劇場公開日 2022年11月3日

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「この監督ならではの強靭な語り口を堪能した」パラレル・マザーズ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この監督ならではの強靭な語り口を堪能した

2022年11月10日
PCから投稿

非常に面白いものを観た。『オール・アバウト・マイ・マザー』から23年。我々はアルモドバルにしか描くことのできない愛の形をどれだけ目にしてきたことか。この映画に関して言えば、写真家と被写体が冒頭5分で内戦の記憶について話をし始め、かと思えば続く数分のうちにセックス、妊娠、出産と豪速球で進む。つまり10分で本作に必要な条件の全てを俎板の上に揃えてみせる。まさにアルモドバルならではの強靭な語り口だ。それらを彩るパステルカラーの壁紙、室内の草花、主人公が着こなす真っ赤な衣服。これらを観ているだけで視覚的な生命力がみなぎってくるかのよう。さらに展開部で明かされる子供の取り違いと、歳の離れた二人の”マザーズ”の間で育まれる絆は決してありきたりの方向には進まず、いつしか内戦の記憶というある種のDNAを絡め、回収するところこそ本作の真骨頂。過去が現在を照らし、現在もまた過去を照らし出す構造がそこにはある。

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牛津厚信