劇場公開日 2021年4月9日

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「これこそボクシング、リアルボクサー!!!!」BLUE ブルー バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5これこそボクシング、リアルボクサー!!!!

2021年4月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

すごく観たかった作品です。

ボクシングの名作と言われる物語はいくつかありますよね。
そのストイックさと試合のドラマティックな展開と重なるような
人物の背負うモノ、人間関係などがもたらすカタルシスが
たまらない感動を与えてくれました。

けど、そんな世界は、現実の世界でだってほんの一握り・・・いやひとつまみのお話。
これまで描かれてきたボクシングドラマって、煌びやかなTOPのドラマを描いてきましたが、
本作は、そのTOP以外の大勢の名もなきボクサーたちの物語なのです。

スーパースターじゃない。すごい歴史をつくるわけでもない。
そんなボクサーは世の中にゴマンといます。

この映画で描かれる街のボクシングジムは・・・この通りなんです。
健康目的の会員さんの会費で経営を回し、時々プロ志望の選手が入門してきて
勝ったり、負けたり。(プロ育成オンリーのジムも稀にあります)
プロといっても昼に仕事をして、夕方から練習。
練習中は会員さんたちの相手したり・・・。
プロの試合は会員さんたちで応援に行ったり・・・。
プロの方々はジムの仲間なんです。
等身大のボクサーが本作の中で息づいています。

ボクシングの練習って地味なんです、ほんと。で、辛いんです。
殴り合うの、怖いんです。当たると痛いんです。腹は地獄です。
フィニッシュブローも必殺技もない。
オーソドックスな反復の練習の世界。毎日毎日の反復。
素人との違いは「質」と「密度」と「負荷」です。
メニューは大体一緒なんです。
今をときめく井上選手も基本重視の練習をすると聞きます。
世界のトップボクサーだって、ランニング、ロープ、シャドウ、バッグ、パンチングなどなど
同じ練習してるんです。

そして勝ちと負けが必ず存在します。
それも、他のスポーツと唯一違うのが「命に関わる故障が横にある」ってところです。

僕もボクシングジム通いしているのでジム仲間(プロ含め)とよく話します。
「なんでこんなことしてんだろうね?」って。
誰からも命令されてないのに、なんで苦しいことするんだろう?って。
プロは言います。当たり前のように「勝つためっすよ」そしてもう一言いいます。
「好きなんでしょうね、ボクシング」

負けるためにリングに上がるプロはいません。
勝つために練習をして、勝つためにリングに上がります。勝つって信じてます。
その気持ちよりももっと強いのは「好き」なんです。ただ「好き」なんです。
あのうまくいったパンチが、リズムが、ディフェンスが忘れられないのです。
相手と対峙したときの命懸けのヒリヒリ感が・・・。
それがあれば一気にボクシングの魅力から抜けられなくなります。

負けたくないんだ。勝ちたいんだ。
相手に、ボクシング始めるって、続けるって、勝つって決めた自分に。
プロボクサーはみんなそうなんです。

松山さんのラストシーンが痺れます。
うんうん、それ。それなんです!監督!さすが経験者!
わかるなぁ、わかります!!!

本作の俳優陣、とにかく素晴らしいです。
松山さん、東出さん、柄本さん、みんなしっかり練習されてますね。
今まで見た邦画ボクシング映画の演者さんの中でピカイチです。
特に柄本さん、一般人からプロになっていく様が見事でした。
三者三様のプロボクサーを配した物語が本当にリアル感を演出してますし
演者さんのおかげで説得力が半端ないです。

本作は地味です。でもそれがボクシングであり、多くのプロボクサーの
日常なんです。僕たちのボクシングが、ここにあります。
今、腱鞘炎で休会中ですが無性にサンドバッグ叩きたくなりました。

傑作です。

バリカタ