「魂から湧き出る正義の行動を、誰が批判できようか。でも、それで死んだらダメ。」砕け散るところを見せてあげる くろしげさんの映画レビュー(感想・評価)
魂から湧き出る正義の行動を、誰が批判できようか。でも、それで死んだらダメ。
某ラノベの原作ということで、あまり期待しないで見ていたのですが、監督さんが上手く処理してくれた映画だと思いました。随所に散りばめられたラノベ特有の「痛いセリフ回し」はあったものの、そこを許容できれば良い映画だと思います。
勿論、今回も原作は未読です。自分は基本的に、映画と小説は「全くの別物」という意識を強く持っていますので、原作どうこうとイキり立つこともございません。皆が改悪といわれるものに対して、青筋立てて怒ることも少ないかと思います。
何故なら、映画と小説では見せたい部分が色々と違うのですよね。特に、映画などは、セリフで語らずに映像で伝える特徴があります。画面も動いてもいますし。故に、見逃してしまうシーンや演出も沢山あります。その反面、小説などではキャラの描写で細かく丁寧に作り込み、これでもかと重複て強調してあるので情報のボリュームが違ったりもします。しかしながら、これは「原作がラノベ」なので肝心な描写はどうだったのかなと、些かな疑問も残ります。
何よりも、映画では2時間程度しかないという尺の縛りもありますので、どうしても描きれなかったシーンも出てきてしまいます。取捨選択は避けられません。稀に、その辺りにブーブーと文句を言ってるレビュアーさんたちもおりますが、そこは監督の趣味やセンス、価値観の問題なので大目に見て頂けると幸いかと思います。
……ふう、やっと話の本題に入れる。
ざっと見た感想としては、時代背景が結構な昔の話であるというのはすぐわかりました。いじめのシーンを見ても、ちょっとやり過ぎかと思う若い人もいるとは思いますが、当時を知っているおっさんから見た感じとはしては「まあこんな感じだったな」という具合です。
最初はこれだけイジメられているのだから、余程深刻な問題を抱えているのかと思っていたら、意外と普通で、むしろ好感が持てる子で「あれ?」という感じです。しかしながら、背後に潜む少女の「父親」が問題だったことが後々分かるので、このあたりの疑問は直ぐに解消することができました。
加えて、思春期の子供というのは感受性が豊かなので、理由は分からずともその子から発せられる空気、雰囲気で、自ずと危険を察知したりもします。彼女がイジメられてた理由は様々でしょうが、そういうった防衛反応の延長だったのかと推測しています。しかしそれは「残酷性」を持ってしてでも対処するので、こうなってしまう場合もあるでしょう。
その点、主人公は非常に正義感のある好青年だと思う。ですが、後々この「ヒーロー三か条」によって命を落としてしまいます。正直、男の僕から見たら、何やってんだこいつって説教したくなりますけどね。どんな素晴らしい大義名分、価値観をがあろうと、家族を残して死んでしまったら元もこもないのですから。
ハッキリと言いたい。家族を持ったら「ヒーロー」はさっさと引退してください。
あと、少し思ったのですが、この話は「父親殺し」の側面があります。これらは、どの映画でも語られている大きなテーマの一つですが「俺の屍を越えていけ」ってやつですわ。多分、それをやりたかったのかなと、そんな感じです。
ただなんて言いますか、一見この清々しいまでの好青年って、僕はあまり好きじゃないのですよね。現在なら「正義マン」とか言って批判されちゃうのかもしれないですが、正しいことばかりを数珠繋ぎにしても、必ずどこかで採算が合わなくなってきちゃうものです。
たぶん、その「正しい」はどこかで「間違っている」にすげ変わってしまってることに本人は「気づいて」いないのです。何故なら、そこに「疑問」を一切持たないから。持てないと云っても良い。其れらは、本人の成長や環境によって、コロコロと入れ替ってゆくものではないでしょうか。だからこそ、人は常に「問い続けないといけない」のです。
主人公の父親のとった行動は確かに立派だったかもしれません。でも、結果としてはその事故に縛れられて、残された家族は一生苦しんでしまうのです。しかも、息子が生まれる日に亡くなることはねえだろうと。「当てつけかよ」って思っちゃいます。
作中では、父親の行動を代弁するかものように、息子は小説か何かを書いて昇華しているようですが、そんなに納得できるような内容だったのかなと、甚だ疑問に思うのです。母親であるハリは父親のことを聴くと、めっちゃいい笑顔になるとか、そんなとってつけたような演出も「空元気」にしか映らなかったりして悲しいだけなんですよね。
そりゃね、本人は車に取り残された少女を助けて、ある意味「気持ちよく?」逝けて、さぞかし満足なことだったでしょう。最後までヒーローとしての矜持を貫けたのだから、これでほど良い死に方はなかったと思います。ただ、こんなことも付け加えるのでしょう「そんなことはない」と。
ふざけんな。断じて、言わせねえよ。
悪いが、それこそ「身勝手で傲慢極まりない、無責任な死に方」だと思う人が多かったんじゃないでしょうか? だって、あなたが最も守らないといけなかったのは、奥さんと、これから産まれてくる息子さんだったんじゃないですか??
あなたはヒーローという価値観に縛られ、ただ好き勝手に気持ちよく生きただけの傍迷惑な父親ってことになっちゃうのですよ。たとえ、多くの命を救ったとしてもだ。人の命は平等かもしれないが、時と場合を考えろ。他人の命を天秤にかけてでも、家族サービスを優先させるような残酷さを見せつけてみろ。
あんたはな「ヒーロー」より「父親」になるべきだったんだよ。