劇場公開日 2021年4月9日

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「登場人物全員の幸せな前途を祈らずにはいられない、吉田監督の愛情のこもった一作。」BLUE ブルー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5登場人物全員の幸せな前途を祈らずにはいられない、吉田監督の愛情のこもった一作。

2021年5月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

自らもボクサーとして長年の経歴を持つ、吉田恵輔監督による作品。
吉田監督の演出は、等身大のボクサーの描写にこだわっているため、スパーリング以外に派手な見せ場は、恐らく意図的に抑制しています。特に松山ケンイチ演じる主人公の一人、瓜田は、人当たりはよさそうだけど実際は何を考えているのか良く分からない人物として描かれている(しかもボクサーとしてはかなりの実力不足)ので、必然的に彼とボクシングを通じて関わる人々に焦点が当たっていくことになります。こうした人物描写には、どことなく『横道世之介』(2013)に通じるものを感じました。

瓜田の人物像は、吉田監督が通っていたジムの先輩から膨らませたそうですが、さすがにここまで弱くなかったそうで、観たらむしろ怒るんじゃないか、とちょっと心配しているとか…。

物語に大きな起伏がない分、作中の一つひとつの描写がとても丁寧です。特に才気溢れる後輩ボクサーの小川の奮闘と苦境は、観ているこちら側にも痛みとして伝わってくるほどの迫真性があり、一方柄本時生演じる楢崎の新人ならではのいきった感じと、徐々に才能に目覚めていく様子は、彼の驚異的な身体の作り込みもあって、強い説得力を感じました。

『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)のクライマックスを激賞している吉田監督の、一つの回答として本作は間違いなく素晴らしい一作です。

yui