劇場公開日 2020年10月17日

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「アイヌの今」アイヌモシリ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アイヌの今

2020年10月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

アイヌコタンでのロケ、主要登場人物を演じるのもアイヌの人々で、現代でアイヌの人々の生活の実感が強く込められた作品だ。主役の少年はとても良い目をしていてとても絵になる顔だ。主人公の母親は土産物屋を営んでいる。そこに来た日本人観光客が「日本語お上手ですね」と悪意なく言う。やれやれといった表情で母は「勉強したので」と返す。きっとそういうことを言われるのは日常茶飯事なのだろう。
本作が優れているのは、価値観の衝突がしっかりと描かれているところだ。イオマンテというアイヌの伝統は、現代の価値観にそぐわない。だが、少数民族の伝統文化がグローバル社会の中で残酷だとしても、安易につぶしていいのか。それは強者の理屈に過ぎないのではないか。今の価値観が全て正しいなどということはありえない。本当の多様性のある社会は、このように必ず価値観の相容れない衝突が起こる。
僕を含め、多くの日本人はアイヌについて知らなさすぎる。アイヌのリアルを見せれくれる本作はそれだけでも大変貴重な作品だ。日本とは、日本人とは何か。そして本当の多様性の残酷さと難しさは何かを教えてくれる素晴らしい映画だ。

杉本穂高