劇場公開日 2022年8月6日

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「音の映画」裸足で鳴らしてみせろ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0音の映画

2022年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

いい映画には必ずいい音があるのだけど、音が褒められることはほとんどない。とてももったいないことだと思う。この映画を観れば、映画にとって音がいかに大切かわかる。音が想像力を刺激し、僕たちを映画の世界に連れて行ってくれる。この物語は、音の持つ「想像力を刺激する」力に着目している。
目の見えなくなった母のため、男は古い録音テープを持って世界中を旅して入院している母に送る。台湾やイグアスの滝、サハラ砂漠、アンテロープキャニオンなど。しかし、本当は彼は街を出ていない。砂漠の音は陸上グラウンドの砂場で、イグアスの滝の音は近くの滝でといった風に、工夫して世界の音を作り上げていくのだ。観客はそのことをわかっているが、テープから聞こえてくる音に耳を澄ますと、たしかにそこには砂漠が広がり、巨大な滝があるかのように思える。テープの音のシーンになったら目をつぶってみるといい。世界中を冒険している気分になれる。
映画なのに、目をつぶった方がいいシーンがある。これはすごいことだ。

杉本穂高