劇場公開日 2021年10月1日

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「豪華キャストの入魂の演技とアンサンブル。生活保護の問題に迫る姿勢も貴重」護られなかった者たちへ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5豪華キャストの入魂の演技とアンサンブル。生活保護の問題に迫る姿勢も貴重

2021年10月1日
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鑑賞方法:試写会

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容疑者・利根役の佐藤健は、前に瀬々敬久監督と組んだ「8年越しの花嫁 奇跡の実話」の主人公や、朝ドラ「半分、青い。」の律役など、善良で優しい青年を演じさせても十分、上手い。だが、役者としての凄みを感じさせるのはやはり、怒りや恨みといった負の感情をふつふつとわき立たせて爆発させる本作のようなキャラクターだろう。衝動的な言動の場面での深い闇を感じさせる眼は、アドレナリンが過剰に分泌されているのではないかとさえ思わせる迫真度だ。

利根を追う刑事役の阿部寛はもちろん、連続殺人事件の被害者に永山瑛太と緒形直人、第3の標的に吉岡秀隆と、比較的出番の少ない役にも主役級の演技派を贅沢に配し、彼らのアンサンブルも味わい深い。大物から旬のスターまで、瀬々監督からオファーがあれば他の仕事を断ってでも参加したいという俳優が大勢いることをうかがわせる。

一連の事件の重要な背景として描かれるのが、東日本大震災で被災して家族を失ったり生活困窮者になったりした人々の体験と、時折報道でも取り上げられる生活保護をめぐるさまざまな問題だ。俳優たちの熱演に加え、日本で生きる私たちに直接突き刺さるような鋭い社会派のスタンスがあるからこそ、本作の鑑賞が“体験”として心に深く刻まれるのだろう。

高森 郁哉