劇場公開日 2020年11月14日

  • 予告編を見る

「人間の表情ほど面白いものはないと痛感させる」国葬 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人間の表情ほど面白いものはないと痛感させる

2020年11月29日
iPhoneアプリから投稿

怖い

11月14日に公開された本作は、コロナ禍にもかかわらずヒットスタートを切っている。ロシアを代表するドキュメンタリー作家、セルゲイ・ロズニツァによる"群衆"がテーマの3作の中の1本であるこの『国葬』が、なぜ人々を惹きつけるのか?この疑問に筆者自身の感想を以て答えたい。かつてソビエト連邦をその粛清政治によって統治したスターリンの葬儀を、無音のまま、延々の映し出す映画は、最初は少し見るのが辛い。だが、スターリンの遺体に別れを告げるため、モスクワ各地から(時には巨大な花輪を抱えて)集まってくる市民の表情を見ているうちに、人間の顔ほど面白いものはないことに気づくのだ。それも、並の数ではない。彼らはまるで蠢く昆虫にように一定の法則に則って列をなし、やがて、棺に近づくと、一目だけでもスターリンの死顔を見るために首を捻り、女性たちはハンカチで涙を拭う。それら、演出されたものではない民衆の顔、そして顔が、見る者の心をつかんで離さないのである。こんな映像体験は唯一無比。今は消滅した社会主義国家と、一部存続している独裁国家を形成する民衆心理を読み解く手がかりにもなるはずだ。

清藤秀人