劇場公開日 2021年4月16日

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「世界の最先端をゆく現場ほどジェンダーレス。」約束の宇宙(そら) レプリカントさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0世界の最先端をゆく現場ほどジェンダーレス。

2021年4月23日
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鑑賞方法:映画館

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世界初の女性宇宙飛行士は本作でも紹介されるテレシコワである。彼女が有人宇宙飛行を行ったのは1963年と半世紀以上も前だ。その後も彼女の跡を継ぐ女性飛行士が数多く誕生する。体力、知力、精神力に長けた選りすぐりのエリートだけがその役割を担える宇宙飛行士、ある意味究極の実力主義が要求される職業だ。何らかの意図が働きようもない実力社会。そこに女性が一定数いることがもはや性差別が入りこむ余地のないことを証明している。むしろ実力が要求されない職業ほど性差別が激しいのかもしれない。政治家のような能力なきものがその場に居座るために。

本作は幼いひとり娘を持つシングルマザーが念願の宇宙飛行士に抜擢され、様々な苦難や葛藤を乗り越え宇宙を目指す物語で、テーマである母娘の愛と絆が落ち着いたトーンで見事に描かれている作品だった。
宇宙飛行士になる夢を叶えたい自分と母親としての自分との間で揺れ動くシングルマザーを演じたエバ・グリーンはシャーロット・ランプリングを彷彿とさせる排他的な美しさをもつ女優で素晴らしい。しかし、何よりもアナ・トレントの再来かと思えるような、母を想い続けるいたいけな娘を演じた子役の少女が素晴らしかった。彼女の経歴を調べたが、本作以外の映画出演はないようだ。これをきっかけにブレイクを期待したい。
本作はフランス映画だからか、少々弛さが目立つ内容で、中盤の飛行士同士が互いをかばうための虚偽報告はまだ許容されるにしても、終盤のあの主人公の行動は果たしてどうなんだろうか?正直、宇宙飛行士の夢を諦め、娘を取ったと解釈したのだが、その後なんのおとがめもないまま宇宙へ。
この点は観るものによって評価が別れるかもしれないが、私はやはり全体通して良い映画だったと思う。まあ、半分は娘役の子役に心奪われたせいかも知れないが。

追記

終盤の主人公の物議を醸す行動について。本作を観た人の多くは主人公の行動にリアリティがなく、作品に対して冷めた印象を持っただろう。かく言う私も正直、フランス映画ならではの弛さと前述の通り書いた。しかし、本作はあのシーンを除けばかなりリアリティのある作品だった。なのにあえて製作者側があのシーンを入れた理由を考えてみて、私なりに納得が出来た。
宇宙へ旅立つため隔離施設に入った主人公は遅れてやってきた娘との約束を果たせてないことに拘泥していた。このまま出発することは出来ない。そして彼女は大胆な行動に出る。それは我々観客からすれば、宇宙飛行士失格な行為。結局彼女は葛藤に打ち勝つことが出来ずに母であることを選んだ、と見たであろう。しかしその後、隔離施設に戻った彼女は自らの身体を消毒し何食わぬ顔でミッションに挑む。この辺りで本作への評価は当然二分された。実際、拒絶反応を示すレビューも見受けられる。しかし、製作者側にしてみればそれは予想していたことであろうし、それでもあえてあのシーンを入れたのは何故か、と言うよりも思えばあのシーンを描くために本作を製作したのではないかと今では思える。
マイクの言葉がここで生きてくる。我々はロボットではない。完璧な宇宙飛行士などいない。完璧な母親がいないように。
主人公は確かに完璧な宇宙飛行士ではなく、完璧な母親ではないかも知れない。しかし彼女は真摯に宇宙飛行士の役割を全うしようと努力し続け、その役割を充分担える存在として仲間たちに認められる存在に。同じく母親としてもできる限り娘を想い続け、娘の母であり続けた。
完璧でなくともその役割は充分担えるのだ。
彼女は娘との約束を、そして自分の夢を叶えるという自分との約束を、両方の約束を果たすのだった。
女性監督が本作で描きたかったのはまさにこれだったのだと今では思える。女性の強さ、母親の強さ。その強さの前では二兎追う者は一兎も得ずではなく、二兎追う者は二兎を得るなのかもしれない。
ちなみに宇宙飛行士の皆さんに聞いてみたい。規則を破ったことがあるかを。当然公にはできないだろうが、過去には案外、隔離施設から抜け出した人がいたりして。でも映画みたいにあんな簡単には抜け出せないかな。

レプリカント
KEIさんのコメント
2022年2月26日

こんにちは。追記の部分、同感です。特に現在のコロナ禍では感染対策に好き嫌いが別れるシーンですし、現実離れしているとも思いますが、邦題で何となく予想がつくのと、マイクの言葉を受けての行動。あのままの精神状態で行くより、踏ん切りつけ、飛び立つ、気持ちの発射ボタンだった気がします😄

KEI