「平熱で大切なことを伝えてくれる」ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから ドラコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0平熱で大切なことを伝えてくれる

2021年10月19日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

これはずるい。

Netflixの青春映画。ラブコメディ。おしゃれな作風。これだけで甘くみて手を出さない人がたくさんいるだろう。映画が好きな人ほどそうかもしれない。しかしそんな人は損をしていると思う。「ハーフオブイット」は、ぱっと見では若者向け青春映画の顔をしながら、実な普遍的なメッセージを持った素晴らしい映画で、でもそれをやっぱり若者らしいおしゃれな語り口で伝えるという、ひねくれた傑作だ。ややこしいのだ。

ただ、このややこしさが物語とも非常にマッチしている。登場する引用の数々。ややこしい状況に身を投じることになった主人公の、苦し紛れの行動が、さらに話をややこしくしていく。その中で翻弄される3人の登場人物の心の動きは、まるで全てがややこしい青春時代を思い出させてくれるかのよう。LGBTやアジア系アメリカ人と言ったややこしい原題的なテーマを扱いながらも、全然説教くさくないところもいい。常に平熱で「青春時代なんてそういうややこしいもので、それもまた悪くないよ」と肯定してくれるのだ。また表現が非常に巧みで、平熱だからと言って盛り上がりに欠けるとは思わせない。記憶に残る美しいシーンや、コミカルな演技、思い出したくなる気の利いたセリフで、ちょいちょいドキドキさせてくれる。

ハーフオブイット=もともと一つだった、自分の片割れを求める人間の愛について語るプラトンの引用から始まり、邦題についている「面白いのはこれから」というダブルミーニングのドキドキで終わる構成とその読後感も清々しい。「若者らしいラブコメディだから」という軽いノリで見る(はず)の、世界中の若者たちに、人生を前向きにとらえられる魔法をかけていると思う。それはとても良いことだ。

ドラコ