劇場公開日 2021年7月22日

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「犬たちを救うことで、人をも救うことを成し遂げた若者に敬意を表する」犬部! kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0犬たちを救うことで、人をも救うことを成し遂げた若者に敬意を表する

2022年9月12日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、映画館

WOWOW放送の録画にて。

ペットは人を癒し、人を励まし、人の友となり、人を支えてくれる。
然るに、人はペットの愛護を放棄し、ペットを虐待し、ペットを殺す。
なんとも納得のいかない人間のワガママに立ち向かう若い獣医師たちの物語に、胸を打たれる。
北里大学獣医学部に犬部を作って活動した学生たちのノンフィクションを原案としているとのこと。

「僕らは動物たちのお陰で食べてるんです」
「動物を救うのが獣医師の仕事ではないのか」
動物の命を救うために獣医になっても、捨てられた動物を救えない矛盾に抗う若者たち。

林遣都が演じる主人公はかなり誇張されたキャラクターだ。どんなことにも挫けない一途な精神の持ち主。動物を救うことに全精力を傾ける。
捨てられる子犬を増やさないために去勢手術を無償で施す彼の活動は、犬たちには可哀想だと思うが、更なる不幸を防止するための尊いことなのかもしれない。
しかし、動物病院を開業していてボランティア医療に没頭していたら、資金繰りに窮することになりはしないかと、余計なお世話かもしれないが心配になる。
学生時代の彼が住むアパートは、当然大家に許可を得てるとは思うが、相当清潔にしていてもあれだけの犬を室内で飼っていたら、退去時のハウスクリーニングが大変だろうと思う。これも余計なお世話。

一方、中川大志と浅香航大が演じるキャラクターの卒業後の姿にはリアリティがある。
多くの人間は、若い頃の理想に燃えていた自分の行動を「若気のいたり」などと言って、現実に順応していく自分を肯定したりする。そしてその大多数が、ギャップに苦しむことすらしないのだ。
だが、この二人は主人公を際立たせるためだけのキャラクターではなく、理想と現実のキャップに苦しむ存在として、社会の不都合を浮き彫りにする。

彼らに救われる人々や犬たちが登場する。
かつて引きこもりだった少女は、老犬のお陰で外界に出られるようになったのに、生活の重心が友人やクラブ活動に傾いてしまって老犬の最期を看取れなかったことを悔いている。
売れ残った犬たちの処分に金がかかるという理由で面倒もみずに放置している廃業したペットショップの主人には、亡き妻が残した愛犬への特別な思いがあった。
それらエピソードの一つ一つにはに人情の機微が織り込まれていて、それぞれの関係者たちが犬部をキーに繋がっていく仕掛けが秀逸だと思う。

この映画は、主人公と大学の仲間たちの10年程を描く青春ムービーでもある。
学生時代に築いた濃厚な関係は、ある意味で家族よりもお互いを理解していて、尊重し合っている関係だ。
社会に出て、異なる環境で異なる経験をしたことで、異なる判断を下した者たちが、多少の時間がかかっても、また仲間に戻れる美しい関係。
自分は学生の頃にそんな濃厚な関係を築けなかったので、本当にうらやましい。

気になったのは、十和田と東京はそこそこ距離があるはずだが、その位置関係が分かりづらかったところ。
途中から、今の舞台が東京なのか十和田なのか分からなくなってしまった。
そんなことは、映画を評価するにはどうでも良い。

kazz