「ボクシングに取り憑かれた男たち。」BLUE ブルー レプリカントさんの映画レビュー(感想・評価)
ボクシングに取り憑かれた男たち。
三者三様、ボクシングに関わる三人の男たち。瓜田は長年プロボクサーとして勝ちにめぐまれず、ジムの後輩や、ダイエット目的で通う主婦からも憐れみと蔑みの目で見られている。いい歳してこんな芽が出ないことしてちゃ駄目だよ、勝てない人に言われたくない。そんなこと、彼自信が一番よくわかっている。でもやめられない。ボクシングを始めてから鍛練し続けた自分の身体に染みついたボクシングはもはや人生の一部だ。その時間が長ければ長いほど、やめれない、やめられるわけがないのだ。もはやそれは人生の一部どころか、人生の全てだ。
いつも何を言われても感情をあらわにしない瓜田は、周りに気を配るジムでは良きムードメーカー的存在。動機が不純な樽崎に対して憤ることもなく、割り切って接する柔軟性の持ち主。しかし確かに彼は感じているのだ。何故勝てないんだ、何が違うんだと。自分の試合には勝てないが後輩の試合のために相手を研究し、そのアドバイスは的確で後輩の小川はそのおかげで見事タイトル戦を制した。しかし小川の脳へのダメージは蓄積され、日に日に悪化してゆく。それでもやめられない、やめるわけにはいかない、今やめたら今までの努力は水の泡。周りの期待も背負っている。身体が先に壊れるか、それとも高みにまで上り詰めるのが先か、自分の身体とのチキンレース。
樽崎は仕事先の女の子の気を引こうとジムにやってくる。そんな彼にも優しく接してくれる瓜田。やがて地道なトレーニングが実を結んだのか、彼はライセンスを取得するまでになるものの、相変わらずのヘタレのままだ。しかしデビュー戦を経て彼の中で弱い自分への苛立ちがやがて闘志へと変わってゆく。
第二戦で瓜田への弔い合戦とばかりに彼は相手に挑むのであった。瓜田の的確のアドバイスで善戦を繰り広げたものの、結果的には敗北する。しかし試合後の彼には笑顔があった。
勝負とは時の運、あるいは人生においてそれは一瞬の出来事だ。確かに一試合一試合勝てれば気持ちはいいだろう。しかしそれは長い人生における一瞬のきらめきでしかない。そのきらめきを拾い集めるも良し、あるいはそれよりも大きな人生における勝利を得ることも良しだ。
結局人生における勝利とは何なのか。それは自分自身が納得出来る人生、自分自身に満足出来る人生を全うするということなのだろう。そこに到達するまで人はもがき続ける。