劇場公開日 2021年1月29日

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「「写真」を題材とした映画として、非常に興味深い一作。」おもいで写眞 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「写真」を題材とした映画として、非常に興味深い一作。

2021年2月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

あまり良い前評判を聞かなかったので、期待値が低いまま劇場へ。しかし予想以上に良かった!『はりぼて』、『大コメ騒動』に続いて、「富山映画」の新たな傑作誕生の予感。

主演の深川麻衣は作中ほとんど表情が変わらず、終始不機嫌そうに見えますが、演出の巧拙はさておいて、職業写真家の姿として非常にリアルに感じました。確かに被写体とできるだけ親しい関係を作り、笑顔を絶やさず仕事する写真家も多いんだけど、それはその人が撮影業の「サービス業」的な側面を認識しているから。実際には撮影に没頭したり、状況判断に追われるあまり、笑顔を見せることを忘れる人も全然珍しくありません。ましてや深川麻衣演じる音更結子は、東京の夢破れて故郷に戻り、慣れ親しんでもいないカメラを手に取ることになったという設定(それにしては最初から写真が上手すぎると思っていたんだけど、パンフレットを読んだら経験豊富な写真家の方が「本気で」撮ったみたいですね。そのため、役の設定と写真の質に隔たりがでてしまっています)。前述のような職業写真家としての振る舞いが身についていないとしても全く不自然ではありません(映画として、主演女優が不機嫌そうなのはどうなのか、という評価は別として)。

もう一つ感心したのが、「写真を使った仕事の作り方」です。こういった撮影の仕事は需要はあってもなかなか仕事として成立しにくいものですが、行政組織がイベントとして行う、という設定にもとても現実味があります。前述の深川麻衣の表情の作り方といい、仕事の成立のさせ方といい、恐らくどなたか職業写真家がかなりしっかり監修として入っているのだろうと思いました。ただ、行政関連の仕事なのに、団地に飛び込みで営業をかけていくのはちょっと不自然かな、とは思いましたが…。

また吉行和子、古谷一行の演技もとても良い!吉行和子演じる「和子さん」は、佇まいといい口調と言い、「少しお節介だけど気の良いおばあさん」を絵に描いたよう。それでいながら、どの演技も「和子さん」でしかなく、それ以外の要素を一切排除している。これは「演技に見せない演技」の見事すぎる実演だと感じました。後ろ暗い過去のために独居している老人を見事に演じた古谷一行も同様。こうした演技巧者が脇を固めているおかげで、たとえ深川麻衣が笑顔を見せなくても、舞台が殆ど一つの団地に限定していようと、芝居がきちんと成立していました。

 そして撮影場所の選び方も素晴らしい。富山で『ラ・ラ・ランド』が撮れるとは!ここは撮影監督が非常に良い仕事をしていました。なかなか他の作品と較べて目立ちにくい本作ですが、これは掘り出しものの良作でした!

yui