が存在していた。
父親の真意を間接的に聞くシーンの、涙をたたえた目の美しさ。形の良さだとか形状的な美しさだけじゃなく、視線に思いがこもっていてとてもきれいだった。
撮影時期やロケーションの違いもあると思うが、『MISSING』の透のやつれた暗い雰囲気と対照的に、雷太には健康的で大事にされてきた青年の雰囲気があり、別人に見える役作りってすごいな…と素朴に感動する。
雷太も貞二も父親耕三もそれぞれずっと抱えてきたものがあって、それが明かされて変化していくきっかけになるお茶の“合組”バトルの構成が良い。“生一本”、“合組”というお茶用語を人間とその関係に絡めるのは、うっかりするとメロドラマ的にもなりそうなところを、うまく回避していたと思う。少しベタではあるけどおしつけがましさがなく、心地よく作品の世界に浸ることができた。
好評につき、アップリンク吉祥寺で4/29からアンコール上映が始まるとのこと。また映画館でゆっくり観たい。
3本の短編オムニバス映画です。
1本目がシリアス、2本目がコメディ、3本目がハートフルな作品になっていてバランスが良く、鑑賞後に満足感が得られる作品でした。
1本が30分ほどですが、内容が浅いわけではなくそれぞれしっかりとしたストーリーがあり、それを凝縮した濃度の高い作品達です。
主演の秋沢さんはもちろん、出演者の皆さん演技が素晴らしく、スッと作品の世界に入り込むことができました。
作品を彩るBGMや主題歌も素敵なもので、曲がかかることで、より感情を揺さぶられました。
作品の世界に没入するために、ぜひ劇場で鑑賞したいと思える作品です。
2022年4月13日
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鑑賞方法:映画館
秋沢健太朗という一人の俳優が3作の主役を演じる3本のオムニバス映画。
舞台俳優の主演のこの手の映画はたくさん見てきたが、かなり満足度が高かった。
サスペンス、コメディ、人間ドラマと3本ともテイストが違って飽きずにみられる。
各作品が短編で時間の足りなさも感じるが、そぎ落とされた脚本に、凝縮された演技はもっと長く見たいという気にさせられる。
主演を同じ人間が演じているが、全部全く違う人物に見えるのも面白い。
特に目の演技が抜群で、3作目の「お茶をつぐ」は耳が聞こえない=喋れない、という設定でそれが際立っている。
主人公のじれったい気持ちや苛立ちから切なさまで余さず伝わってきて、思わず涙がこぼれてしまった。
ラストは暖かい気持ちに満たされる。見てよかった。
鑑賞後には気持ちよく劇場を出たいので、その点でも満足!