劇場公開日 2022年12月3日

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「ノンフィクションで戦争の起承転結がわかる」ミスター・ランズベルギス xmasrose3105さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ノンフィクションで戦争の起承転結がわかる

2022年12月20日
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なぜ戦争は起きるのか。
そしてどうすれば終わらせることができるのか。

現在のロシア対ウクライナでもそうですが、多くのウクライナの人々は「なぜロシアが戦争を始めたのか、何が目的かわからない」と。

わたしも学生の頃から、戦争はなぜ起きるのか、ずっとその疑問を持ち続けていました。「戦争は人間のサガ。なくならない」と疑問なく言い切る人もいますが、なぜそう思うのか。責めているわけでなく、本当に謎。だって、あまりに愚かすぎます。命のリスクが高く、両者の損失が大き過ぎて、幸せと真逆です。不幸を望む人間はいないのに、なぜこんな行為に走るのか。
わたしにとって、人間の最も不思議な点でした。
それがこの映画のMr.ランズベルギスの言葉で、ようやく長年の謎が解けました。

「『俺がボスで、お前らはバカ。』そう言いたかったんだろうね、でもそうじゃなかったからねw」

国同士だけじゃない。人間同士。どっちが上か。そんなことばかりやってるんでしょうか、人間は。
人間の誰しもが陥る、傲慢という現象。

はじめは希望や理想や勇気なのです。
ペレストロイカで、古びた体制のソ連を解体し改革しようとした。
ゴルバチョフ氏も頑張った。

自己肯定感は、ほんの少しでも高くなりすぎると、すぐ慢心へと変わる。
ひとの権利の中へ土足で入って来て、鼻たかだかに指図する滑稽さ。
あゝそんなヒーローやリーダー「もどき」に、わたしもたくさん出会ってきました。

こういう自信満々の方々に、どう対応すればいいのか。
ものすごい辛抱強さが要りますね。
そうして戦わないようにすること。
だって、出ていってくれれば、それでいいんですから。
そのためには、「あなたの庇護は要りません、自分のことは自分で責任取りますから」って言える自律力を、経済的にも精神的にも体力的にも知的仕事力的にも持たないといけません。

映画を観てよくわかりました。
ランズベルギスさんが勝ったというより。
リトアニアの皆さんが、誰も負けなかったのですね。
その意思を代弁する役を、ランズベルギスさんが仰せつかっただけ。この方、元は音楽の教授。個人的な政治的野心がないのが、きっとよかったのでは。

リトアニアの皆さん、直球勝負。
どこの誰の奴隷にも子分にも、家来にもならない。
自分たちの選択と意思で生きていきます。
それが自由ということです。
願いはただそれだけ、だから邪魔しないでね。
と人間として至極真っ当なことを、ただひたすら言い続け、行動し続けた。

最後はもう、人の鎖で何キロも手をつないで、戦車を追い出した。
侵略する輩など、誰が入れるものか!というベタな抵抗。

紛れもなく国民一人一人が命をかけて、みんなで協力して、誰かに隷属させられる危機から自分たちを守り抜きました。

武器じゃなく、手をつないで。
この道しかないよ。
愛と信頼。

戦争は傲慢さから始まる。
でも傲慢さに勝とうとせず、負けないこと。
自分で選択できる自由を、やすやすと渡してしまわないこと。
脅されても怖がらず、きちんと法や論拠を手にして、人権は一人一人が担保されている、人類共通、誰にも奪う権利はない、と示す。静かに、淡々と、堂々と。

誇りが揺らがない。

この魂を、日本も学びたい。
日本だってつい百数十年前、江戸幕府から明治へ。士農工商の階級社会が腐ってしまったからこそ、変革するしかなかった。
無血開城なんてすごいじゃないか。奇跡だ。
そしてそれが叶えば自信がつく。
でも自信が慢心へ。慢心は傲慢へ。
理想高く頑張れば、叶わぬ夢はないと、向上心がどこかで調子に乗ってしまう。

核兵器がどれだけ残酷か。故郷は被爆地です。
傲慢になった東洋の獅子の鼻を折るための投下だったにしても、誰かが、その後もずーっと苦しみを背負うことになる。

文明だけでなく、人間の内面も進化しないと。
戦争をそろそろ過去の遺物にしないといけません。

自信をつけても謙虚でいること。
自律していること。
自分と相手の自由を尊重すること。
その上で足りない部分は、手を借りるし、
借りたら感謝すること。何かできることで返すこと。
助け合うこと。
そういう普通の大人。
リトアニアの皆さんはそれが多数派だった。

日本よ。
傲慢・劣化・退化していかないよう。
逆に、守ってもらえるならとやすやすと自由を渡して隷属してしまわぬよう。

そう願う一方で、でも「普通の大人」というにはアメリカの親的庇護なくしては生きてこれなかった、子供のような日本。
防衛費増強が発表になったいま(増やしてもキリがない)、この先どうすれば自分たちが自律した国でいられるのか。

一市民として、リトアニアの実例を知れて、よかった。
愛や信頼は、絵空事ではなく、むしろ実用的かつ現実的だ。

xmasrose3105