劇場公開日 2020年10月9日

「私達があの男を赦すべきなのか、赦さないべきなのか、教えて欲しいんです。」悪党 加害者追跡調査 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0私達があの男を赦すべきなのか、赦さないべきなのか、教えて欲しいんです。

2020年10月19日
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鑑賞方法:映画館

2時間半、2時間半、の合計5時間ぶっ通し。当初の不安はどこへやら、ぐいぐいと引き込まれた。
タイトル、悪党。ゆえに、ずっと頭の中に”悪党”の単語がこべりつく。こいつか、こいつもか、一番はこいつか、こいつは違っていてくれよ、と悪党探し。見事に迷い込んだ。疑心暗鬼に駆られ、その反動で、悪党と決め込んでいた奴の独白と涙に胸をえぐられる。隙のない映画だった。
ドラマ全6話を3話ずつ、二部構成の映画に分けてある。それぞれのエピソードが深くて、重い。重大事件の加害者を追いかける探偵の話なのだから当然なのだが、東出ふんする探偵こそが負けず劣らずの重い過去を背負っているから余計に話が重くなる。が、その東出がもう抜群にいいもので、まったく辛気臭くなり過ぎない。これほどいい役者だったのか。プライベートから、演技から、声から、なにかとバッシングを受けることが多いようだが、やはりこの役者のポテンシャルはめっぽう高いのだ。やや姿勢を崩してヤツれた人物造形にはしているものの、元がスマートなだけにその佇まいは見映えがいい。なにより、佐伯になり切っている。もっとも、なり切れているのは、散々世間から袋叩きにあったからなのかもしれない。そこを擁護するつもりはないが、少なくとも彼の芸の肥やしにはなったんだろうと推察できるほど、この役が似合っていた。
そして、その東出の押し出しに負けぬ存在の松重豊。何この役者、「しゃべれども~」の頃はどこにでもいそうな長身役者だと侮っていたけど、硬派軟派変幻自在、主役脇役その立ち位置の絶妙さ、そんな近年の凄みたるや、同世代の役者陣の中では随一ではなかろうか。彼の扮する小暮所長が、対極の軟かなキャラとして存在してこそ、佐伯という人物が輝いている。
ほか、キャストの誰一人として欠かせぬ役者なし。とくに篠原ゆき子には、がっつり心を奪われた。一緒に叱って一緒に泣いた気分になれた。あ、山口紗弥加が崩れる場面もつらかったなあ。寛一郎もそれを言うか、って思ったものな。
映画が長いので、語りたいエピソードはごまんとある。その数だけ、この映画の良さもごまんとある。終盤が近づいてくると、これだけ佐伯がもがいてて、どんな結末が待っているんだよ?とだんだん不安が膨らんでいく。結末がハッピーなのか、バッドなのか、ハッピーアーなのかは明記しないけど、少なくとも、犯人に対する佐伯の落とし前の付け方は、過去の事件と決別するにふさわしいものと思えた。そしてこの映画の、ありきたりのような結末も、これでいいと思えた。

ああ、烏丸せつこの子守歌。まだ耳の奥で聞こえているよ。これって、東出に向けて歌っているようにも思えるんだよな。そして益岡徹の声が響く。「これからお前はたくさん幸せになるんだ」と。
レビュー少ないけど、いいの?この映画、観なきゃ損ですよ。「知らないけど」。

栗太郎