劇場公開日 2021年11月12日

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「低予算だけど、当時の習俗の再現などの試みが意欲的な一作。」信虎 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5低予算だけど、当時の習俗の再現などの試みが意欲的な一作。

2022年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

山梨県の「こうふ開府500年」記念事業として製作された本作、甲斐国と言えば「武田信玄」となりそうなところ、その父親武田信虎の晩年に焦点を当てた物語となっています。息子・信玄によって追放された武田信虎が信玄の死後、隠居していた京から甲斐に帰国し、後継者武田勝頼と対立しつつも武田家存続のために奔走する、という筋立ては、『甲陽軍艦』にも描かれていたとのこと。歴史ファンには心に響く筋立てだと思われますが、信虎は隠居の身。そのため戦国時代を舞台にしているにもかかわらず、ほとんど合戦の場に絡まず、旅の行程と会話劇に尺の大半を費やしています。このあたり、低予算という制約の厳しさが画面からひしひしと伝わってきて、それでも作劇に様々な工夫を凝らしていますが、武田信玄(あるいは勝頼)を見たい、大規模な合戦シーンが見たい、という観客にはいささか拍子抜けかも知れません。

平成ガメラシリーズで知られる金子修介監督を迎えて、当時の習俗を可能な限り忠実に再現した映画であることを強調し、これまでの戦国時代物の映画とは違った内容を見せてくれるのではないか、と期待させてくれます。この宣伝文句に偽りなく、特に強烈に印象に残るのは、白塗りに眉毛なし、お歯黒という身分の高い女性の顔貌です。むしろ他の要素がかすむほどのインパクト。それでも人間の慣れというのは不思議なもので、いつしか白塗りお歯黒の谷村美月を可愛いと感じるようになり、後半に現代的なメイクで登場したときには違和感を感じたほどです。作中に登場する衣裳や茶器、書画も貴重な骨董品が多数含まれているそうで、それら一つひとつを結構じっくり見せてくれる丁寧さ。

登場人物の心中を全て台詞で表現するなど、ちょっと従来の日本映画における使い古された手法を多用していた演出は、金子監督作品だけにかなり意外でした。この点はパンフレットでも寺田農が言及していて、やっぱり現場でもそう感じていたのねー、と思いました。というか寺田農の率直さは素晴らしい。

yui