劇場公開日 2020年8月7日

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「家畜の餌以下の命の哀れ」ボヤンシー 眼差しの向こうに カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5家畜の餌以下の命の哀れ

2020年9月19日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

この映画は世界一豊かな食糧大国オーストラリアの制作陣によるもの。東南アジアの漁業は約20万人の奴隷労働者に支えられている事実を発信する目的に制作されたと思われる。
カンボジアの貧農の次男が主人公。長男ばかりが依怙贔屓される毎日に嫌気がさし、自立の方法を模索するなかで、友達からタイへの密入国を手引きする闇ルートがあることを知らされる。家出してタイで一旗あげて、親たちを見返してやろうと、夜明前にブローカーのワンボックスに乗り込む。地獄の沙汰も金次第で、国境で満足な金が払えないと人身売買ルートに廻され、漁船での過酷な奴隷労働を強いられる。主人公とともに銃をもつ船長たちに一度は抵抗した女房子供持ちの男の最後は下半身と上半身ににロープをかけられ、船を走らせるとロープが締まり、胴体を絞められて殺されるというまるで古代中国の処刑のよう。主人公は船長に船のアクセルを握らされ、処刑執行人にさせられる。もし、歯向かったらお前もこうなるんだぞと、脅しでコントロールするのだ。底引き網にかかる魚は白く変色した小魚やシャコみたいなものばかり。それをドラム缶に詰める。冷凍設備もない木造船。家畜のエサの原料にしかならない。たまに、人間が食べられる大物(サバ、タイなど)が混じっていると、船長に持って行ってご機嫌をとる少年の精一杯のサバイバル術が哀れで仕方ない。船長はいう「大人より素直な子供のほうがいいな。」それを見ているベトナムからの奴隷労働者に恨まれる。奴隷どうしのリンチもある。底引き網には人間の骨も引っ掛かる。拳銃を持っているのは船長だけ。船長の仲間は二人。

 終始、主役の少年の眼差しがよかった。

カールⅢ世