劇場公開日 2022年9月17日

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「機械仕掛けのレストランでは、牡蠣の中身も踊り出す! ストップモーションを駆使した綺想の無声映画。」全自動レストラン じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5機械仕掛けのレストランでは、牡蠣の中身も踊り出す! ストップモーションを駆使した綺想の無声映画。

2022年10月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ストップモーションとスラップスティックを融合させた、1920年代の短編映画の撮り手、チャーリー・バワーズ。
一度は完全に忘れ去られ、1960年代に3本のフィルムが再発見されて、70年代に何度か上映されたものの、ふたたび忘却の淵に沈んでいた。これをセルジュ・ブロンベルグという収集家(このあいだ渋谷のロミ・シュナイダー映画祭で上映してたクルーゾーの未完成作にせまるドキュメンタリー『地獄』の監督さん)が80年代に再発掘し、パッケージ化した、ということらしい。
日本では去年から作品紹介が始まっていたようだが、ぼくはそれにまったく気づいておらず、今回のユーロスペースでの『NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ 発明中毒篇』上映で、初めて足を運んできた次第。

バワーズ作品全体については、先に書いた『たまご割れすぎ問題』の感想のほうですでに触れたので、こちらでは個別の印象のみ簡単に触れておく。

お話としては、恋人にプロポーズするが、「ああそれはお父さんに聞いてね」とさらっと返された男が、彼女の父親が経営するレストランを手伝うことになるのだが……といったもの。

前半は、彼が皿洗いとして入ったせいで、コックやウェイターがぞろぞろ出て行ってしまい(スト破り?)、店長が人探しに行っているあいだ、ひとりで店を切り盛りするはめになる。
ドタバタは臨界点に達して、ついには……また来た! 爆発オチ(笑)。
完全に破壊された店に店主は激怒するが、青年には秘密兵器があった……。

後半の主役は、この「全自動レストラン」を取り仕切る、巨大機械だ。
デビュー作『たまご割れすぎ問題』に登場する巨大機械では、「車輪」と「導線」がメインのピタゴラスイッチみたいな造形が目を引いたが、今回は「タイプ」と「ダイヤル」と「パイプ」がメインの巨大操作盤と、「アーム」と「出し入れ口」を駆使した遠隔操作が見ものとなる。

メインテーマは、「ワンオペで全ての客に調理・配膳する」という問題解決に、全自動機械を用いて立ち向かうことなのだが、小ネタとして、料理作りの舞台裏が描き込まれ、そこでストップモーションがおおいに駆使される。
豆を種から栽培したら缶詰の実がなったり、がわからクリームだけでウェディングケーキをつくる機械が出てきたりと綺想満載の内容だが、特に印象的なのが牡蠣のスープづくり。
牡蠣の中身(目が二つあってなめくじかウミウシみたいな形状)が自ら這い出てきて、尺取虫みたいにもぞもぞしながら、渡し板を通って鍋に飛び込み、ひと泳ぎしてエキスを出したあと、殻に戻るのだ。なんて優雅なスープ! 肝心の具は入ってないけど!

スラップスティックのほうも、『たまご割れすぎ問題』と比べて長足の進歩を遂げており、観ていて苦痛なく楽しめる。ラストのペーソスも悪くない。
「万能機械」への夢と幻想が、メルヘンチックに結実した好短編だと思う。

ただ個人的には、新たに今回の上映のために作曲・演奏された伴奏音楽は、まったく受け付けなかったなあ……。
こんなの付けるくらいなら、ふつうにピアノで弾いた適当な即興演奏流しててくれたほうが100倍いいと思うんだが……。

じゃい