劇場公開日 2021年6月4日

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「コロナ禍に見るべきロケーション・ムービーなのかも」幸せの答え合わせ 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5コロナ禍に見るべきロケーション・ムービーなのかも

2021年6月7日
PCから投稿

悲しい

イギリス南岸のドーバー海峡に突き出た石灰岩の絶壁が目に焼き付くイーストサセックス州シーフォード。かつて、『つぐない』(07)や『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(15)等が撮影されたこの地で、結婚29年目を迎えた熟年夫婦の破綻が描かれる。理由は、何事にも妥協を許さず、それを自分にも要求し続ける妻に、遂に夫が耐えきれなくなったからだ。しかし、妻側に全く罪の意識はない。長年のすれ違いが明確な結論として提示される夫婦の物語は痛烈だが、やがて、そこに親元を離れて暮らしていた息子が登場することで、視点が変わり、家族が歩んできた時間の尊さと、それが未来に繋がることが暗示される。要求が愛情の証だと信じる妻を演じるアネット・ベニング、安らぎを求めて冷徹な決断に至る心優しい夫をビル・ナイ、そして、親たちをふんわりと包み込む息子を演じるジョシュ・オコナー。適材適所の配役が、一筆書きできるようなシンプルな物語にニュアンス(行間)をもたらしているのは間違いない。そして、風景。岩がゴツゴツとした波打ち際や、絶壁の上に青々と生い茂る草たちが、画面に開放感を与えている。そういう意味で、これはコロナ禍に見るべきロケーション・ムービーかも知れないと思った。

清藤秀人